表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えいむじえばーあふたー  作者: 蒸らしエルモ
『春植えざれば秋実らず』
1/32

1:鹿狩り

新作になります。

VRジャンルはずっと書いてみたかったので挑戦してみました。

こちらも宜しくお願い致します。


 吐く息が白くなるどころか睫毛が凍りつくほどの極寒。その銀世界の中に男は居た。

 辺りには疎らに木が生え、それらは全て葉を落として代わりに氷柱を生やしていた。

 白い布を被り雪を口に含み、音を立てぬように、標的に気取られぬようにじりじりと進む。

 木の影から見やる視線の先に居るのは一頭の白樹巨鹿。

 幾重にも枝分かれした大きな角は、巨木のような威圧感を見るものに与える。そして、角以上に威圧感を放つ大きな身体は体高が5m、いや、6mに届くだろうか。ここまで来ると怪獣である。これで魔法まで使うのだから勘弁願いたい、そう男は口の中でぼやく。

 先ほどから頻りに巨鹿が辺りを見回している。

 これ以上の接近は命取りになると感じた男はその場で停止し、荷物を取り出し始める。

 どこからともなく矢筒と大弓を取り出し、弦に何やら薬液をかける。

 鼻から氷柱が垂れるような寒さでは、弓の弦とて凍ってしまう。薬液はそれを防ぐためのものだった。

 弓の本体にも薬液をかけ、それが馴染んだことを確認して少しだけ弓を引く。

 男は頷いた。その手応えに納得がいったからだ。


 準備を進めている間に白樹巨鹿は少しだけ移動していた。幸いなことに、まだ狙える位置である。

 巨鹿はその巨体ゆえに、木々の間を通り抜けることが出来ない。男にとって有利なポイントであった。

 男は勝負に出ると決めた。

 矢筒から物々しい、何やらトゲトゲとした赤い矢を取り出し、弓へとつがえる。

 ギリギリと弓を引き絞っていく男の目は真剣そのものだ。


「"南無八幡大菩薩"」


 ショートカットキーを選択し、弓用の強化系スキルが続々と発動させる。

 狙いすまして矢を放つ。


「疾っ!」


 呼気が僅かに漏れ、巨鹿はそれに勘づき顔を向けるも、時既に遅し。

 音のように速く、骨身に染みる寒さよりも鋭い矢が巨鹿の眼前に迫っていた。


 命中。


 顔の正面から頭骨を叩き割り、左目を中心にぐちゃぐちゃに掻き回した矢を見ずに、男は二射目を用意する。

 今度はスキルを使わなかった。

 スキルには使用後、再使用可能となるまで冷却期間(クールタイム)がそれぞれ定められている。

 ショートカットキーで一度にいくつもスキルを使う場合、この冷却期間が被ってしまうのが難点だった。

 矢をつがえてすぐさま射かける。

 普通は致命傷である。だが、あれしきでは死なないことを男は理解していた。

 更に三射、四射と射かけていく。その狙いも正確で、全て足を狙っていた。機動力を削ぐためだ。

 その後続けて五射目も当て、六射目をつがえている時だった。


「グゥオオオオオオオオオ!!」


 雪山一帯に轟く咆哮。発したのは白樹巨鹿。

 まだ、生きていた。いやそれどころか、これからが本番だと言わんばかりに身体に突き立っていた矢が外れ落ちていく。

 その白き巨体からはもうもうと蒸気が立ち上ぼり、巨鹿の足元は積もった雪が融けていく。

 空気が揺らめき、その巨体を更に大きく見せる。

 立ち上った蒸気は再度冷却され、キラキラとした氷の粒へと変わり舞い落ちる。

 白銀の巨怪が殺意を剥き出しにしていた。

 巨獣が吠える。

 それを合図に、空中を舞っていた氷の粒が集まり礫となって男を襲う。


「のわぁ!」


 間抜けな声を上げて躱す男。

 雪の上を転がりながらなんとか避ける。

 ゴロゴロと転がり、どうにか避けきった。


「ゴォオオオオオオオ!!!」


 当たらぬことに腹を立てたか、巨鹿が声を上げる。礫が止む。

 ガバリと起き上がり体勢を整える男。

 雪を振り払い射撃体勢を取る。


 同時に巨鹿も動き出す。

 角を突き出し、大地を踏みしめその巨体に似つかわしくない初速でもって進み出す。


 男は一息に弓を引き絞り狙いをつける。

 巨鹿は数十mはあった距離を猛然と詰める。


「"南無八幡大菩薩"」


 巨鹿がすぐそこまで迫り、撥ね飛ばされるその直前。

 全てのスキルの冷却期間が明けたため、再度のスキル発動。

 機動力を削いでいなければ間に合わなかったであろうその一撃は、轟音とともに、巨鹿をノックバックさせた。

 巨鹿の首がへし折れんばかりに跳ね上がり、呻きながら後ろによたよたとさがる。

 ノックバックからの硬直状態に入ったことを確認するや否や、男はスキルを発動させる。


「【時鮭の脂(叡智の親指)】」


 発動したスキルの効果は、他のスキルの再使用待機時間を省略して即時使用可能にするというものであった。破格の効果であるが、代償に体力が割合で減少し、次回冷却期間が三倍になる。

 男の思い描いた通りに事が進んでいた。

 全てのスキルが再使用可能となった男は、止めを刺さんと巨鹿に向けて弓を引く。


「"南無八幡大菩薩"!」


 三度目のスキル発動。

 さらに、一戦闘中に三度のスキル使用の条件達成により威力が跳ね上がる。

 スキルの強化を受け、輝くエフェクトを撒き散らす矢が、引き絞られた強弓から放たれる。

 矢は一条の光となりて、巨鹿の額に吸い込まれるように命中した。

 巨鹿の動きが止まる。

 

「……ふぅ。」


 男が息を吐き出した時だった。

 ピコン、と音が鳴り、彼の前に半透明な板、ウィンドウが出現する。


━━━━『Congratulation!』

『白樹巨鹿'霊峰の番人'ウダを討伐しました。

以下の報酬を獲得します。

<報酬>

・白樹巨角の鹿頭面

・樹霊刀'ウダ'

・霊鹿の樹心核

・巨鹿の樹角片×3

・霊鹿の白毛皮×2

・神秘の欠片【樹】


条件:討伐 達成

称号を獲得しました。

〔霊峰入山許可証〕


条件:ソロ討伐 達成

称号を獲得しました。

〔神秘に迫る者〕


条件:被ダメージ0 達成

称号を獲得しました。

〔神鹿の関心〕』━━━━



 都合十六回目の挑戦にして、ついに打ち勝った喜びが溢れだす。

 男は両手を高々と掲げた。


 勝者の雄叫びが辺りに響き渡った。

こちらの更新は週に一度となると思います。



ご高覧くださりありがとうございます。

宜しければ評価、いいねをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ