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えいむじえばーあふたー  作者: 蒸らしエルモ
『春植えざれば秋実らず』
23/32

23:だってオンゲーなんだから

バレンタインデーなので、少しイチャイチャさせてみようと思いました。出来てるかは自信ないので、イチャイチャ出来てるか教えてください。


 結論から話そう。

 海でも泳ぐことは出来た。

 式神と言うことで、通常の生き物とはまるで異なるのだろう。考えてみればサイズから違うものであることだし。


 イーバは、その長い体をくねらせて鉤爪状の脚で水をかくことで海でも変わらず泳げることを確認した後、メグルは乗せて出発した。

 まずは中継点である〔アワジ〕に向かって泳いだ。

 泳ぎに慣れるごとにその速さは増していき、船を超える速度で海を突き進んだ。

 波をかき分け、太陽に照らされて進むこと10分。

 〔アワジ〕に到着した。


 ここで1つの問題に直面した。

 イーバがどこからどう見てもモンスターなのだ。

 鹿の頭骨が頭になっている大ムカデなのだから仕方のない話であるが、〔アワジ〕に上陸する際にはプレイヤーたちの誤解を解くのに2人は大変な苦労をした。

 さらに言えば、プレイヤー以上にNPCからの攻撃が凄まじかった。これはイーバのスキルやセットした称号効果も理由になる。

 とにかく、大変な混乱を招いた。

 何せイーバは、ムカデから人型に戻っても頭は鹿なのだ。事情を知らない人物からすれば、変身するモンスターとしか思えない。

 そしてイーバは、それなりに有名であっても配信者や芸能人というわけでもなく、一部で悪目立ちしているだけの一プレイヤーなのだ。

 どうにかこうにか、『式体改造』について説明をして、現地のNPCを納得させて解放されるまで1時間ほどかかってしまった。軽々しい真似をするなと、こってりと絞られてしまった。


「……メグルちゃん。」

「なんですか、おししょー。」

「正直誤算だったんだけど、これ効率的じゃないね。」

「行く前に気付いてほしかったです。」

「それは君も同罪だから。」


 イーバは久々に、ゲーム内での失敗に落ち込んでいた。

 このまま〔撫養城〕に向かえば、必ずまた混乱が起きる。それはもう、水が上から下に流れるのと同じくらいに確実な話だ。

 そして、イベント中にイベントの会場で混乱を引き起こす。こんなことをすれば、まず間違いなく方々から恨みを買うであろう。

 イーバ1人であればそんなこと気にせずにいられる。だが、1人ではないのだ。

 メグルがいる。

 巻き込めば彼女は、配信者としてディスアドバンテージを背負うことになる。


(……鹿の弟子ってことだけで既にディスアドでは?)


 一瞬浮かんだ考えは、脳内のゴミ箱フォルダに叩き込んだ。

 どうしたものかと、イーバは悩む。


 メグルは師の考え込んでいる様子を見て、自分が関わっていることに気付いた。

 大方、配信者『美花星メグル』が迷惑を被らないように、あるいは被害を最小限で抑えられるようにしようとしているのだろう。

 彼女はそう推察した。

 そしてメグルは師に声をかけようとして、何と言えば良いのか分からないことに考えが及んだ。


 何故なら、師の懸念は間違っていないのだ。

 このままイベント会場の〔撫養城〕まで行くのは可能だ。だが行けば騒ぎになるのは火を見るよりも明らかだ。そうなれば、騒ぎに荷担したメグルにも矛先が向けられる。

 多くの人から攻撃の対象になる。


 そこまで考えて、彼女はようやく恐怖した。


 軽々しい行動がどれほどリスキーなのかに思い至った。師は何てことないように振る舞っているが、悪目立ちは決して良いことではないのだ。

 メグルは自分が危ない橋を渡っていることを理解してしまった。綱渡りの最中で集中力が切れたように、対人関係というゲームの中の現実(リアル)に目を覚まさせられた。


 正気に、戻ってしまった。


 2人して黙り込み、砂浜に体育座りをするだけの時間が流れる。

 配信としては0点だが、今はそれを気に留めていられる余裕がなかった。

 穏やかな海を眺める。

 時折、何かの影が波間を漂う。モンスターだろうか。


(……あんな風に。いや、あれより大きくてうねうねしたのが陸地に向けて泳いできたらそりゃ怖いよね……。)


 メグルは自分たちのしていたことが、ようやく客観視出来た。さすがにおふざけが過ぎたことを自覚した。

 師に振り回されていた。

 ダメなことはダメだと判断することを投げ出していた。きちんと、自分で考えなければ。


「さて、メグルちゃん。ワシとしてはここは一旦諦めて帰ることを勧めるが、どうする?」

「アタシも帰るべきかなと考えていました。」

「……そうか。」

「おししょー。アタシ、勘違いしてました。」

「……何を?」

「このゲーム、アタシだけが主役じゃないんですよね。ちょっと考え無しでした。」

「……偉いね、メグルちゃん。そう考えることが出来て。

ワシはそれをとっくに知っているのにこのザマだ。」

「気付いたんですけど……。おししょーはアタシよりもアホですもんね。」

「……ふははっ。いや全くその通りだ、面目ない。」


 ザリッと、砂を踏む音。

 メグルが隣を見ると、イーバが立ち上がっていた。

 イーバは砂を叩くと、手を差し出した。


「さてと、〔アカシ〕に戻って修行だ!

次はちゃんと船で来よう。」

「……っはい!」


 差し出された手を握り、メグルは立ち上がる。

 まだまだやれることはある。

 ここに来るにはまだ早かった。それで迷惑をかけた。ならば、今は戻ろう。次は迷惑をかけずに来られるように。


 イーバとメグルは連れだって海へ歩く。

 ざくりざくりと砂を踏み、イーバがムカデに変化して、メグルはそれに乗り、海の中へ分け入っていく。


「では、行きより飛ばすぞ!」

「いっきましょー!」




 この後〔アカシ〕まで戻ったところ、〔アワジ〕と同じような騒ぎを引き起こし、またも現地NPCを怒らせて2人は説教されることになる。

ご高覧くださりありがとうございます。

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この回もそれがモチベーションになって書けました。


・『称号』システム

セットすると、その称号の持つ独自の効果を得られます。取得したものを付け替えるのは自由です。が、セットされていないものは効果を発揮しないので、その都度必要なものを選んでいく必要があります。


イーバの称号『神鹿の関心』

・『神鹿の関心』神の遣いに関心を持たれた証。

NPC好感度上昇しやすくなる。

一定地域で敬われる。人に見せる用。


基本的にステータス開示用です。霊峰周辺のNPCに敬われるようになりますが、そもそも霊峰周辺にNPCはあまり居ないのでぶっちゃけ飾りです。

手の内を容易に明かすような真似はしないということですね。

普段遣いの『称号』についてはまた後ほど。

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