頭の痛い話
「ダメだ。頭痛い」
机に両手をついて立ち上がる。数名の視線を集めたが、気にしている余裕はなかった。
「先生?大丈夫?」
「だいじょばん。医務室行ってみる。監督ヨロシク」
拡げた書類もそのままに、ヒラヒラと手を振って部屋を出ていく。監督役に指名された研究生はその背に「お大事に~」と手を振り返した。
頭痛というものは痛む度に苛立ちを生む。最早「痛い」というより「ムカつく」のだ。我慢して研究室に居続けるのは研究生への迷惑にしかなるまい。薬で抑えてもいいのだが、ここのところ連日痛みを覚えている。一度医務室で診て貰った方が良いだろう。
「あら先生。どうしました?」
「いやちょっと頭痛くて。最近頻繁に痛むから診て貰おうかと」
顔見知りの医療士は相槌を打ちながら医師の元へ通してくれた。
「先生、頭痛だそうですよ」
「頭痛? あー、肩凝り」
医師は、顔を見るなりそう言った。
「はっ?」
あまりのノータイムな診断に目を開く。もう少し何かこう、ないのか。
「肩凝ると頭に来るかんなー。どれ…うっわかった…!」
肩と首筋に触れ、医師は呆れた声を上げた。
「論文の時期でもないだろ。錬金は肩凝りやすいのかね?意識的に肩首回せよー。こりゃちょっと酷いぜ」
「……マジですか」
肩が凝っている自覚は更々ない。が、触れた医師が驚く程には凝っていたらしい。
簡単なストレッチ指導と湿布薬を貰い、医務室を後にした。
歩きながら、首を捻った。
触れて驚く。それは解る。しかし、何故一目で判ったのか。
「あら、『先生』」
「おう?」
嘗ての学友とすれ違う。彼に先生と呼ばれるのは気持ちが悪い。
「肩、重くない?」
「は? え、なんで……おい? 何処見てる?」
彼の視線は自分を通り越して、その背後に向けられている気がした。
「……いいえ? 大丈夫なら、それで」
「おい、だから何処見てんだよ」
「お大事に」
答えることなく、彼は去っていった。相変わらずのマイペースだ。それはそれで結構なのだが。
「……なあ、私の肩に、何か乗ってたりしないよな?」
「へ?」
研究室に戻るなり、研究生にそんな事を訊いてしまったのだった。




