12:甘く見たなぁ!
前作『冒険者オーガストの平穏万歳』が10000PVを突破したのが嬉しくて頑張りました。読んでくださった方はありがとうございます。まだの方はプロフィールからぜひ。
本作も引き続きよろしくお願いします。
嬉しさのあまり、2回行動です。ステータス回いきます。
「おししょー!今日もよろしくお願いします!」
「おお、メグルちゃん。元気なのは良いことだ。」
「あら、ちょっとレベルアップしたみたいね。」
午後6時、イーバ、しょっつる、メグルの3人は昨日の喫茶店に集まっていた。
席について人数分の緑茶と羊羹のセットを注文する。
「しかしおししょー、なんでもう1回集まったんですか?」
これからバシンバシン、モンスターを倒すところを見せたいのに、と呟くメグル。
なにやらかなり懐いているメグルに、内心首を傾げながらイーバが集まった理由を話す。
「なに、簡単な話だ。ワシとメグルちゃんとでステータス情報を共有してからの方が良いからだな。
ワシはメグルちゃんの育成方針が立てやすくなる。メグルちゃんは、高レベルプレイヤーのステータスを知ることで自分の理想を思い描きやすくなる。」
Win-Winじゃろ、とイーバはウィンクしたが、鹿頭の都合上横からだと片目しか見えないために、誰も分からずにスルーされてしまった。
イーバは少しだけ肩を落とす。
なぜか若干しょぼくれた鹿は放っておいて、しょっつるが更なる狙いを話す。
「それにね。始めたばかりのあんたのステータスはともかく、こいつのステータスを配信で公開すればそこそこ話題になるはずよ。
つまり、あんたが有名になるための足掛かりってわけ。」
「い、いいんですか!?そんな、アタシのために!」
「まあ、つるちゃんみたいに手が割れると困るタイプでないしワシは構わんよ。」
「あんた一言余計よ。」
フレンド間での模擬戦の成績を引き合いにしょっつるを煽るイーバと、それを黙らせるべく単純な暴力の行使に出たしょっつるを余所に、羊羹をつまみながらメグルは悩む。2人についてはこんな人たちだと既に慣れつつあった。
客寄せパンダよろしく、師匠のことを使って良いのか。これがメグルを困らせた。
力を借りれば話題になることは可能だろう。
昨日配信後にネットで2人のことを調べたら、掲示板やらまとめやら動画やら何やら出るわ出るわ、メグルなんか目ではないくらいの有名プレイヤーだった。大半が悪目立ちというか、ちょっとどうかと思う内容ではあったが。
頼り切りではいけない、という思いと、でも有名になれるならなってみたい、という思いがぶつかり合う。
「メグルちゃん。君の配信にワシらがお邪魔すれば、どうせその内話題になる。大事なのはその時に、君がワシらに埋もれず目立てるかだ。」
その言葉に、メグルは残り一欠片になった羊羹から目を上げる。
ヘッドロックを極められながら、鹿がおそらくは優しい目でメグルを見つめていた。
「ワシが師匠になったこともその内広まる。だから、今日話してしまおう。ステータスも見せよう。
いずれ有名になるのであれば、今日から有名になろう。そうして、徐々に君の個性を受け入れてもらおう。育ってからではなく、育つところを見てもらうのだ。」
「あら、らしいこと言うじゃないの。
そうね、こいつの言う通り。『良いタイミング』なんて永遠に来ないから、今日やってしまいなさい。」
「…………はい!」
♦️
夜の8時になった。夕食をバッチリ済ませ、メグルは予定していた配信を開始する。場所は、少し前まで相談に使っていた喫茶店の中だ。
「皆さん、こんばんわ!『美花星メグル』です!
今日も元気に『Aim the ever after』をプレイしていきますよ!
それから、今日もイーバさんとしょっつるさんが来てくれてます。イーバさんは師匠になってくれたんですよ!
これからメキメキ腕を上げていきますからね!」
「うむ。イーバだ。師として鍛え上げる所存。」
「しょっつるよ。色々サポートしてあげる予定よ。」
「と、言うわけで3人で配信を進めていくんですが……。
おししょー、狩りの前に確認することがあるんですよね?」
「うむ。師として弟子の力を確認せねばな。師の力も教えておく必要があるだろう。」
「てなわけで、2人のステータスを確認していくわ。
あ、私のは内緒よ。」
メグルのよく回る口と明るい振る舞いにしょっつるは感心していた。緊張が感じられず自然体であるからだ。つくづく、碌な準備もせずに配信者になったことが惜しいと感じた。
「ではでは、アタシのステータスから公開していきます!キャラメイキングの時から、ちょっとは成長しているところを見せますよ!」
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<名> メグル
<存在格> 3
<職業> 戦士
<副職業> ━━━━
<称号> 式神(成り立て)
<能力値>
⚫筋力値 【31】
⚫知力値 【15】
⚫耐久値 【25】
⚫精神値 【15】
⚫抵抗値 【25】
⚫行動値 【20】
⚫幸運値 【10】
⚫保有強化値 【15】
<技能>
⚫【剣技:2】 ⚫【】
⚫【火行術:2】 ⚫【】
⚫【筋力値強化:1】 ⚫【】
⚫【気配察知:1】 ⚫【】
⚫【鑑定:1】 ⚫【】
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「どうですか、おししょー!良いバランスでしょう!」
「ふうむ。……普通、だな。」
「普通ね。思った以上にオーソドックスだったわ。」
「……あれぇ?」
トンチキなステータスでないことに安堵しつつも、想定以上に堅実なステータスにイーバはコメントに困った。
後発組として個性を出していくならば、ここまでの堅実さは却って足を引っ張りかねない。
(いや、プレイングの腕前で魅せる方向性もある。決めつけるのは早計か……。)
「メグルちゃんのステータスは悪くない。かなり堅実だ。ここから配信者的に面白くするにはどうしたものかと考えておったのだよ。」
「ええ、一般の新人プレイヤーならこれで十分よ。」
「なるほど!配信者の視点ですか。」
「まあ、土台がしっかりしておる方がスーパープレイは生まれやすくなる。ここは合格点、ということでワシの番に行こう。」
「了解です、おししょー!」
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<名> イーバ
<存在格> 78
<職業> 鹿頭呪神官
<副職業> 穢れ喰らい
<称号> 神鹿の関心
<能力値>
⚫筋力値 【10】
⚫知力値 【400】
⚫耐久値 【50】
⚫精神値 【130】
⚫抵抗値 【70】
⚫行動値 【187】
⚫幸運値 【37】
<技能>
⚫【呪術・24】 ⚫【水行術・72】
⚫【木行術・75】 ⚫【祈祷術・21】
⚫【溢れる呪詛・4】 ⚫【精神統一・6】
⚫【高速詠唱・18】 ⚫【頭脳明晰・2】
⚫【並列術式・3】 ⚫【健脚・19】
⚫【渾然一体・8】
⚫【乾坤一擲・30(上限)】
⚫【時鮭の脂】
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「なんですか、この、……何?」
「……あんた、またスタイル変えたのね。薄々気づいてたけど。」
「うむ。この頭では照準がつけられなんだ。弓は捨てて術一本に絞ったのだ。」
「え?おししょー、元剣士じゃないんですか?」
「こいつ、最初は剣士で始めたのよ。で、バージョン3の頃かしら。弓使いに転向したの。」
「正確にはバージョン2の終盤だな。」
「おししょー、なんでも出来るんですね……。」
「鹿の癖になんでも出来るのよ……。」
「何やら釈然とせんのだが。」
憮然とした表情らしきものを浮かべるイーバに、メグルが何かに気づいたように話しかける。
「おししょー、おししょー!」
「どうした、急に。」
「おししょー、筋力値が初期値ですよね!腕相撲しましょうよ、腕相撲!」
そう、メグルはステータス欄で自身が師を上回っているところを発見したのだ。
折角配信をしているのだ。いいところを見せたい。であれば、高レベルプレイヤーに遊びでも勝って見せれば見所だろう。メグルはそう考えた。
テーブルを挟んで向かい合い、手を握る。
合図を出すのはしょっつるだ。
「んじゃ、始め!」
決着は一瞬だった。
メグルは呆気なく敗れた。手の甲を机に優しくつけられ、加減すらされたことを悟る。
「くふふっ。ダメよ、メグルちゃん。
行動値が圧倒的に負けてるから、反応速度が違うのよ。」
笑いながら、しょっつるが敗因を解説する。
簡単な話だった。メグルが合図に反応するより先に、イーバが動き出した。ただそれだけのこと。
「いくら筋力値が勝ってても、動く前に負けてたら意味ないものね。」
「……てことは、素早さが最強ってことですか?」
「いんや、そうとも言えん。素早いことは有利になるが、絶対ではない。
大事なのは強みを押し付けることじゃな。」
「ほぇ~。」
第4回配信は、順調に滑り出した。
ご高覧くださりありがとうございます。
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・イーバは、バフかけてエンチャントした矢を叩き込む狙撃手スタイルから一変、多様な術を動きながら叩き込む移動砲台スタイルになりました。
理由は本文中で話していた異形頭のデメリット(視界の変化)ともう1つ、まだお披露目していない異形化の影響です。クエストに本格参戦する時にお披露目すると思います。
・イーバのスタイル変更について
所持していたスキルと交換する形で、取得可能スキル一覧から選択することが出来ます。その際、元のスキルの熟練値が一定値減少して新たなスキルに引き継がれます。
【弓術:56】→【呪術:24】
【火行術:76】→【水行術:72】
【金剛力:3】→【頭脳明晰:2】
【武の真髄:12】→【渾然一体:8】
同系統のスキル同士の方が減少する熟練値は小さく収められます。
【弓術】→【呪術】の減少幅が大きく見えるのは、武術系と術系で正反対なことと、【呪術】が【弓術】よりも格上だからです。
これらのスキルを変更して、彼は術師スタイルに転向しました。




