Ⅸ BULLET
翼竜討伐から戻った朱莉は、領主ガルズに呼ばれ彼の自室へと赴いた。現場の報告をする為だ。
「っと、言う事で翼竜の討伐は終わってる頃だろう。詳しい話はエロガ……マクシードかジジイにでも聞いてくれ」
朱莉の御座なりな報告を受けても、ガルズは表情を変えない。朱莉と言う人物が分かって来たのだろう。
「分かった、詳細な報告はマクシードにさせよう」
「朱莉さん、お疲れさまでした」
マーサが、深々と頭を下げる。
「良いよ、仕事としてやった事だ」
「いいえ、私がお願いした事ですし。それで、改めてご相談があるんですが……」
「何だ? 報酬の事か?」
「いえ、それは間違いなくお支払いします……そうではなく……」
そこでマーサにかわり、ガルズが口を開いた。
「朱莉殿、良ければ正式に我が家に仕える気はないかね?」
「……はぁ?」
「翼竜の顛末を聞いてからではあるが、それなりの報酬も約束しよう」
「朱莉さんが居てくれたら、私達も心強いんです。如何ですか?」
ガルズとマーサが、揃って真剣な眼差しを朱莉に向ける。
しかし朱莉は、ふっと小さく笑った。
「悪いな、良い話だとは思うがアタシはフリーが性に合ってる。誰かに仕える気はないね」
「そうか、残念だ」
予想はしていたのだろう、ガルズもマーサもそれ以上は何も言わなかった。
「とにかく今日はご苦労だった、食事と湯浴みの用意をさせよう。ユックリと休んでくれ」
「了解、それじゃあお言葉に甘えさせて貰うぜ」
朱莉は、ガルズから明日には報酬が払えるだろうと言質を取り、与えられた客室へと戻った。
まだマクシードが帰還していない事もあり、食事は客室で済ませる。
昼食と同様、素朴ながらも丁寧な調理を施された絶品料理の数々。朱莉は運ばれる料理を速攻で平らげ、満足気にベットで横になった。
「あぁ~食った~~~……って、風呂の用意もしてあるんだったな」
朱莉はベットから飛び起きると、部屋に置かれていた洗濯済みの私服を抱え、浴場へと向かう。
確か一階の奥だったはずだ……と、昨日の記憶を思い返しながら屋敷中央の大階段を下りていると、丁度帰還したマクシードと鉢合わせした。
マクシードは全身を泥と返り血で汚し、足取りもどこか頼りなく見える。
「よ~お疲れさん」
「貴様……後始末を丸投げして、自分は悠々と湯浴みか。全く良い身分だな」
「はっ、貴族様に身分がどうだの言われたくないね」
朱莉が何時もの様に軽口を叩く。また突っかかってくるかと思いきや、マクシードは無言のまま朱莉を見つめた。
「何だよ、疲れ切って反論も出来ないか?」
「いや……少なくとも、今日の貴様にはその権利がある……そう思っただけだ」
「何だそりゃ?」
「今日の人的被害は、死者が一名、重傷者が三名、軽症者が八名……貴様が居なければ、被害はもっと甚大だったはずだ」
自分だけではどうしようもなかった、そんな自責の念もあるのだろう、マクシードは拳を握りしめながら頭を下げた。
「この町の、領主家の人間として、貴様に感謝する……」
頭を下げるマクシードに、朱莉は「つまんねぇ」と吐き捨てる。
「お前程度が町を背負った気になってんじゃねえよ、それともお前の様なガキでも背負える程度の町なのか? 領主様も大した事ないな」
「ぶ、無礼だぞ! 父上を侮辱するな! 父上は知力も武力も当代一と言われているんだ!」
「そう言われてもなぁ……息子のお前がアノ程度の腕じゃ、親父さんの武力とやらも当てにならんなぁ」
「な、ならもう一度勝負しろ! 今度こそ叩きのめしてやる!」
「……ぶっ」
必死な形相のマクシードに、朱莉が吹き出してしまう。
「そうそう、そんな感じで良いんだよ」
「……くっ!?」
朱莉に諮られたと気付き、マクシードが頬を赤らめる。
「全く、貴様と言うヤツは!」
マクシードは、手にした物を朱莉に向かって投げつけた。
「おっと」
朱莉が飛んできた何かをキャッチする。それは青い液体の入った小瓶だった。
「何だこりゃ?」
「ポーションだ」
「ポーション? ああ飲むと怪我が治るってヤツか」
朱莉も存在は知っていた。種類にもよるが、飲めば一瞬で傷を癒す万能薬。闇市で扱われている物を見た事もあったが、かなり高額で手にしたのは初めてだ。
「貴様にやる、怪我をしていただろう」
「怪我? ああコレか」
朱莉が頬を手でなぞる。確かに、翼竜の爪が掠った際、頬に小さな切り傷が出来ていた。
「こんなモン怪我に入いらねぇよ」
「良いから飲んでおけ……貴様は粗暴で野蛮で破廉恥だが、それでも一応レディなんだろう」
そう言って目を逸らすマクシードに、朱莉はニタリと嫌らしく笑い、肩を組む様に腕を回す。
「お前のアプローチは遠回しだなぁ。何なら今から一緒に風呂に入るか? ん?」
「ば、バカモノ! そう意味ではない! 勘違いするな!」
マクシードは朱莉の腕を払うと、更に顔を真っ赤にさせて走り去って行く。
「かっかっか、面白いヤツ」
朱莉はポーションの瓶をポケットに突っ込み、上機嫌で浴場へと向かった。




