7:同類項
よくゲーム続けていられるよね、この人たち。
━━━━『Information』
『ゲームにログイン中の全プレイヤーにお知らせします。
また、この通知は、メニュー画面【お知らせ】より確認することが出来ます。
《レジェンダリークエスト》『禍福は糾える縄の如し 壱』が始動しました。
詳細についてはメニュー画面【クエスト】よりご確認ください。
なお、このクエストは全プレイヤーが参加対象となる総力戦クエストになります。
皆さま、奮ってご参加ください。━━━━
届いたメッセージに、しょっつるとイーバは笑みを交わした。
ああ、面白いことが始まるぞ。
2人はそう直感していた。
《レジェンダリークエスト》。
初めて見る表記であった。
おそらくこれまでに誰も攻略、あるいは発見すらしていないはずだ。
今回わざわざワールドアナウンスが為されたことを鑑みるに、これはクエストの中でもひときわ特別なものであろう。
なにせ、《レジェンダリー》である。
こちらの表記には見覚えがあった。
アイテム等のレアリティにそれは存在していた。《イクスクルーシブ》や《アニバーサリー》といった例外を除いた頂点、それが《レジェンダリー》だ。
つまり、クエストとして頂点に位置するものと考えて良いだろう。
もう一つ気になるものがあった。総力戦クエストである。
こちらは二度見たことがある。参加もした。
一度目はしょっつるの朱雀門防衛戦指揮権強奪事件が発生した、帝都防衛クエストだ。バージョン1がいよいよ開始という節目である、先行テスト終了時に発生したイベントクエストであるあの時も、総力戦クエストという種類だった。
二度目はバージョン3の頃だ。撫養城攻略四国上陸作戦というクエストだった。
どちらも大規模なクエストであり、敵の数もボスの強さも他のクエストとは比にならないものであった。
つまり、クエストの進行は難航する。するが、その苦労に見合った報酬が得られるものと見て間違いないだろう。
メッセージウィンドウを凝視して思考を巡らせていたイーバと対称的に、しょっつるはメッセージを読み終えた後、すぐさまウィンドウを閉じてクエスト欄を確認していた。
そこには、いつの間にやら『禍福は糾える縄の如し 壱』と言う表記が増えている。
にやり、と笑みを深くした。
何も関わっていないというのに参加させてもらえるのだ。楽で良い。さらに言えば、活躍できれば美味しいところだけ持っていく格好になる。爽快で、最高だ。
何とまあ、しょっつるは性格が悪かった。リアルではうまく隠して普通のOLをしているが、ゲーム内では躊躇いなくそれを表に出す。
もっとも、とうの昔に上位層にはその性格の悪さが知れ渡っており、ある意味イーバよりも敬遠されていた。彼ら曰く、見る分には良いが付き合うと何時痛い目を見るか分からない、とのことだ。
そんなしょっつるだが、クエスト欄を読み進めていくうちにその笑みはどんどん深くなっていく。
「……くくっ、くふ、ふはははははっ!」
しまいには爆笑を始めた。
突然声を上げて笑いだしたしょっつるに、物思いに耽っていたイーバも驚きで思考から浮上する。
呆気にとられて見つめるイーバをよそに、その後5分以上笑い続けたしょっつるは、息も切れ切れに笑いの理由を説明する。
それは、クエスト説明に付記された一文であった。
この『禍福は糾える縄の如し 壱』は時間制限付きのクエストであり、未達成でも制限時間になれば強制終了する。
クエストの開始時刻は、明後日である3月18日深夜0時。終了は4月1日の深夜0時。
クエストの期間は2週間である。
詳しい内容は、撫養城拠点エリアにて解放される。
なお、このクエストは一度限りで再挑戦は不可能である。
これがしょっつるの爆笑の原因であった。
「ひぃ~、笑った笑った。……くふっ、与兵衛の奴はどんな顔するかしら。んふふっ。」
与兵衛のアカウント凍結期間は3週間だ。
しょっつるは、アカウントを停止された与兵衛がこのクエストに参加できないことに気づいて笑っていたのだ。
さすがのイーバもドン引きである。
「…………えぇ……。」
口にも出した。
それに対し悪びれずにしょっつるは言う。
「あいつの自業自得なんだし、迷惑かけられたんだからしょうがないでしょ。くふっ、戻ってきたら、どんな気持ちか聞いてやらないと。」
復帰した与兵衛にレジェンダリークエストの話をバンバンするつもりであった自分を棚に上げて、イーバは思った。
(こいつ、マジで性格悪いな。)
類は友を呼ぶ。まさしくその通りだった。
また、先人たちはこうも言った。
人の振り見て我が振り直せ。
だが、それが出来れば苦労はしないのだ。
ご高覧くださりありがとうございます。
この人たち1歩も動いてない……。
次話から動き始めます、多分。
・現在の『Aim the ever after』攻略エリアについて
『Aim the ever after』は和風世界観のゲームになります。世界観に合わせて、舞台も日本がモデルです。一部の地理に違いはありますが。
先行テスト・バージョン1では、帝都近郊(京都及び大阪、兵庫(淡路島を除く))。
バージョン2では、琵琶湖周辺と紀伊半島(奈良、和歌山)。
バージョン3では、中国地方の一部と淡路島、四国の一部(徳島県)が解放されました。
撫養城は、淡路島から四国に上陸する際に通過するルート上にあります。四国上陸のための関門でしたが、クエストを経て現在は解放され拠点エリアになっています。




