9:この中で計画性が無いのは誰でしょうか?(複数回答可)
なんと言うことでしょう。
バカが1人減ったのにアホが1人増えました。
「あ、そうだ!
初めまして、アタシはメグルって言います。
『美花星メグル』って名前で配信してるんですよ!」
喫茶店に入店し席に着くと、すぐさまメグルは2人に挨拶をした。
機先を制された形になり、しょっつるは鼻白む。もっとも、メグルにはそんな考えなどないのだが。
「あ、あの良ければお2人のこと、教えてください!」
「うむ。ワシはイーバ。こっちがしょっつると言う。よろしくな。」
「はい!よろしくお願いします。」
緑茶と大福のセットを注文し、食べながら会話をしていく。
メグルは質問をし、イーバがそれに答えていく。
例えば、こんな感じだ。
「属性?がいまいち分からないというか、なんで5個もあるんですか?」
「うむ。良い質問だ。長くなるが良いか?
そうか。では、答えよう。
属性とはアレだ。他のゲームで言うタイプのようなものだ。うまく使えば与えるダメージを増やして受けるダメージを減らすことが出来る。下手くそならば、逆になるな。ゲームを進める上で重要なファクターだ。どれかに特化するか、万能を目指すかは人それぞれであるな。
それでなぜ5つか、と言うところだが。正確には7つあるのだ。初心者のうちはあまり気にしなくても良いのだがな。
これは陰陽五行という考え方を元にしておる。これは、古代中国の思想なんだが……。平たく言えば、世界はこの7つの要素の組み合わせで成り立っているとするものだ。本当はもう少し入り組んだ話になるが、まあそれは別に良かろう。
とにかく、属性とはその陰陽五行をゲーム的に落とし込んだものになるのだ。」
「ほへぇ~。」
イーバは元から語りたがりな性格であるためか、大人しく説明を聞くメグルを気に入り機嫌よく質問に答えていった。
メグルの方は理解しているのかしていないのか怪しげな相槌を打っているが。
そして、しょっつるはその様子を観察していた。
口を挟んだり茶々を入れたりすることをせず、イーバに回答を任せメグルの所作、反応、癖、態度を細かく調べる。
メグルは大福を細かく切り分けて食べていた。茶飲み茶碗は両手で静かに持つ。帝都で一番高級なお茶を飲んで驚くのがその再現度について。口に物が入っている時は話さない。話を聞く時に話し手を見ている。イーバが大袈裟な手振りをしても目線は釣られていない。飲食をしていない時は手を膝の上に置いている。身体の軸がしっかりしている。椅子には浅く腰掛けている。質問をする時にわずかに右に首を傾げる。よく笑うのに大口を開けて笑うようなことはない。笑う時の口元は手で隠す。
(ふぅん。この子育ちが良さそうね。それにこちらに完全に気を許したわけではない、と。)
話の合間合間に向けられるメグルからの視線、しょっつるは勿論それに気付いていた。
入店前の雰囲気から打って変わって、静かに茶を啜り大福を嗜むしょっつるにメグルは違和感を抱いていた。
しょっつるからすると、何かを感じとった様子を見せるメグルに不快感はない。むしろ、高評価のポイントだ。
メグルはよく考えて動いている。
明るく元気な振る舞いは素の性格でもあるようだが、同時にその方がより良いものだと自然に判断しているようだ。おそらく必要となれば、もっと淑やかに、あるいは愚かしく、振る舞いを変えることも出来る人間だろう。
もっと人気が出ていてもおかしくないだろうに。
しょっつるは、メグルのことをそのように分析した。
緑茶をお代わりし、メグルの質問も一段落して落ち着いた時間が流れている時、しょっつるが動いた。
「ところで、メグルさんはどうして配信者になったの?」
この質問は合図である。
見極めは最終段階に入った。
ここまではOK。
この質問の答えによって態度を決める、と予めイーバとは共有してあった。
今まで静かにメグルのことを見ていたしょっつるからの突然の質問に、面食らったメグルは目を白黒させた。
「え、えっと。……深い理由はないんです。このゲームを始める時に、そういえば配信も出来るなって思って。
父も母もあまりいい顔はしなかったんですけどね……。
その、昔、叔父さんと一緒に配信とか動画とか見てて憧れてたんです。」
「へぇ。
……ん?『このゲームを始める時』?
あんたってもしかして配信も初めて?」
「今日が3回目です……。」
思わずしょっつるは閉口した。
個人で、伝手もなく、憧れと思いつきで、有名配信者がたくさん居るようなゲームを、周回遅れも遅れで始める新人の配信者?
それで有名になれるというのか。いや、なれるはずがない。
(なんでそこだけ見切り発車なんだ……。)
しょっつるはその目に浮かぶ呆れの色を隠さなかった。
それを見てメグルはワタワタと、あれやそれや言い訳らしきものを並べ立てる。
しょっつるはそれらを全て聞き流した。
「……ん? お嬢さん、もしかしての話なんだが……。」
「は、はい!」
メグルの独り相撲を遮り、イーバが口を挟む。だが、何やらもどかしそうだ。
「SNSは使っておらなんだのかね?アカウントらしきものが見当たらない。」
「アタシ、見る専で……。それに配信専用のアカウントを作っても管理しきれないかなぁ、なんて。タハハ……。」
「……つまり、デビュー告知やらもしてないわけだ。」
「いや、ほら。アタシなんて一般人みたいなものですし……。」
「「おおぅ…………。」」
2人して盛大に頭を抱えた。隠すこともせずに大いに嘆いた。嘘だろう、と。
さすがに想像の埒外だった。
いや、だってそうだろう。
デビュー告知もせず、配信者としてのSNSアカウントも持たず、いきなりゲームの配信なんて始めて、誰が見に来るというのだ。
しかも、それを本人は気にも留めていない。
むしろ何故、配信などしているんだ。
普通にプレイするだけでいいだろ!
しょっつるは口から飛び出しかけた言葉を辛うじて飲み込んだ。
というか、少し前にメグルを高評価をしていた自分を殴り倒したい。滅茶苦茶に恥ずかしい。
誰にも知られずに墓まで持っていくことを固く誓った。
イーバは、メグルの惨状とも言うべき有り様に天を仰いでいた。
動画サイトで確認したメグルのチャンネルは、配信アーカイヴが2本と配信中が1本のみ。自己紹介動画もない。
その無鉄砲さに恐ろしさすら感じていた。
……若さってすごい。社会の歯車として磨り潰されて今に至る自分としては、到底真似の出来ない行いにある種の感動すら覚える。
3人のテーブルに、重く苦しい沈黙が満ちる。
誰も口を開かぬ無言の時間が流れ、その間にイーバとしょっつるはフレンドチャットでこっそり相談をしていた。
このメグルという少女をどうするか、という点についてだ。
《で、どうすんのよ。》
《ううむ。さすがに予想外すぎて悩むな。》
《私だって予想外よ。》
《個人的には好感が持てるのだが。》
元々2人は何か暇を潰せるようなことを探しているだけだった。
メグルに目を付けたのも、初心者丸出しの装備に配信者ということで、構ったら面白そうという軽い考えだったのだ。
構うからにはきちんと戦えるようにしてやる気はあったが、配信映えするようなムチャもやらせるつもりであった。
しかし、当のメグルはこの有り様である。
《正直この子ヤバいわよ。》
《それは否定できんな。いくらなんでも考え無しが過ぎる。》
《お父さんお母さんはなんだって止めてあげなかったのかしら。》
《いやおそらく、止めたのに勝手に配信しているものと見た。》
《あじゃぱー。》
《……お前。》
《うっさいわね。お婆ちゃんのがうつったのよ。》
《まあいい。ワシとしてはどうせなら本腰入れて育成してやっても面白いと思うのだが。どうだ?》
《あんた気に入ったのね……。そうね、プレイヤーとしても配信者としても、誰かが面倒見てあげないといけなさそうよね。》
《……同意と見て良いな。》
《そうね。乗るわ。折角なんだから全力でやってやるわ。》
《いや、お主の全力は大事になって困るんじゃが……。》
「ぐげぇ!」
突然の断末魔。
沈黙に堪えきれず俯いていたメグルは、テーブルの向かいから聞こえた声に驚き、顔を上げる。
「ヒッ!!」
思わず声が出た。
向かいに座っていた鹿男、イーバの頭部が上下逆さまになっていた。
「え!?え、なんで!?」
安全地帯である街中で突如発生した異常事態に、メグルは混乱した。
イーバの隣に座るしょっつるが平然としていることも混乱に拍車をかける。
「だ、大丈夫なんですか!?」
「大丈夫よ。ちょっとお仕置きしただけだから。」
「え!?」
「いや、驚かせてしまったな。街中だから死なぬ。安心して良いぞ。」
さらには、頭部が180°回転していながらも話し出すイーバにメグルの処理能力はオーバーフローした。
「……なぁにこれぇ。」
答えは、全員計画性が無い、でした。(与兵衛も含む)。
ご高覧くださりありがとうございます。
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・美花星メグルチャンネルについて
初配信はデビュー記念配信。虚空に向けてひたすら話し続けた1時間半。立ち絵もなく内容がまとまってないので見辛い。これを見なくても第2回配信でも似たような話をしているため、視聴の必要性は非常に薄い。
第2回配信は、『Aim the ever after』でのキャラメイクなどを放送。初回時に話していた設定を話しながらメイキングに2時間かけた。ゲームに一定以上の理解があると見ていてイライラするテンポ。メグルの人となりはなんとなく理解できるようになる。チュートリアルを少し進めたところで配信終了。トータル2時間42分。初めの1時間半は操作に慣れずオタオタしているだけのため、熱心なファンは見るべき。そうでないなら別に見なくても良い。メイキング終了後は動きがあったり、話が自己紹介からゲームの感想にシフトしたりしてそこそこ見れたものになっている。
第3回配信。チュートリアルを終わらせた。後半30分で、イーバとしょっつるという2名のプレイヤーが乱入。ゲーム的な説明があったりと初心者には意外と優しい配信。なお途中に挟まったショッキングな映像には注意が必要。ここから『美花星メグル』が有名になっていく、ある意味始まりの回。トータル1時間32分。




