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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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料理の話

「マキちゃんさぁ、料理好きじゃん」

「…まぁ。調理はほぼ錬金術だから」

「調理学とらないの?」

塔には、調理学科もある。錬金術学科に属する、薬学科にも近しい科である。だが、集まる生徒たちの雰囲気は錬金術よりも芸術に近い。

「うん。態々習う程じゃない」

体験講座くらいなら受けた事はある。調理学を教えるのは「料理は魔術です!」が口癖のふくよかな講師だった。

魔力を用いた術を使わなくても料理を作ることは出来るが、魔術を用いればより様々な調理が出来るようになる。錬金術の知識を知っておくだけでも、普段の調理がより良く行えるようになる。

そう力説していたのを覚えている。

「錬金術が得意だからって、必ずしも料理が上手な訳じゃないけどね。不思議なことに」

錬金術が得意であれば、手段と選択が増える。例えば「火を通す」のに火を使わず、食品内部の水分を振動させることで加熱する。例えば油で揚げる変わりに熱風に曝しカリカリに仕上げる。技に走った調理法では、通常調理よりも残念ながら美味しくない事は多い。それこそ、術の精度や工夫がいまひとつ足りなかったとも言えるが…。

過去に料理の腕が壊滅的な錬金術士を受け持ったことがあるらしい調理学講師がどこか遠い目をしていたことも記憶にあった。

「興味あんの?栄養とかもやるから、結構座学多いと思うけど」

「いや…知ってる。うん」

曖昧な返事になんとなく察する。きっといつかどこかで齧ったことがあるのだろう。

調理学は、栄養素の錬金術的特徴を知る事から始まる。水に溶け出し易いものや加熱により変質してしまうもの。そういったものを知って、効率良く栄養を摂取するための調理法を選ぶ。

更には、味覚を含めた『人体』に関する知識も学ぶ。どういう時に何を美味しいと感じるのか。人体に毒となる成分とは。必要な栄養素とは。

「あー、うん。『塔の噂』のやつ。聞いた」

この知識を疎かにすると、噂に踊らされることになる。曰く、『塔で自炊すると早死にする』『塔の人間は舌バカ』というものだ。

「雑学として聞くなら楽しいんだけど、授業で習うと急に難しいの何なんだろうねアレ」

「意識と語彙。まあでもそれだな。だから授業はとってない」

あくまで料理は趣味の範囲だ。教えられるより自習していく方が楽しい。

「なるほど。大変理解しました」

へこーっと上半身ごと頭を下げた学友に、今晩は新作の創作料理を振る舞うことにした。

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