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えいむじえばーあふたー  作者: 蒸らしエルモ
『春植えざれば秋実らず』
25/32

25:鹿曰く、「威厳を取り戻したかった」と。

炭酸相手に煮え湯を飲まされるランクマッチが辛いので更新です。


「やあ、メグルちゃん。今日も元気かい?」

「どうも、おししょー。昨日の今日でなんでそんな堂々としてるんすか?」


 メグルは目線を地面に落としたまま挨拶した。


「そうか、昨日のお説教が後を引いているようだな。」

「ええ、まあキツかったすね。あんな怒られたこと自体久しぶりでしたもん。」

「ふむ。だが気に病む必要はないぞ。」


 イーバの言葉にメグルは顔を上げる。

 その顔には怪訝そうな表情が浮かんでいる。


「……どうしてです?」

「昨日の説教は、罪に対する罰だ。なればワシらは、既に禊を済ませておると言うことになる。反省は必要だが悔やむ必要などない。」

「……それはそうなんでしょうけど。でもおししょーが言うのはなんか違う気がします。」


 憮然とした声でメグルは言う。

 イーバは笑って誤魔化した。


♦️


「どうも皆さん!『美花星メグル』です!

昨日は色々失敗しちゃいましたが、今日は気をつけていきますよー!」


 第8回配信が幕を開けた。

 場所は〔アカシ〕近郊の海岸、昨日海に飛び出していった場所である。

 ゴツゴツした岩と少しの砂がある足場の悪い場所だ。


「まあ、例によって今日も何するのかをアタシは知らないんですけどね。たはは。」


 配信チャット欄では、軽くツッコミをするコメントが流れていく。

 雰囲気が悪くないことに、イーバはバレないように胸を撫で下ろす。


「で、おししょー。今日の予定は?」

「やあ、諸悪の根源だよ。

昨日の今日で騒ぎをまた起こすのは自重して、師弟システムを利用して修行をしていくぞ。」

「おししょーでも反省するんですね。」

「遠慮が無くなってきているのは好ましいが、調子に乗るな。修行のレベル、アップ。」

「うええぇ。」


 イーバの登場に、チャット欄は一斉に草を生やす。想定より反応が良い。

 イーバがチャット欄を確認している間に、メグルが進行していく。だいぶこなれてきた感じがある。

 時折、得意気な顔でイーバを見てくるがそれは無視した。


「……というわけで、成長したアタシのステータスを改めて確認していきます。おししょーにもまだ見せてないですからね。」


 ステータス確認をすることは先に決めていた。

 成長の度合いによって、この後の予定が多少変わってくる。……まあ、先ほどのメグルの失言によってほぼ確定はしているのだが。


「それでは、どーん!」


==================================

<名> メグル

<存在格> 34

<職業> 刀士

<副職業> 術剣士

<称号> 技巧派


<能力値>

⚫筋力値  【99】

⚫知力値  【50】

⚫耐久値  【40】

⚫精神値  【40】

⚫抵抗値  【45】

⚫行動値  【99】

⚫幸運値  【16】


⚫保有強化値 【0】


<技能>

⚫【剣技:31】   ⚫【行動値強化:24】

⚫【火行術:28】  ⚫【悪路踏破:16】

⚫【筋力値強化:29】⚫【歩法:17】

⚫【気配察知:26】 ⚫【集中:10】

⚫【鑑定:28】   ⚫【瞑想:6】

⚫【一刀両断:3】


==================================


「ふふーん、どうです?強くなったでしょう。」

「……へぇ。」


 イーバの口元が歪む。

 メグルのステータスには、バランスを取りつつ強みを活かそうという考えが見える。個人的な欲を言えばもっと尖らせても良いと感じるが、これなら修行のレベルは落とさなくて良さそうだ。


「おししょーが悪い顔をしてる……。まずった?」

「いやいや、良くできてるよ。」


 イーバはメグルの呟きに答える。

 この調子ならそれほどかからずに前線レベルまで成長しそうだ。そう感じ、イーバは笑みをこぼす。

 メグルはそんな師を見て震えていた。

 絵面が悪魔としか言いようがないからだ。


「刀での近接戦闘を補助するようにしたんだな。」


 メグルのステータスへの感想と評価を、イーバは語り始めた。


「それが正解だろう。メグルちゃんのプレイヤースキルは相当なものだ。活用するに越したことはない。

足元をキチンと固めているのも良いな。足場に注意を割く必要性が減るとそれだけで楽になる。

瞑想は継戦能力向上のためか。あって損はないな。集中に一刀両断で火力の底上げをしているのも良い。」


 頷きながらイーバはメグルを褒める。

 珍しくからかいや何かしらの思惑の無い素直な称賛にメグルは照れる。


「これなら安心して修行できるな。」


 直後、イーバの一言で緩んでいたメグルの顔が引きつる。


「……するんですか、修行。」

「するぞ。師弟システムを利用して『稽古』をつける。基本このゲームのPVPは旨味がない。経験値は入らないし、アイテムを賭けることも出来ないからだ。だが、『稽古』ならば違う。弟子プレイヤーに経験値が入る。」

「えっとじゃあ、PKも旨味は無いってことですか?」

「そちらは別枠でカウントされている。PKなら経験値の獲得も相手の装備やアイテムを奪うことも出来る。」

「プレイヤー同士の戦いってとこでは同じですよね?」

「運営曰く、『プレイヤーキラーはモンスターみたいなものです。モンスターに負けたらペナルティが発生するのは仕方ないですよね。』だそうだ。」

「ええ……。」


 メグルは運営の言葉にドン引きだ。

 前から感じていたことだが、ここの運営は返答が一々ロックに過ぎる。煽っているようにしか思えない。

 そう言うと、イーバも大きく頷いた。

 彼もそれは同意見だった。


 運営の口の悪さはともかく、『稽古』ならばメグルは経験値を貰えるらしい。ならば受けるのに吝かではない。のだが、懸念が1つ。


「おししょー。大丈夫なんですか?」


 近接型のメグルと後衛のイーバで勝負になるのか、と言うことだ。

 レベル差は未だに大きい。とは言ってもメグルは成長した。ゲームでの戦いにも慣れてきた。

 初めて会った時には遅れをとったが、よーいドンで勝負が始まるなら不意を突かれることはない。

 しかしイーバは、メグルの語る懸念をいいからいいからと受け流し、メグルから5歩ほど離れて立つ。


「……むぅ。」


 舐められている。メグルはそう感じた。

 5歩など現実でもメグルの間合いなのだ。

 ましてや、現実よりも強化されたゲームの中では無いに等しい距離である。

 苛立ちながらも装備を取り出し、刀を腰に差す。師から譲られた刀だ。

 昨日は何だかんだと大した冒険もせずに終わってしまったため、これがこの刀での最初の戦闘になる。

 初めて斬るのが師だなんて、因果なものだとメグルは思った。


 錫杖を装備したイーバがウィンドウを操作する。

 メグルは自分の前に出た『稽古』を受けるか問う画面に了承をした。


 カウントダウンが始まる。

 10秒前。師は悠然と立っている。

 9秒前。メグルは鞘に納まったままの刀の柄に右手を掛けた。

 8秒前。メグルがわずかに腰を落とす。

 7秒前。メグルは左足を後ろに引き、右足に重心をかける。

 6秒前。イーバに動きはない。

 5秒前。メグルは鞘に左手を添える。

 4秒前。メグルは息を深く吐き出す。

 3秒前。メグルは一瞬だけ目を瞑り、またすぐに開けた。

 2秒前。イーバに動きはない。ただ立っている。

 1秒前。メグルは集中力が高まり、時間の流れが緩やかになるのを感じた。


 そして、0。

 メグルは鯉口を切り、抜刀を━━━。



 出来なかった。

 刀の柄尻に錫杖の石突を叩きつけられ、感覚を乱されたのだ。

 糸が切れたようにメグルの動きが、中途半端なものになる。

 気付けば師の拳が、メグルの眼前にあった。


「はい、死んだ。」


 一瞬の敗北だった。


「メグルちゃんさ、ワシのこと舐めておったじゃろ。

まあ、バカやって威厳無くしていたのはワシの責任なんだけど。

ゲームなんだから格上相手にそう簡単に勝てるわけ無かろうよ。」


 メグルの胸に師の言葉が刺さる。

 振り返ると分かる。先ほどまでの自分の言動には、確かに傲りがあった。

 現実での経験と、数日での急速なレベルアップで自分が特別強いと、そう思っていた。


 メグルは項垂れる。己の浅はかさが恥ずかしかった。


「メグルちゃん。君は強いよ。同レベルのプレイヤーなら早々負けないだろう。

だが、君より上のレベルのプレイヤーなんて掃いて捨てるほどいることを忘れている。」


 唇を噛む。多少の失敗はあれど、配信が上手く行っていたことも慢心に繋がっていた。

 忘れていたのだ。自分は後発組、遅れて来た者なのだ。


「それに、つるちゃんが言っていたことを忘れておる。ワシは元々剣士で始めたのだ。メグルちゃんの間合いはワシの間合いでもある。

自分の刀が届く時、相手の刀も届く。それが道理だ。」


 ワシのは錫杖だったけど、とイーバは笑って付け足す。

 そうだった。そんな話を聞いた覚えがある。

 いや、それよりも。

 メグルはガバリと顔を上げる。

 俯いていたメグルが急に顔を上げたことに、イーバは不思議そうな顔をする。


「おししょーも、何か習われていたんですか?」


 そうだ。この鹿頭の師が語る通り、相手を殺せる時は、相手も殺せる時なのだ。

 業の無い獣同然な相手を一方的に倒していたから、意識から抜け落ちてしまっていた。

 こんな有り様では現実の、幼稚園生だった頃からの師にも叱られてしまう。


 イーバは真っ直ぐに見つめてくる弟子(メグル)の瞳を眩しく思いながら答える。


「……内緒だ。リアルに繋がることは極力答えない主義であるからな。」

「そうですか。」


 2人は笑う。ほとんど答えみたいなものだ。

 一頻り笑った後、メグルはイーバに頭を下げる。


「では、おししょー。2本目をお願いします!」

「ああ、良いとも。」


 少しずつ観衆が集まり出す中、2人は『稽古』を再開した。

ご高覧くださりありがとうございます。

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・メグルの刀

メグルちゃんは全然鑑定したものを見せてくれませんが、これは配信内で鑑定して手の内を明かさないようにしているためです。

1話でイーバが倒していたボスの通常ドロップ品で、レベル40帯を想定した武器なので結構強いです。


『鑑定結果』

〔樹霊刀〕

・攻撃力 210

・耐久力 140

・悪霊特効

・【巨鹿の突撃】


神鹿の霊力と霊峰の息吹を浴びた刀。悪霊を祓う。

【巨鹿の突撃】:巨大な鹿の幻影とともに前方へ突進攻撃を仕掛ける。鹿の幻影に当たり判定があるため、範囲攻撃でもある。燃費も良くCTもそれほど長くないため使い勝手が良い。

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