スイーツ・デイの日の話
今年もコカラ・クリュの日がやってきた。
コカラ・クリュは元々はお菓子の名前であるらしい。バタークリームを使った焼き菓子だ、と言われることが多いが、正確にどんなものだったかは残されていない。そこで、各菓子舗がそれぞれに『私が思う処のコカラ・クリュ』を作って売り出す。それがコカラ・クリュの日だ。
コカラ・クリュに纏わる伝承・物語もまた多岐に渡る。真っ白なコカラ・クリュが夜道を照らしたとか、偉人から貧しい人々に施されたものだとか、空から降ってきただとか、贈り合うことで親愛を育むものだとか。統一感のないバラバラな話が世界各地に伝わっている。それでも、登場する菓子の名前は皆コカラ・クリュ。それだけは共通している。
フェラル・カフェのコカラ・クリュをフォークでつつきながら、先輩のコカラ・クリュにも目を移す。
「それ、何処の?」
「オレのはね、カフェ・ハルマ」
今ではこの日は皆で色々なコカラ・クリュを集めて交換したり分け合ったりするのがイベントとして定着している。
「マキちゃんのは?」
「カフェ・マクベスタ」
自作だ。ジユウが飛び付き、マキちゃんは皿をサッと持ち上げることで回避した。
「あんた何も持ってきてないでしょ」
『交換』じゃないと貰えないらしい。
「おれのはコレ!」
躊躇なく差し出されたのはミルク瓶である。
「素材じゃねーか!」
でもどうだろう。所詮「私の思う処のコカラ・クリュ」である以上否定しきれない気もする。
「いや『お菓子』だから。ミルクはお菓子じゃないから」
「そっかー。ほらジユウ、こっち分けてやろう」
ジユウは私から受け取ったコカラ・クリュを、流れるような仕種でマキちゃんに差し出した。
「…なるほど」
「マキちゃん、あげなよ。ファンは大切にしないとね」
先輩の言に屈したわけではなさそうだが、マキちゃんは溜め息を吐いてジユウとの交換に応じた。
受け取ると同時に齧り付いたジユウは、ペロリと口を舐め満足気に喉を鳴らした。
「うま!」
「…そっちの方が美味しそうに見えてきた」
「プロの味に敵うワケないでしょ」
言いながら私の皿にも分け与えてくれる。先輩は、持ってきてはくれたけど食べはしない。こちらからもお返しして食べ比べてみる。
「…遜色無い気がする」
「舌バカ」
「肥えてるより幸せだもんね」
「それはそう。良かったね」
コカラ・クリュの日。
それはスイーツ交換会の日。
親愛が深まる、特別な甘い一日。




