媚薬の話
購買の店員は、時に学生たちのよい相談相手である。現状扱いのない──または表に並べていない──品の仕入れ要望を受けることもあり、大概の場合、何故それを欲するのかを自発的に打ち明けられる。
最近の要望の中で特に珍しかったのは、媚薬であった。
「ノルドさーん、媚薬って扱いな〜い?」
「媚薬…?ええと…まあ何点か…ある、かな」
在庫をチェックしながら答えたものの、内心は割と驚いていた。相談してきたのは若い学生だった。少年と呼べる年頃の学生というのは、昔に比べうんと増えたものの、まだまだ少ない。その少年は──名は知っているが、顧客の個人情報の為ここでは伏せておこう──あまりに恥じらいも気後れもなく、あっけらかんと人目も気にせず相談してきた。今の若い子ってそういうもんなんだろうか、と少し遠い目になりかけた。
「ええと、強さ、とか」
「う〜んとぉ…値段を目安にすると、200ml程度でe.30以下なら殆ど効かないから要らなぁい」
笑顔を張り付かせたまま固まってしまう。これはたいそうな常習者だ。
ふぅ、と気付かれないように呼吸を整え気持ちを切り替える。いつまでも驚いていても仕方ない。商売の話をしよう。
「なるほどね。じゃあこの辺りかな」
カウンターに数個の瓶を並べてみせる。
「こっちはフリューゲル産の燦子草を使ってる。こっちは塔の錬金術的が試験的に作って置いてったものだけど、品質は保証するよ。あとこれは…」
端から説明すると、彼もふんふんと真面目に検討している。
因みに、これら所謂媚薬の類は表には並べていない。ただ呪術や薬学に於いて時折欲される事もあるので僅かばかり在庫を持っているのだ。稀に、本来の用途で求められることもある。
全ての説明をし終え、幾つか質問に答えると、彼は少し悩んでから二つの瓶を手に取った。
「これとこれにする〜!他のも試したいけど、今そんなにお金ないし〜。また買いにきまぁす」
「あんまり頻繁に使用すると、相手も大変だよ。ほどほどにね」
やんわりと忠告すると、彼は「えっ?」と目をまん丸にした後、笑い出した。
「やだぁノルドさん!相手なんていないし〜!もお〜」
「えっ あ。そう …そう…」
余計な事を言ってしまったと慌てたが、
「私、冷え性なんですよぉ。此処ってスゴく寒いじゃないですかぁ。冬はこういうの飲んで身体温めないと眠れなくてー」
「………え?ええ?」
どっちとも取れるが、恐らくこれはつまり。
「ふふ。シャングって、媚薬、本来の効果は得られないんですよ〜」
身体が芯からポカポカになるだけ。
そう言って、からかう表情を向けてきた。
「ノルドさんのえっちぃー」
「 」
もうだめだ生きていけない。
ノルドは灰と化した。十代半ばのこどもにそんな事を言われたダメージは計り知れなかった。




