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えいむじえばーあふたー  作者: 蒸らしエルモ
『春植えざれば秋実らず』
26/32

26:女の子が鹿男に9回打ちのめされる配信


 『稽古』2本目。

 正面から斬りかかり、3度錫杖と撃ち合う。4度目に振るった薙ぎを、バックステップで躱されて錫杖を喉元に突きつけられて敗北。


 『稽古』3本目。

 ステップを交えて何度か斬り合う。

 刀をいなされ体勢を崩されたことに焦り、咄嗟に突きを放つも、錫杖の遊環に切っ先を絡めとられる。そのまま首筋に手刀をそえられて敗北。


 『稽古』4本目。

 【歩法】スキルに含まれる【ファントムステップ】で撹乱を狙うも、全く効果無し。幻影は無視され、間合いを潰され刀を振るうことなく敗北。

 師が言うに、「後ろに跳ぶ体勢をとるのが早すぎて、惑わす効果が半分以下だ。それから【ステップ】系は飛び道具と組み合わせることで脅威となる。」と。


 『稽古』5本目。

 【火行術】を剣戟の合間に挟むことで隙を潰すことを考えた。が、ステータス差により術は脅威にならず失敗。苦し紛れの振り下ろしを投げ飛ばされて敗北。

 師が言うには、「術に意識を割きすぎて、強みの剣術が疎かになっている。術は補助だと割り切れ。」とのこと。


 『稽古』6本目。

 剣戟の最中に【ファントムステップ】で幻影を放ち、隙を作ることに成功した。師の錫杖が空を切ったところを狙い袈裟斬りにしようとするも、手首の返しだけで投げ放たれた錫杖を躱すために中断。意識が逸れた隙に腕を取られて投げ飛ばされて敗北。「悪くない攻めだった。」と褒められる。


 『稽古』7本目。

 【ライトニングステップ】からの速攻を仕掛けるも、師に読まれておりカウンターで顎を叩き割られ死亡。『稽古』モードのためにその場で復活。「調子に乗ったな。」と笑われる。


 『稽古』8本目。

 【ファントムステップ】からの【火球】のコンボで師の動きを牽制。【ライトニングステップ】、【ミラージュステップ】で回避や【火散弾】で遠距離攻撃など慎重に攻める。が、こちらのスキルのCT(クールタイム)が合わなくなり、手詰まりになる。

 正面から悠々と距離を詰める師に手も足も出なくなり敗北。「ビビり過ぎ。」と呆れられた。


 『稽古』9本目。

 落ち着いて、剣戟を主体に攻め手を組み立てた。【ステップ】系は回避、【火行術】は牽制と割り切って戦った。戦闘は安定してそれまでで一番長く撃ち合えたが、回避と牽制どちらにするか悩んだ一瞬の隙を突かれ足払いを食らい転倒。そのまま錫杖を突きつけられて敗北した。



「……おししょー。強すぎません?」

「ふははっ!嬉しいことを言ってくれるが、ワシは近接型じゃないからな。

このゲームの中での近接戦闘になると……。そうだな、思い付く限りで20人くらい上はおるぞ。」


 岩だらけの海岸に寝そべりながらメグルはぼやく。

 それを豪快に笑い飛ばしたイーバに、メグルは呆れた目を向ける。

 この鹿男の言い草では、ほぼ全プレイヤーに近接戦闘で勝ちの目があると言うことになる。後衛職のクセに出鱈目にも程がある。

 と、メグルの中でとある疑問が生まれた。

 隣に座り込んだ師匠に、この機会に聞いてみることにした。


「おししょー。もしも全力全開で戦闘するとなると、おししょーがもしかして最強だったりしますか?」

「んんっ?」


 メグルの質問に首を捻るイーバ。

 しばし考え込むと、彼は口を開いた。


「そうだなぁ……。いや最強に近いところまでは行けるだろうが、多分違うな。ワシじゃない。」

「マジですかっ!?」


 メグルは勢い良く身体を起こした。

 師の強さを目の当たりにしていたメグルにとって、イーバの言葉は驚きの塊だった。

 これより強い人間が居るなんて信じられない、そんな心境だった。


「特定の条件下なら、ワシはまず負けない。それくらいの力はある。

だが、それを最強と呼ばんだろう。

いつでも勝てる。どこでも勝てる。誰が相手でも勝てる。勝つ可能性がある。それが最強だ。

ワシは特化型だから苦手な相手には弱い。いや、それでも大抵の相手なら押し潰せるが極まった相手には勝てぬ。

絶対勝てない相手がいる最強などあるものか。」


 師の嘆きにも似た真摯な答えに、メグルはただ頷くことしか出来ない。

 確かに師の言葉には一理ある。

 勝てない相手がいる者を最強とは呼べないだろう。しかし、勝負は水物。絶対など無いはずだ。


 そうイーバに伝えると、彼はその鹿の頭を横に振った。


「勝負は水物。その通りだ。

だが、ここはゲーム。メタることが出来る。」

「メタる?」

「対策すると言うことだ。有利なタイプ、作戦で固めると言えば分かりやすいか。」

「なるほど……。」


 現実との違いがここでも生まれてくるのか、メグルは納得した。

 確かに有利な相性で来られては不利だ。

 それでも師なら一方的に負けはしないだろうという信頼はあるが、厳しい戦いになるのもまた確実なことだ。


 座ったままのメグルに影が差す。

 見上げるとイーバが立ち上がり、その影がメグルの方に伸びていた。


「でもまあ、それはワシにとっても同じことだ。狙ったわけではないが、絶対に有利な相手がいる。」

「そうなんですか?」


 海を見たままのイーバに問う。


「そうだとも。

例えば。……今回のイベントとかはワシにとって有利だな。」

「マジすか。えっ、じゃあ参加しなくて良いんですか?」

「その内遊びには行くさ。ワシはエンジョイ勢なんじゃ。その時には、そうさのう。ワシの最強を見せようか。」


 ぐいっと背を伸ばしながらイーバが言った。

 どこか楽しげな様子だ。

 イーバには確信があった。

 レジェンダリークエスト『禍福は糾える縄の如し 壱』がこのまま終わっていく筈がない、という確信だ。

 参加しているプレイヤーたちは、各々がその持ち得る力の全てを注いでクエスト達成を目指すだろう。統制がとれずとも、それは大きな力になる。

 期間もまだある。一波乱起きるのに十分な長さだ。

 イーバの想像した運営の思惑を覆そうという動きもあるだろう。

 きっと何か動きがあるはずだ。

 全力で暴れる機会が直にやって来る。


 イーバはその時が来たら、出し惜しみをせずに皆の度肝を抜いてやろうと決めていた。

 その皆の中には、当然弟子であるメグルも含まれる。どんな顔をするのだろうか。想像するだけでも愉快だった。


 メグルは師の背中を見て、碌でもないことを考えていると直感した。

 しかし彼女に止める手立てはない。

 とりあえず、アタシは怒られないと良いなと願うことにした。

ご高覧くださりありがとうございます。

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・第8回配信の評判

NPC説教耐久だった第7回配信はそれはもう低評価の嵐でしたが、第8回ではきちんと師弟らしいことをしているためそこそこ評判になりました。もちろん、メグルちゃんがボコられていることに不満を抱くファンもいましたが、イーバによって掲示板から誘導された者たちは、格闘技術であったりスキルの対処であったり見るところがあったため喜びました。また、メグルちゃんの上達速度が注目され、イーバが師であることもあり考察検証班や一部の前線組が配信を見始めるようになりました。

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