新学期の話
樹歴866年
今年も新しく学生が入ってくる時期になった。
会場では入学式が行われている。通年と違うことと言えば、会場出入口付近に不穏な出待ち勢が待機していることだった。
「絶対いるって」
「だと思うけど…今迄姿を見てないんだよね」
「おいユーク、何か聞いてないのか?」
ユークは静かに首を横に振る。尋ねたケイナも、まあそうだよなと肩を落とした。
彼らが待っているのは、入試を案内して以来音沙汰のないヨハネスである。今日が入学式なのだから、合否は一月程前に出ている。合格していたら寮に部屋が用意される筈だが、今迄誰も彼の姿を見ていない。まあ遭遇しない事自体は不自然ではない。お互い頻繁に出歩いていなければ尚更だ。
「あ、そろそろ終わるみたい」
退場していく学生たちの中にヨハネスの姿は──
「居た!!」
「ちょ…何!?」
群の流れから引き摺り出す。邪魔にならない位置まで連れて行ってから、
「居るじゃん!」
「顔くらい見せに来いよ!」
「は?連絡の仕方も解らないし」
突然取り囲まれてイチャモンをつけられたヨハネスは目を座らせた。問い詰めた方は彼の反論にそれもそうだなと冷静になったが、ヨハネスの方は加熱していく。
「だいたい、一般枠だっていってたよね?最初に受けさせられたの講師の採用試験だったんだけど」
「あー…」
そうなる可能性は低くなかった、とケイナは少し遠い目をした。ソーマとピノは「すごいすごい」と喜んでいるが、ヨハネスは取り合わない。
「なんとか学生の方の入試も受けさせて貰ったけど、部屋もなんか講師寮側っぽいし」
会わない筈だ。
「大体ケイナ先輩の所為って聞いたけど」
「正しく報告しただけだ。高性能なご自分の所為」
決して仲間を作ろうとしたわけじゃない。
「しかも、こっちは新入生なんだけど。入学式当日から先輩たちに取り囲まれてるの噂になったらどうしてくれるの」
「それはたぶん手遅れだ。悪かった」
幾人かは遠巻きにこちらを見ていた。
「で結局、名前はどうした?」
「ヨハネスだよ。協会にはヨハネスで登録した」
魔術師としてその名前で活動するならそれでいいと言われたそうだ。
「んーじゃあヨハネス。これからは学友だ。宜しくな」
「色々教えてね!」
「取り敢えずカフェ行かない?立ち話はなんでしょ」
「部屋教えてよ。遊びに行くから」
「色々教えて欲しいのはこっちだし、カフェは行くけど、まず部屋寄ってから。お金持ってきてない。皆の部屋も教えてよね。えーとその、…宜しく…」
律儀に全部に返事をしながら、移動を開始する。
ヨハネスの短くも騒がしい学生生活はこうして幕を上げたのだった。




