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えいむじえばーあふたー  作者: 蒸らしエルモ
『春植えざれば秋実らず』
5/32

5:愚か者三重奏

残念なことに登場人物が今のところ全員バカなんです。


「で?何か言うことあるでしょ。」

「この度はご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。」


 霜の降りた森の中で土下座をする男が1人。

 イーバである。

 彼は今回のPK襲撃について、しょっつると与兵衛に詰められていた。


「まったく……。ちょっかいかけてきそうだからって、PK連中釣り上げて潰して牽制しようだなんてバカなの?」

「この人匿名掲示板で情報操作までしてるんですけど。やりすぎなんですけど。」

「いや、ホントにすんません。」

「つーか、最悪でも一声かけるくらいしておくもんでしょ。」

「ははは、サプライズになるかなー、なんて……。」

「裁判長、被告人に死刑を求刑します。」

「判決、被告人は死刑。」

「なにとぞ、ご容赦を!」


 土下座するイーバは頭を地面に擦り付けるように下げる。鹿頭のせいで草を食んでいるようにしか見えない。

 というか、絵面が酷すぎて何をしてもギャグにしかならない。


 実際問題として、勝ったから良いもののしょっつるや与兵衛からしたらこれはほぼ騙し討ちである。

 通報、まではいかなくてもフレンド削除からのブラックリスト入りくらいはされても文句が言えないような所業だ。

 それをなんだかんだと言いながらも、土下座程度で許しているしょっつると与兵衛は甘いのだろう。彼女らとしても、イーバからの信頼や甘えを感じているからという部分もある。

 ……だがそれ以上に。


「あんた今回のは結構なムチャだって分かってるわよね?」

「はい……。」

「なら、私たちに誠意を見せるべきでしょ。」

「……誠意?」

「そう、誠意。報酬、賠償、慰謝料、ボーナス。言葉は何だっていいわ。

要は、迷惑かけた分こっちにも良い思いをさせなさいってこと。」


 実利が見込めるということがある。

 それはさながらカツアゲ、あるいは借金の取り立て、はたまたチンピラの脅迫か。

 いずれにしろ、横から見てれば碌でも無いのは同じだな、と与兵衛は思った。

 思ったのだが彼にも止める気は全くなく、むしろ彼女が言ってくれるので楽してボーナスゲットだと考えている辺り、彼ら3人は結局のところ似た者同士なのであった。


「ほら!どうせたっぷり溜め込んでるんでしょ。全部出しなさいよ!」

「いや、さすがにそれは……。」

「なに逆らってんのよ。いいから出しなさいよ!ほらほらほら!」

「ムリ!ムリムリムリ!」

「あんたに拒否権は無いのよ!さあ、早く諦めなさい!ほら、出せ!出ーすーのー!」

「やめて!つるちゃん勘弁して!」


 しょっつるはしょっつるで何やら変なスイッチが入ったらしく、イーバを踏みつけながら責め立てている。

 こいつらバカだなぁ、としか感想が浮かんでこなかった与兵衛は、とりあえず一連の様子を録画した。


♦️


 しばらくしてしょっつるが落ち着いたところで話し合い、イーバから2人へいくつかのアイテムの譲渡と、それから秘匿していたクエスト情報の開示で手打ちとなった。


 まだ挑戦していなかったボスのドロップアイテムなどをせしめることが出来て、2人はホクホク顔である。

 反対に差し出した側のイーバは、鹿頭であるというのに分かるほどにしょぼくれた顔をしていた。

 残念なことに、自業自得である。


 3人は凍りついた森から場所を移して、イーバが'ウダ'を討伐した山の麓に来ていた。


「うわ、さむっ!」

「そんな装備で大丈夫か?」

「大丈夫だ。問題ない。」


 震えるしょっつるを尻目に、いそいそと防寒装備へと切り替える2人。

 この山がイーバの発見したクエストの目的地になる。正確にはこの山のどこかにある祠がだ。


「あんた最初から巻き込む気だったでしょ!」


 イーバに噛みつくしょっつるだが、寒さからか幾分勢いがない。震えながら縮こまっているしょっつるを見下ろしていると、なんだかチワワみたいだなとイーバは感じた。

 それと同時にもうちょっと困らせたいという気持ちももたげてきた。キュートアグレッション的なあれそれである。

 かたや縮こまってブルブルと震え涙目にすらなりつつあるしょっつる、かたやそれを見ながら何やら拳を固く握りしめ震えるイーバ、二人の様子を見て与兵衛はひとまず放っておくことにした。そのうち落ち着くだろう。


 待つ間暇になった与兵衛はとりあえず掲示板で情報を漁ることにした。



 しばらくして、ようやく再起動し防寒用の装備をしょっつるへと渡したイーバと、受け取ったコートを着ながらもっと早く寄越しなさいよと怒るしょっつるのすぐ脇で、突然、与兵衛が消えた。

 唖然とする2人。

 今の消え方はログアウトではない。

 あの有無を言わさぬ消失は。


「え?BANされた?」

「……なんで?」


 戸惑う2人。

 ほどなくして届くゲーム外からのメッセージ。

 送り主は、与兵衛だ。


 なんでも、掲示板で情報を漁っているときに、暇潰しでしょっつるがイーバを踏みつけながら言葉責めにする動画を掲載したらしい。それを見たスレ民は、『エロいんだけどなぁ……』『鹿のせいでシュールギャグになってる』『エッッッッッ!?(困惑)』『なんだこの形容しがたい感情は……』『へ、変態だぁぁぁ!(ダブルミーニング)』と盛り上がった。

 そこで、静かにテンションが上がってしまった与兵衛は、画像を加工して一番エッチなのを作り上げようとスレ民と結託。

 渾身の出来のものがスレに載った瞬間に、動画は全て削除されてアカウントを停止されたと言う。

 停止の理由は、複数の規約違反であり、当分のアクセスを禁じられてしまった。ということだ。



 このメッセージを読んで、しょっつるは顔を真っ赤にし地団駄踏んで激怒した。諸悪の根元たる与兵衛の姿は既にそこになく、制裁を加えることが叶わずさらに怒った。イライラを紛らわせるために、周囲の環境オブジェクト、つまり木に八つ当たりして回った。

 バカばっかだなぁ、このゲーム。イーバはへし折れ吹き飛ぶ木を眺めながら呆れていた。

ご高覧くださりありがとうございます。

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