ヒーローの話
樹歴869年
ヒーロー。きっと誰しも一度は憧れた、絶対的な『誰か』の味方。なりたい、と思ったかも知れない。会いたい、と思ったかも知れない。わたしは──なりたいと思った。
「こらそこぉ!突出しない!隊を乱すな!」
「またぁ!?もぉ~~!皆が遅いんじゃないッたぁぁぁ!!!」
突出を注意され文句を溢したわたしに、容赦なく拳骨が振り下ろされる。
「大!馬鹿!者!!何度言わせる!?」
一度振り下ろした拳を再び握りオカンムリな教官は森を揺るがす程の大声で説教を垂れる。
「そんな大声出さなくても聞こえてるし、解ってるわよぅ。わたしだって気を付けようとはしてるんです」
足並みを揃えるべく努力はしている。でも気が付くと先行してしまっているのだ。やはり皆が遅すぎるのでは?
教官はわざとらしく大袈裟な溜め息を吐いて目を覆った。
「ルカ…レンジャーは基本チームで事にあたる。周りに合わせられない奴はお荷物だ、そのままではどんなに戦闘力があっても実戦には出せないぞ」
「だから、解ってます」
夢は玄獣関連の災害に対応する『レンジャー』になる事。ここはその養成所、今は実技訓練中。
足並みを揃えるのが苦手なのは解ってる。だからこうして訓練しているのではないか。全然上手くならないが、怒られて上達するならもうしてる。呼び止められて怒られている間にメンバー達は先へと進んでいる。
「戻って良いですか?」
「いや、おまえは一度此処からよく見ていろ。作戦全体、仲間全体を広く見て、皆がどう動いているか観察しろ」
「ぇぇぇ…」
まあ確かに、何か苦手克服の為のヒントが得られるかも知れない。
「どうだった」
「えー?……皆に体力がないのが解りました」
怒られる覚悟でそう言うと、教官は肯いた。
「そうだな。皆鍛えられてはいるが、おまえみたいにバカみたいな体力はない」
「形容詞がひとつ余分じゃない?」
「他には?」
無視だし。
「ん~それくらいしか…」
突出する問題児が抜けた群は順調に進んでいる。自分がそこに居ない以上最早問題はなく、見ていても解決策は浮かばない。
「じゃあ取り敢えずそこに気を付けろ。合流だ」
「は~い」
「レンジャーって単独活動出来ないんですか?」
「基本的にね~」
休日には塔の学友とカフェに行ったりもする。楽しい時間にあまり愚痴は言いたくないが、偶にはこうして聞いて貰う。
「チームメンバーにもよりますよね。例えばルカと私と、うーん、リーヴィーとピノ、とかだったら巧く補助し合えそう」
だいぶ物理よりの攻撃的なチームになるが、なるほどそれはやり易そうだ。
「なんか戦術の試験思い出しちゃった」
「お手伝いしましたけど、あれ面白かったですね~」
そうだ。授業でチームを組んだ時には今のような問題は起こらなかった。何が違うだろうか。
「皆お互いの事よく解ってたから…ですかね、と」
それなりに親交のある学友たちでチームを組んでいた。皆が合わせてくれていた。レンジャーは即席のチームでも動けるようにと訓練している。
「会ったばっかの人を旧友のように見抜けってのは無理じゃない?」
「じゃあ、伝え合えばいいんじゃないですか?」
「言葉で?覚えていられない」
自己紹介しただけで連携が上手くいくならとっくに解決している。
「足並みを揃える…って、手を抜くみたいで嫌」
「あ、じゃあ、遅れる子をルカが引っ張り上げてあげれば良いんじゃないですか?」
「なるほど?」
力を抑えるのではなくて、余力をフォローに回すのだ。やり過ぎればウザがられるだろうが、それこそチームワークを意識して向こうにも我慢して貰いたい。片方にばかり負担を強いるのは助け合いではないのだから。
「なるほどねー」
「ふふっ。ルカは努力家ですね、と」
「…むむ」
思わず口が尖ってしまう。正しい方向に向いていない努力は、無意味…とまでは言わないが報われ難いものなのは知っている。正しい方向を知るためにわたしは塔へやってきたのだ。此処で道を誤るわけにはいかない。
「解った。…教官にもう一度相談してみる」
「それがいいですね」
夢は、玄獣関連の災害に対応する『レンジャー』になる事。加害者という名の被害者を作らない為に、誰よりも強くなって、玄獣たちを護る事。
「ありがとうネレーナ。ケーキセット奢る!」
「いいんですか?やったー!」
ヒーローになりたいと思った。玄獣たちのヒーローに。これは、そんなわたしの、道中の一幕。




