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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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親戚の話

樹歴869年

母から速達が届いた。内容は、祖母がそろそろ危ないから一度会いに来いという旨だった。環境局での任期は長くない。貴重な時間ではあるが、祖母にはケイナも世話になった。ケチケチするわけにはいかない。母は既に祖母の元に居るらしいので、ケイナはひとり、ターミナルを経由してホドへと向かった。


ホドのターミナルを出て、町に向かう馬車を待つ。待合所で、見た事のある人物を見掛け驚いた。腹が立つほどサラサラの長髪。ホド域では標準だが、塔では目立つ背の低さ。太っている訳ではないのに広い横幅。陰鬱な顔。間違いなくウイユだ。塔の講師である。ガイが入ってくる迄は呪学を教えていたが、その後は何だったかケイナは覚えていない。だが、つまりは専門でもないのに呪学を教えられたという事なので、ホド出身の呪術師だったのかも知れない。となればここで見掛けるのもそう不思議ではないのだろう。タイミングは悪いが。そうでなくとも、塔の講師が出張講義をする事は偶にある。特にホドには魔術を教える学校もあるので、そういう事もあるだろう。

そんな事を考えながら時間を潰している間に目当ての馬車が来た。


ケイナの向かう町は例えば学生時代に皆で訪れた村のような所謂田舎ではない。そこまで不便ではないが、しかし栄えてもいない。ターミナルから馬車で2時間程度の距離だ。まさかの同じ馬車に乗り込んできたウイユだが、出発から1~2個めの停留所で降りるだろう。そう思っていたのに、一時間過ぎても車内に居座っている。車内の密度はどんどん減って、残り30分程度になった頃にはふたりきりだった。

ケイナはウイユの授業を受けた事はない。向こうは知らない筈だ、と遠慮なく視線を向けていた。

「何か言いたい事があるのかね」

「へっ!?あ、いいえ」

ふたりきりになっても全くこちらを気にしていなかったウイユが、まさか話し掛けてくるとは思わなかった。流石に見過ぎたかと慌てて視線を逸らす。

「確かに、こんなところで遇うとは奇遇だが。環境局に居たのではなかったか」

「!?」

環境局に言及する以上、ケイナを正しく認識しているのだろう。何故だ、とケイナは訝しんだ。ケイナにはウイユと自分の接点が解らない。が、ウイユがトビオカとエリスの直弟子を知らない筈がなかった。

混乱したまま、ケイナは窓の外を見て少し安心した。

「…あー、と…では。私次で降りますので」

そそくさと立ち上がる。何故かウイユも降りる準備を始めた。え、という顔で見ているケイナに一言告げる。

「私も此処だ」


祖母はケイナたちを待っていたように、その晩息を引き取った。長生きした方だと思う。時間と金をケチらなくて本当に良かった。泣き濡れる母や親しい親族に代わって、ケイナはその後の準備に勤しんだ。ただただずっと、理解を拒む頭がケイナの首を傾げさせていた。

──何故、あの講師はウチに居るのだろう。


例えば。治療か何かの目的で呼ばれていた。ケイナも漸く思い出したが、ウイユは生体錬金術を研究している。若しくは。呪術的な某かの用件で呼ばれていた。ホドの斎儀は知らないが、呪術師が出張っても不思議はない。そうであれば、ガイじゃなくて本当に良かったと思うしかない。だがまあ。状況を見ればケイナにも察しはつく。ただ認めたくないだけだ。

調子の戻った母親に寄り添いながら、ケイナは色々と仕切り出した男をぼんやりと目で追った。ウイユはケイナに労いの言葉を掛けた後、その後の支度を引き継いでくれた。

「母や。何故塔の講師が喪主の位置にいるのだろう」

母は斜め上を見て硬い笑顔を浮かべていた。

「それは、あの男がおばあちゃんの第一子で、私の兄だからです」

「……………そうだろうな」

既に祖父がいない以上、長男が仕切るのが通例だ。

「なんで教えてくんないのそういうこと」

「関係ないじゃない」

関係ない事ないと思う。いやでも確かに関係ないかも知れない。うんまあ関係ないか。悶々とした後、ケイナは納得しておく事にした。



そもそも親に兄弟が居る事も知らなかったな、とケイナは振り返る。祖母からも聞いた事がない気がするが、そこは覚えていないだけかも知れない。堂々と仕切っていたウイユに対する回りの反応は悪いものではなかった。特に厄介な理由があって秘されていた訳ではないらしい。

「おやケイナくん。今日から復帰ですか?もうちょっと休んでも良かったのに」

「あー、すいませんでした。大丈夫ですよ」

「でもお祖父さんでしょ?亡くなられたの」

ん?とケイナはトビオカを見た。

「……先生、帰省中にとんでもない事知ったんですけど」

「わあ何ですか?」

トビオカの耳に口を寄せる。コソッと伝えると、トビオカは目を見開いた。

「遂にバレちゃったんですねぇ」

「知ってたんですか!」

コロコロと笑うトビオカは残念そうだ。

「本人たちだけ知らないの、面白かったんですけどねぇ」

その言葉から察するに、ウイユもまた今回初めてケイナとの関係性を知った筈である。あまりの反応のなさにそれはそれで驚く。

ぐぬ、とケイナは顔を歪ませた。数年後には同僚になる。今後も接点なんてないだろうが、どうしても、知っているだけでやり難い。職場に親戚が居るなんて最悪だ。

戻るまでに忘れてしまおう。

ケイナは記憶を吐き出すように、ゆっくりと肺の中身を絞り出した。

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