32:より良き終わりと始まりを
━━━━『Congratulation!』
『全プレイヤーの皆様に【お知らせ】いたします。こちらの情報は、メニュー画面【お知らせ】よりいつでも確認が可能です。
本日、午後9時18分に《レジェンダリークエスト》『禍福は糾える縄の如し』のボスモンスターである『四国吉野三郎』の分体が撃退されました。
MVPはプレイヤー『イーバ』でした。
ラストアタックはプレイヤー『アルテリオン』でした。
おめでとうございます。
これにより『禍福は糾える縄の如し 壱』の進行は停止されます。
クエストは分岐し、《レジェンダリークエスト》『春蒔かざれば秋実らず』へと移行いたします。
こちらのクエストは、全プレイヤーが参加対象の常駐クエストとなります。皆様、奮ってご参加ください。
『禍福は糾える縄の如し 壱』の進行停止に伴い、拠点エリア『撫養城』での防衛戦は終了となります。お疲れさまでした。
『撫養城』内に『決戦の記念碑』が出現します。触れることで、『三郎様』の分体と戦闘出来る『あなたの決戦』と、今回の戦闘状況を再現した『あの日の決戦』とを選択して挑戦することが出来ます。詳しくは、『決戦の記念碑』よりご確認ください。
また、クエストの進行停止によりキーアイテム『三郎様の力の欠片』は消失し、新たにフィールド徘徊型ボスモンスター『力に呑まれし成れの果て'清一郎'』が登場します。
初討伐ボーナスもございますので、頑張って捜索をしてみてはいかがでしょうか。
プレイヤーの皆様、お疲れさまでした。
これからも『Aim the ever after』をご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
<報酬>
⚫全プレイヤー共通
・金貨10枚(100万クレジット)
・武具強化用素材(銅)×5
・防具強化用素材(銅)×5
⚫防衛戦参加プレイヤー
・金貨50枚(500万クレジット)
・武具強化用素材(銀)×10
・防具強化用素材(銀)×10
・三郎様の龍鱗×5
・三郎様の角片×3
・龍の力の欠片
・プレゼントアイテムボックス(金)
⚫『力の欠片』情報獲得プレイヤー
・金貨30枚(300万クレジット)
・武具強化用素材(銀)×5
・防具強化用素材(銀)×5
・龍の力の欠片
・プレゼントアイテムボックス(銀)』━━━━
♦️
「……おししょーが、やらかしましてね。」
2日後、〔アカシ〕の港でメグルが配信を始めた。
彼女の顔には困ったような笑みが貼り付いていた。笑いたいけど笑顔になりきれないもどかしさが浮かんでいた。
「あれだけ派手にやらかせば仕方ないかもしれないですけど、アタシに問い合わせようとするのは止めて欲しいっすよね。」
幸い、と言って良いのかは疑問符が付くが、メグルのフレンドはそれほど多くない。
野良プレイヤーで仲良くなった者よりも、配信の視聴者の方が割合的に多いくらいだ。そして、アストロノーモたちは配信で明かされるだろうと予測して大人しくしていた。ファンの鑑である。
問題は、ファンでもフレンドでもない者たちであった。
繋がりがなかったというのに、街中で質問責めにしようとしたり、配信のアーカイブに中傷するコメントをしたりする者が出た。
迷惑プレイヤーは都度運営に通報して対処し、中傷コメントは記録を取った上で削除し、悪質なものは法的措置の用意もした。
メグルはそれら問題が起きていたことを正直に話し、弟子であっても自分がイーバの能力を明かすことは出来ないこと、明かすつもりもないことを説明した。
この説明の間にも、ノーモのコメントに混ざって文句、『チート』だの『教えろ』だのとチャット欄に書き込まれる。これらのコメントには、配信に姿を表していないイーバが、裏で削除通報を繰り返していた。
「だいたい、おししょーが大暴れしてたのアタシ見てないんすよ!」
メグルが虚空に向けて叫ぶ。
そう、メグルは戦いを見ていなかったし、知ったのも全てが終わった後だった。
しょっつるからメッセージで、『これから大変なことになりそうよ。』と伝えられ、ようやくSNSで大騒ぎになっているのを知ったのだ。
「そんなアタシが詳しいわけないでしょ!」
イーバは配信をしていなかったし、録画もしていなかった。
一応、後からどんな感じで戦ったか話は聞いていたが、見るのと聞くのでは大違いだ。
そして戦闘の様子は、運営が公開したPVで確認が出来た。
なんならメグルも、そのPVを見てようやくとんでもない戦いだったことを理解したくらいだ。
「おししょー自身は大したことしてないみたいに考えてるし!
あの人自分の弱点見つけて喜んでるし!
いつも説明したがりな癖に、ムカデになって真正面からぶつかり合ったよ。強かったよくらいしか説明してくれないんですよ!」
たった2日だが、面倒な目に遭ったメグルは憂さ晴らしとばかりに捲し立てる。
無理もないことだ。
自分と関係ないところで起きていた厄介事なのだ。それを説明しろ。隠し事するな。知っているんだろ。独占するな。と責め立てられるのだ。顔も見たことのない赤の他人に。
まったく嬉しくない話題のなり方だ。
「ってことで、アタシはなんっにも知らないことをここに表明するんで、これから先今回のことを聞いてきた奴は問答無用で運営に通報します!
この配信見てないとか知りません!」
メグルの堪忍袋の緒は、とうの昔に切れていた。
なれば後は、実力行使だ。
ことの元凶たる彼女の師匠はメグルを守るために、運営からの要請に応え情報開示を認めたり、誹謗中傷対策に弁護士を雇ったりと動いていた。
運営側も今回のメグルの置かれた状況は把握している。イーバが要求を呑んだこともあり、可能な限りの協力を約束していた。
「とまあ、こんな感じで色々してるんで、バカな真似はホントに止した方が良いですよ。
まさか、おししょーが自分の戦闘スタイルの体験を許可するなんて思いませんでしたもん。」
そう、イーバは運営からの要請に従い、自身の情報を他プレイヤーに明かすことを認めたのだ。
もちろん、運営側も配慮してイーバの切り札であるいくつかのスキルと称号の詳細は秘匿したが、名称まで開示した。
それが、『撫養城』にある『決戦の記念碑』で体験できる『あの日の決戦』モードである。
イーバの身体と、保有するスキルを扱って『三郎様』と戦うことが出来るこのモードは、イーバ自身にとってメリットが1つもない。
それでも受け入れた。
事態の沈静化を図るためだ。
疚しいことも、恥じるべきことも何一つない、という意思表明である。
大半のプレイヤーは、このイーバの情報開示と労せずに報酬を得られたことに満足して、追求しようという気は失っていた。
それよりも、新たに解放されたコンテンツや解放された四国南部の攻略に手をつける方が大事なのだ。
もともと、プレイヤーの多くがイベントを面倒に思っていたのだ。
それを解決して、報酬を獲ってきて、情報まで渡してくれるのであれば、拘り続けるのも愚かなことだと考えた。
メグルのゲームでの日々が落ち着くまでもう少しだ。
♦️♦️
「もしもし、有田かい。今、大丈夫か?」
イーバ、もとい岩井洋一はとある人物に連絡を取っていた。
「いや、そんな怒るなよ。後始末押し付けたのは悪かったさ。済まなかったよ。」
「うん、でもなあ。あそこで私が居たところで、大して役には立たなかったろう?
大手クランのリーダー様のお力が必要だったんだよ。」
「……あっさり認められるとそれはそれで釈然としないな。」
「まあ、その通りだ。それより今度久々にメシでも行かないか?」
「ん?『どういう風の吹き回しだ』って?
まあほら、ちょっとした心境の変化さ。
……仕事辞めることにしたんだ。」
「ふははっ!驚いたかい?
ずっと悩んでいたんだ。で、今回あれだけ愚痴を吐き出したろう?それでね、なんだかスッキリしたんだ。」
「そう言うなよ。私だって悩みくらいするさ。
でもまあ、仕事辞めても死なないだろ?」
「そうだな。それで私の新たな門出を祝って食事でもどうかってね。」
「『自分で言うな』?
ふふっ。まずは自分が祝ってあげないとさ。
で、いつなら空いてるんだ?」
「オッケー、その日にしよう。じゃあまた。」
通話を切り、椅子の背もたれに寄りかかりながら、イーバが呟く。
「『楽しむことこそ人生だ。』
……今からでも遅くないだろ?」
ご高覧いただきありがとうございます。
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これにて、『Aim the ever after』のお話は一区切りです。拙い話でしたが、お付き合いくださりありがとうございました。
一旦完結としますが、続きのクエストなどの構想はありますので、どうかお待ちいただければと思います。




