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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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研修の話 2

「なるほど。それはいい着眼点ね」

精霊の少なさに関するヨハネスの考察を聞いて、ユニはゆったりとティーカップを傾けた。

「正解を教えて下さい」

教え子に解をねだられたユニは緩い微笑みを返すのみだ。もっと考えろというのだろうか。ヨハネスが眉を顰めて考え込み始めると、それを止めるようにユニは口を開いた。

「『何もしていない』、よ」

「え?」

「『精霊が少ない』という事実は認識されていないわ」

ヨハネスはポカンと口を開けている。

「そうだよな、判んないもんな」

ケイナは小さく呟いて頷いた。

「だから、貴方が『少ない』と感じたのなら、そういう事もあるかも知れないわね」

「………」

ヨハネスは戸惑っている。他の魔術師と縁のなかったヨハネスは一般的な魔術師と自分との違いがまだよく解っていない。

「例えば前学長や現学長やそのお弟子さん、その辺りなら貴方と同じように感じるかも知れないわね。でも一般に、静寂結界内で精霊の数なんて把握できないものよ」

うんうんと肯くケイナを見て、ヨハネスは「そうなんだ…」と力なく受け入れた。

「でも実際、眠鬼わたしの眼から見ても精霊は少ないように思うわ」

眠鬼はそんな事も判るのかとケイナは呆れに近い表情をしている。

「じゃあ、カジノに行く前に時間が出来たわね。今度こそ本当にゆっくりリゾートホテルを楽しむといいわ」


楽しみ方が解らなかったヨハネスはケイナに引き摺られ夕迄の時間を過ごした。スパやエステに興味はあったが、ケイナが好まない為挑戦出来なかった。それでもあっという間に時間は過ぎた。


「ケイナ、ギャンブルが好きだとは思わなかった」

カジノに行ってみたかったと話し、今もワクワクしているケイナに違和感がある。

「ん?ギャンブルは別に好きじゃないし、ギャンブル狂いは碌でもないと思ってるぞ」

「じゃあなんで行きたかったの?」

そう問われ、ケイナは腕を組んで顎を引いた。

「ティフェレトの賭場はな、技の競い合いなんだよ」

「……碌でもないね」

「だろ。だから運と確率で遊ぶゲームには興味がある」

ヨハネスは凡そ納得した。

ティフェレト域、特にリディウムでは賭事のルールは『なんでもあり』だ。勿論イカサマはバレればひどく罰せられる。しかしバレなければイカサマではない。そしてその見抜き合いはシステム的なものに依らない。巧みだった方が勝者だ。見抜けなかった、阻止できなかった方が悪いのだ。いのちを賭けた化かし合い。それが賭博だ。

対して、ラインストレートのカジノは厳粛である。不正が起こらないようシステム的に制御されている。それでも必ずイカサマは行われている筈だとケイナは思うが、特殊事例になるだろう。確率を計算し、運に任せる。その楽しみ方が成り立っているのかどうかにはそれなりに興味がある。

「あと単純に」

一度言葉を切ったケイナは、ニカッと歯を見せて笑った。

「ロマンだろ!カジノだぞ!?」

見慣れた賭場とは明らかに違う。庶民としては話の種に一度は行ってみたい場所だった。

「……まあそうだけど。やっぱ、意外」


***


煌びやかで賑やかな建物に辿り着き、黒服の間を抜けてホールへ足を踏み入れると、そこは絢爛の世界だった。

全体的に黄と橙、差し色に緑という派手な人間が両手を広げてゆったりと歩み寄ってくる。ケイナはその派手さに彼の故郷を推察しつつ「鳳梨みたいだな…」と思ってしまった。

「ユニ先生!ようこそおいでくださいました」

「相変わらず派手ね」

ユニと知り合いらしい。挨拶の言葉からして、この鳳梨は客ではないだろう。

ユニは彼にふたりを紹介すると、今度はふたりに向き直った。

「ふたりとも、こちらカジノとホテルのオーナーさん」

「どうも」

「………」

宜しく~と愛想良く返してくれるオーナーに対して、ヨハネスは敵意満載の顔をしている。オーナーということは、静寂の檻の触媒もこいつの所為だ。

「聞きたい事があればどうぞ?」

ヨハネスが言葉を選んでいる内に、まずはケイナが手を挙げた。

「何故、魔術禁止の施設を作ろうと考えたんですか?」

よく訊かれるのだろう。オーナーは考える様子もなく淀みなく答える。

「俺は魔術のない地の生まれでして。自分の周りからは極力神秘を排除したいんですよ」

出身はリディウムかと思ったが、ケセド域だったのだろうか。いや、ホテルの冷暖房設備を考えれば、イェソドという可能性もなくはない。このカジノ内だって夜とは思えない程明るく照らされている。光源は炎だけではなさそうだ。

「それなら何故この国に?」

「魔術の総本山だからこそ、ですね」

最も魔術の浸透した地で反魔術を掲げて見せる。売り込み方も魔術に対しての敵意は見せておらず、中々やるなとケイナは口を噤んだ。代わりにヨハネスが牙を剥く。

「その割には神秘と魔術を利用してるみたいだけど」

「あの触媒はちょっと趣味が悪いわね」

ヨハネスはその件に加え神秘の体現のような種族であるユニを先生と呼んでいる事も含ませていたが、解っているのかいないのか、ユニはおっとりとそう言った。

「これは手厳しい。俺にはあの方法しか思い付きませんでした。それに、多くを排す為には多少の我慢は必要です」

オーナーは肩を竦めて見せる。玄獣のオブジェに関しては「かわいい」と好評ですけどね、と付け加えた。

「ユニ先生とはどのような関係で?」

ヨハネスが口を滑らせないようにとケイナは少し話題をずらす。相手は金と力を持った商人だ。敵に回すのは得策ではない。

「昔…、困っていた時に助けていただきまして。それからのご縁ですね」

「ふふ。懐かしいわね」

ユニが困っている人を助けるだろうか、と生徒ふたりは首を傾げた。無礼を察したユニは緩やかに笑んでいる。ふたりはそっと視線を外した。

「どうぞ気楽に楽しんでいってください。此処は厳格な賭場ですので、過剰に鴨られる事はありませんよ」

多少不穏な言葉を残してオーナーは去っていった。ユニを見ると、変わらず穏やかに微笑んだままふたりを促した。

「じゃあ少し遊んでみましょうか。あのパイナップルの胆を冷やしてあげましょう」

(パイナップルって言った…)

思うところが多かったらしい。

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