3:三人と釣り
「うむ、この辺りならばよかろう。」
そう言ってイーバが足を止めたのは、深い森の中での事だった。
ここは、数日前にイーバがボスエネミー白樹巨鹿'霊峰の番人'ウダを倒した山の麓のエリアだ。バージョン2で追加されたエリアでありながら攻略が難しく、バージョン4が今回追加されるまで最前線だった場所だ。今でも攻略した者は少なかった。必然、来られる者は限られていた。
「あんた、その喋り方どうにかなんない?
いちいち大仰なのよ。」
「うむ……。いや、ゲームだからロールというか、現実忘れるのに口調変えてたんですよ。」
「……その、それは悪かったわ。
やっぱり今まで通りで良いわ。」
「おお!それはかたじけない。理解いただき感謝する。」
しょっつるがげんなりとした顔をするが、イーバは全く気にしない。
与兵衛は二人のやり取りを聞きながら、別のところに注目していた。イーバの頭、鹿の角である。
「イーバ、その装備なんだか変じゃないですか?というか変ですよね?」
与兵衛はそう言い、イーバの頭を指差す。
その指の先には、鹿の角に引っ掛かった木の枝があった。
「何で木の枝が残っているんです?」
あっ、としょっつるが声を上げる。
このゲームでは、装備によるフィールドオブジェクトの破壊は可能だが、その時アイテムとして残らないのである。それがこの世界での法則。今のイーバの頭の上は、その法則に逆らっている。
「ふははっ!気付かれたか。
これこそが新たに追加された要素。『式体改造』システムである!」
「うるせーよバカっ!」
森へと響く大音声に、しょっつるがキレる。与兵衛はそれらをすっぱり無視して目を輝かせる。
このゲーム、『Aim the ever after』ではプレイヤーは式神という立ち位置だ。式神は異界の戦士を術式によって召喚したものであり、その姿形は人とよく似ている、という設定がある。
それ故に、これまで式神のアバターメイキングの自由度は低かった。
体格すら変化させることは出来ず、異形を作り上げることは不可能であった。
「式神なら化け物にしたい!」という一部ユーザーの声は黙殺されていた。
だが、それもかつての話。
バージョン4にアップデートされた今、追加された新要素『式体改造』によって、異形ファンは歓びに包まれた。
『式体改造』はその名が示す通り、式神の体を改造するシステムだ。
利用するには都の陰陽寮本舎で特定の陰陽師に声をかければいい。
ただし、『式体改造』には条件がある。
1.自身が単独討伐した怪異を対象にすること。
2.その怪異の脱落武装、ドロップした装備を術式に使用すること。(なお、アイテムはロストする。)
3.対応する神秘の欠片を所持していること。
4.式神としてのレベルが50を超えていること。
これらをクリアすることで、選択した部位を異形化出来るのだ。
異形化した部分は、判定が装備から肉体に変化するため、解除することはほぼ出来ない。
イーバはこの『式体改造』システムを既に適用していた。
改造に使用したアイテムは、二つ。
一つは、ウダのドロップアイテムである白樹巨角の鹿頭面。これを使って改造したことで、イーバの頭部は鹿になった。
『式体改造』をしたことで、鹿頭は装備アイテムの区分から外れてアバター判定になったため、フィールドオブジェクトを破壊した際に採取扱いで木の枝などが残っていたのだ。
「それからもう一つについては秘匿させていただく。」
それまで大きな声であったのをひそめ、鹿頭ながら真剣な面持ちでイーバが言った。
詳しく聞きたいところであるが、しょっつると与兵衛の二人も頷いた。
何から何まで説明する義理はない。奥の手は誰にでもある。
「……ところでさぁ。
何でこんな森の中に来たわけ?」
「おお!それはだな……。」
「勿体ぶってないで答えなさいよ。」
「……あー。なんだ。簡単に言えば釣りだよ。」
「はあ?」
「いや、その、悪いことをしたとは思っている。」
「……あんた、まさか囮にしたの?」
しょっつるの問いにイーバが答える間もなく、三人を囲むように気配が生まれる。
「後で全部吐きなさい!」
「しょっつるに同意!」
「まじすまん。」
三人を囲む気配が動き出す。穏やかな様子ではない。
三人は武器を手に取り、身構えた。
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