皇帝は娘(精霊)の要求を拒絶する
「蓮花の精霊が…俺と蓮花の娘?」
神女は精霊の力を借りることで神力が使えると言われており、守護する精霊が多ければ多いほどその神女の力は強いとされている。
「『元』です、元御父様。私は前に御父様と御母様の娘として生まれた者。普通は第一位の精霊というと自然を操る精霊になるんだけど、御母様にはたくさんの精霊がいるし、たまにはこんな順位付けもありかなって神様が言って。まあ、御母様のこれからは私にも関わるので『神様、ありがとう』なんだけど」
「たくさんの精霊…蓮花の神力はずいぶんと強いのだな」
「神様が言うには過去最高だって」
まるで自分のことのように誇らしげな娘娘に暁明の口元が緩みかけたが、彼には未だ確認すべきことがあった。
「なぜ蓮花の未来が君に関わる?」
「神様が私をまた御母様の娘として生まれ変わらせてくれると言ってくれたから」
「では、君は俺の娘なのか?」
「神様にお願いして父親は限定しまない。つまり、御母様があなた以外の人と結ばれて生まれた娘でも“私”なの」
「蓮花は俺の妻だ、俺以外と結ばれることはない」
「それは貴方の勝手だけど…貴方の傍で御母様が本当に幸せになれるって思ってる?」
娘娘はにっこり笑う。
「自分の他に幾人も妃のいる男の傍で、女たちの嫉妬と憎悪に満ちた視線に晒される毎日。私なら神経が擦り切れそう。皇帝が傍にないときには虐められて、それでも健気に耐えて無事に懐妊。あの、その後のことを覚えていますか?今の後宮にもいて、最も高い位を与えられている麗花様が御母様にしたこと」
ひらりひらりと暁明の周りを飛びながら娘娘は言葉を続ける。
「麗花様は御母様が生んだ子を、私ですけど、産婆を買収してどこかの遊郭から買ってきた赤子と交換。自分と全く似ていない子どものに皇帝は激怒。まあ、その皇帝は他の御妃様たちから御母様が密通しているなんて事実無根な噂をその耳元で囁かれていたようだけど、そんなの無実の罪で処刑された御母様にとってはどうでも良いだと思う」
「…ああ」
「前の貴方を見ている限り傲慢な性格だと思ってたけど、流石に『愛している』『信じて欲しい』と最期まで言い続けた御母様に対して懺悔する気持ちはあったんだ」
ふふっと笑いながら娘娘は首を傾げる。
「それなら御母様の幸せがここにないことは分かるよね?私もさ、顔が良くて、背が高くて、衣食住の心配どころか最高級の衣食住を約束してくれる貴方が父親失格とは言わないわよ。でも、私はまた命を狙われ続ける生活なんてまっぴらごめんなの。命は大事よ、一度死んだ貴方にも分かるでしょ?」
「君の話の流れに同意したくはないが、命が大事な点だけは同意しよう」
「あ、良かった。『前』の貴方っていつ死んでもいいって感じだったじゃない?国のために命を賭ける、賭けろってタイプじゃなくて良かった~。意見の一致が見られたところで、お願いがあるの」
暁明はとても嫌な予感がした。
「私の幸せのために御母様をどなたかに下賜して頂戴」
「絶対に嫌だ!」
嫌な予感は当たった。
その日、暁明にライバルが誕生した。