空が割れた日
良く晴れたその日、空に亀裂ができたとかで、朝からSNSのタイムラインは大騒ぎだった。僕はみんなの投稿をしばらく眺めていたけれど、どうやらこの世界のどこからでも観察できるそうで、ちょっとカーテンを開けてみた。
確かに空に黒い亀裂が走っている。亀裂の向こうは漆黒だ。
「ねえ、幸平、空の亀裂見える?」
ベッドの上に寝転んでタイムラインを見ているらしい穂香が僕に尋ねる。
「見えるよ。自分でも見てみれば」
僕の言葉に、「んー、写真がたくさん上がってるからなあ」と言いながら穂香は面倒くさそうに起き上がって、僕の横から窓の外を見上げた。
「おお、写真よりでっかいね」
目を見開いている穂香の顔をみて、僕はまた空を見上げた。
「だね」
「ねえ、私の身体も昨日よりダメっぽい」
穂香は僕の手を引っ張った。首元を見せるように突き出してくる。そこには、空の亀裂と同じように黒い亀裂が走っていて、のぞき込むと何かキラキラした文字列も見えた。
「穂香のつないでるサーバちょっと不調なんでしょ。アバターの再現が間に合ってないっぽい」
「じゃあアレもそう?」
指さす先の巨大な亀裂。
「たぶんね」
僕が頷くと、穂香はため息をついた。
「もうこの世界をどうやって誰が作ったのか分かんないんでしょ? サーバも分散されすぎてて中央のサーバのマスターがどこか分かんないって聞いた」
「僕の管理する子サーバに引っ越してくれば?」
「んー、親がいるからなあ」
「どうせリアルで一緒にいるならいいじゃん」
「心配するし」
「今も週末はこうやって行き先鍵かけてんのに?」
穂香の頭を抱き寄せてつむじに口を押しつける。
「そうなんだけど。接続先なのと居住地なのはまた別なんだよ」
されるがままの穂香に、僕はふん、と鼻を鳴らした。穂香は僕の仕草など全く気にもせず、亀裂をまた見上げた。
「けど、中央のサーバ壊れちゃって、幸平ともう会えなくなっちゃうのもなあ」
という穂香の言葉を聞いた直後、僕はサーバから放り出された。暗闇だ。3Dメガネを外すと、PCにぽこん、と通知がPOPした。
サーバエラー しばらくお待ちください
窓から空を見上げた。亀裂もないし、穂香もいない。その後、夜になってもサーバは復活しなかった。
「リアルの連絡先、交換すれば良かったな」
会うのが怖くて先延ばしにしてたことを後悔しながら、僕は眠りについた。PCに光る通知には、気がつかず。
Twitterが壊れかけているのを見て、つながれなくなる人と、つながりが続く人がいるなあ、みたいなところから着想して書きました。
SF久々に書きました。やっぱりSF好きです。楽しんでいただけると嬉しいです。