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GUN to the Fantasy  作者: ガス
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Ⅳ BULLET

 通された広間は、屋敷内でも一番の広さを持つ空間。


 家具や調度品など、地球でもそれなりに高価な部類に入るだろう。朱莉は自然と部屋の中を査定していた。


 中でも多いのが、壁に掛けられた肖像画。朱莉から見ても良い絵だとは思うが、恐らく描かれているのは屋敷の住人だ。


 オークレイ家とやらがよっぽどの名家でない限り、価値は無いだろう。


「ん~残念」


 朱莉が勝手な査定結果で肩を落としていると、扉の外からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。


「お姉様が帰って来たって!」


 扉を開け放って飛び込んできたのは、金髪の活発そうな少年。


 年の頃は15歳前後。整った顔立ち、パッチリとした瞳はマーサに良く似ていた。


「マクシード、お客様の前ではしたないですよ」


 マーサは飛び込んできた少年を、弟のマクシードであると朱莉に紹介する。


 マクシードが朱莉を見る目は、父親ガルズのそれと同じだった。


「朱莉さん、こちらへ」


 朱莉をソファに座らせたマーサは、ガルズの隣に座り、事の経緯を説明した。


「なるほど……事情は分かった」


 ガルズはマーサの説明を聞き終えると、手にした葉巻に火をつけて大きく吸い込んだ。


「しかし、そちらの金額で200万とは……少々、いやかなり暴利ではないかな?」


「いやいやロード・オークレイ、大切な娘の貞操が守られたんだぜ。それくらい安いもんだろう」


 薄ら笑いを浮かべる朱莉。ガルズが煙を燻らしながら、葉巻を力強く灰皿に押し付ける。


「朱莉殿、君もプロなら世間の情勢は分かっているだろう。男爵家とは言え、今は他の領土と離れて孤立状態。そうそう気楽に大金を出す訳に行かんのだよ」


「それはそちらの都合。悪いけどアタシはびた一文負ける気はないぜ」


 朱莉も相手の状況は何となくわかる。


 周囲を地球人に囲まれ、何時侵攻されてもおかしくない状態。それでも町には人が居る、一般人もいる。経済を止める訳には行かないし、同時に町の防衛設備は常に万全を期さなければならない。資金に余裕など無いだろう。


「これは現実的な問題だよ。無い物は出せぬ」


「アタシもそれで、ハイそうですかと引き下がる訳には行かないんだよ。生活が懸かってるんでね」


「生活が懸かっているのはコチラも同じ。これは我が家だけではない、民の生活にもかかわる事。君は民を犠牲しろと言うのかね?」


「アタシにしたら金さえ作ってくれれば方法は何でも良い。何なら、地球軍に降伏したらどうだい? そうすれば軍備に金を使う必要は無いし、今ならアンタらだけは地位や資産を保証してくれるかもよ」


「ふざけるな!」


 朱莉の提案に激高したのは、マーサの弟マクシード。


 それまでマーサの後ろで大人しく話を聞いていたマクシードが、顔を真っ赤にして朱莉に詰め寄った。


「今まで貴様らが何をしてきた! どれほどの民を傷付けた! 今更僕たちに民を捨てて寝返れと言うのか! 舐めるのもいい加減にしろ!」


「マクシード、下がりなさい」


 マーサがマクシードを嗜めるが、彼の怒りは収まらない。


「言わせてくださいお姉様! この不埒者には厳罰を持ってぐぅ!!」


 詰め寄るマクシードのか細い首を、朱莉の右手が鷲掴みにした。


「あんまり調子に乗るなよ、お坊ちゃん」


「がっ……ぐっ……」


「朱莉さん!」


「民とやらが傷付いたのも、姉ちゃんが危険に晒されたのも、全部お前らが弱いからだろ? アタシに当たるんじゃねぇよ」


「朱莉さん! やめてください!」


 朱莉が放すと、マクシードはその場で跪き激しくせき込む。


「マクシード! 大丈夫!」


 マーサがマクシードに駆け寄り、朱莉を鋭く睨みつける。


「朱莉さん、お金は必ず払います。だからコレは依頼主からの命令です。私の家族に手を出さないでください!」


 マーサに睨まれながら、朱莉はニヤリと笑った。


「OK分かった、アタシは金さえ貰えれば何も言う事はねぇよ。大方の事はコッチが折れよう」


「ですが先程お父様が仰ったように、すぐにご用意は出来ません。暫くの間コチラに滞在し、お待ちいただく事になりますが……」


「食事付きの宿なら大歓迎さ。何ならその分を報酬から引いて貰っても良いくらいだ」


 満足気な朱莉を横目に、ガルズが深々と溜息を突く。


「致し方ない……か、確か貴金属でも良いんだったな」


「あぁ、何ならこっちで換金して、差額は返金するぜ」


「……分かった、取り合えず部屋を用意しよう。誰ぞ、朱莉殿を来客用の部屋へ案内してくれ」


 ガルズの指示で、メイドの一人が朱莉に歩み寄る。朱莉は立ち上がり際、マクシードの頭に掌を乗せた。


「アタシに相手してほければ、もうちょっと強くなってからにするんだな」


「ぐっ……」


 恨みがましい目で朱莉を見上げるマクシード。


 しかし朱莉は意にも介さず、薄ら笑いを浮かべながらメイドの後に付いて広間を後にした

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