4:美味しく頂きました
長い間放置していてすみません。
こちらについては今後も不定期ですが、更新を続けていきたいと考えています。
ガサガサと音を立てながら、イーバ、しょっつる、与兵衛の3人を囲むようにプレイヤーたちが姿を表す。
彼らは皆一様に武器を手にしており、素手に臨戦態勢であった。
どう見ても敵対的である。
それも当然のこと。
何故ならば、彼らはプレイヤーキラー。プレイヤーを狩ることを主目的にゲームを楽しむ者たちだからだ。
「……8人か。相手をしてやる。」
イーバが重々しく告げる。与兵衛はどの口が言ってんだ、と呆れた目を向けた。
取り囲むプレイヤーたちに動揺が生まれた。
何故なら姿を見せたのは6人だけ。
すなわち。
「隠れてんのが2人いんのね。面倒な。」
策が既にバレているということである。
「やれっ!」
先手を取られてはまずいと判断したのだろう。
PKのリーダーらしき刀使いがそう指示を出すと同時に、状況が動き出す。
PKたちは取り囲む3人に対し距離を詰め、与兵衛は腰に提げた刀を抜き、しょっつるは無手のままPKめがけて吶喊した。
逆に襲いかかって来たしょっつるに、思わずPKの1人が立ち止まり迎え撃とうとする。
「馬鹿っ!止まるな!」
刀使いが叫ぶも、もう遅い。
5メートルの距離は、現実であれば身を守るのに役立つであろう。
しかし、ここはゲームの中。その程度の間合いは、しょっつるにとって無いに等しかった。
「【閃空】!」
一瞬で間合いをゼロにし、懐に潜り込んだしょっつる。彼女はそこからさらにスキルを繋げる。
「【飛燕翔】!【炎空】!【紅蓮槌】!」
流れるように跳び膝蹴り、滞空したまま脚に炎をまとった回し蹴り、燃え上がったままにストンプと、続けざまにスキルを連携させていく彼女にPKたちは一瞬気を取られる。
生まれた一瞬の隙、そこでイーバが術を編む。
鹿の角が、輝いた。
辺り一面が塗り変わる。
深い森が極寒に侵される。
バキバキと音を立てて木々が凍りつき、大地は真っ白な霜に覆われ、吸い込む空気は喉を切りつけるような冷たさへと一瞬で変化した。
PKたちは驚きに包まれる。
「くっ、環境ダメージに……」
「詠唱は!?」
「敏捷低下!?」
「ふははっ!それから凍傷の判定もだ!」
どよめき、動きが止まったPKたちに与兵衛が仕掛けた。
鋭い踏み込みから、スキルを使わずに淡々と相手を斬りつける。
首や脇、手首といった防具の隙間を的確に狙うその技術に、PKたちは翻弄される。
「落ち着け!火力は低い。人数差で押さえ込め!」
PKのリーダーが指示を出した瞬間のことだ。
鹿の角が、輝いた。
咄嗟にリーダーはその場から飛び退いた。
その一瞬の判断が明暗を分けた。
突如として眼前に生えた氷の槍。それは先ほどまでリーダーのいた場所から飛び出してきていた。
「なっ!?」
そこら中に氷の槍が突き立っていた。仲間たちの多くは手傷を負わされ、運の悪いことに体を貫通している者もいた。ゲームであるから貫通したところで即死はしないが、体を貫く氷の槍によって継続ダメージと拘束が発動して状況は一気に傾く。
「FF無いのは楽でいいなあ!」
「それでもビックリするんだけど!」
「声くらいかけなさいバカ!」
「奇襲ゆえ致し方なし。ってことで一つ勘弁してください。」
そうやって文句を言いながらも、与兵衛としょっつるは敵にどんどん攻撃を仕掛けていく。
PKたちはどんどん戦力を削られていった。
最初の突撃で1人、氷の槍で1人、動きが鈍ったところを狩られて2人、数的アドバンテージはほぼ失われていた。
奇襲役で隠れていた2人が最初から感知されていたのも痛い。その上、氷の槍はその2人も的確に狙っていた。結果として、炙り出される格好で参戦を余儀なくされた2人は大した活躍も出来ずに追い詰められている。
リーダーが歯噛みする。ここは撤退すべきか。
消耗はさせている。しかし損耗もしている。
トータルで見れば既に赤字なのだが勝てればそれも僅かなもので済み、撤退した時に失われる面子やら何やらを天秤にかけると判断に迷うものだった。
その時。
鹿の角が、輝いた。
それを目にした時、リーダーは自然と叫んでいた。
術の発動に合わせて角が発光していることは既に見抜いていた。
「攻撃来るぞ!」
一斉に間合いを空け、回避をしようとするPKたち。
彼らの練度は低くない。いやむしろ、連携も指示への反応もしっかり仕込まれている熟練のPKである。そんな彼らは、今回もきちんとリーダーの指示に従った。
「鋭いのぉ!」
イーバが笑う。
攻撃は、来なかった。
「……しまっ!?」
代わりに彼らのもとへ飛び込んで来たのは与兵衛としょっつるの2人だ。
大きく隙を晒したPKたちを、一撃で仕留める。
残りはリーダーともう1人だけになる。
(スキルを使わずに殺せるHP残量ではなかった……。くそっ、さっきの光は何かしらの支援か。)
内心で愚痴りながらリーダーは自分だけでも助かろうと、意識を逃走にシフトする。
そこで目にする。
鹿の角が、輝くのを。
「っまずい!」
咄嗟に、リーダーは飛び退いた。
飛び退いてしまった。
一度それで回避できてしまったという成功体験が、彼にそれを選ばせてしまった。
ドンッ、と背中に鈍い衝撃が走る。振り向くとその正体が分かった。木だ。
そう、ここは元々深い森の中。氷に覆われ、氷点下にまで気温が下がったからと言って、生えていた木が無くなったりなどしていないのだ。
顔を青くしながら彼は慌てて正面に向き直る。
満面の笑みを浮かべたしょっつると、気だるげな与兵衛がそこにいた。
残っていたPKも既に仕留められてしまい、その姿はどこにもない。
もうリーダーに逃げ道は残されていなかった。
詰みだ。
「……くそっ、参ったね。これは。」
与兵衛の刀で腹を割かれ、しょっつるのスキルによって頭部を爆砕されたPKリーダーは、その残ったHPを一瞬で失い、輝く粒子となって消えた。
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