浮島 9
「おはよう、諸君。では遺跡まで出発だ」
学長の号令で、一同は遺跡へと出発した。
「まずこの島だが、恐らくは──何処に浮いているわけでもない。この島は、切り取られた『記憶』の残骸だ」
「はぁ?」
エトラは複雑に眉を顰めた。
「―…過去、ってこと?」
ソーマはハトにそっと尋ねた。
「『再現された過去』──かしらね」
ファズは肯いた。
「地質から推測してもかなりの昔です」
「それこそ、煌月が生まれる前だろう。空気が煌力に侵されていない」
学長の説明に、ネレーナは自分の真上を見上げた。ルエイエは続ける。
「煌力に侵されていない故に、現代に生きる我々には異様に思えるほどキレイな空気。時期のズレた植生。地質。これらは此処が、今とは違う時間…過去であると示す」
「そしてそもそもこの転移の原因はターミナルストーンの暴走です。転移先であるこの島も、ターミナルと何らかの因果のある場所でしょう」
ネレーナは視線を戻すと口を挟んだ。
「じゃあやっぱり、黄金の国?」
ユーリカが頭を振る。
「それはおかしいわね。ターミナルの設置は創国の後。創国主との因果なら、既に煌月があるでしょう」
ユークは確信を持って呟いた。
「国家守護獣」
「あっ。旧い玄獣!」
「コクマの国家守護獣は、竜だ」
ルカとオブシディマスが追随する。ノルドは納得がいった。
「それで過去だから、ああ、小型ドラゴンのマーキングの痕」
その答にハトは目を伏せた。
「つまり此処は昔の昔の玄獣の住処。記憶の残骸。要するに、ダァトの中…なのね」
「廃屋に小動物以上のものが寄り付かないのは恐らくこの島の主たる守護獣の意向なのでしょう」
ガイの予測を聞いてオルクレアは目を閉じた。
「人間と暮らしていたのね。大切にして」
ふわふわでキュンキュンの大地の記憶。とても大事な、とても優しい記憶なのだろう。
「さて、重要な話になるが」
ルエイエは少し硬質な声で仕切り直した。
「此処がダァトなら残念ながら僕には自力で脱出する術はない」
「はっ!??」
突然の裏切りにケイナが非難の声を上げる。ルエイエはそれ以上の文句が出ないよう片手を上げて制止しながら続けた。
「ファズ先生とオブシディマス先生、それにネレーナくんに手伝って貰ってターミナルストーンを強制的に起動しても」
各々に視線を配りながらゆっくりと話す。
「ダァトと現実世界は時の流れが不一致だ。召喚の真似事をするだけで大それた功績だからね。時間の調整までは出来ない」
学長も意地が悪い、とでも言うようにガイは嗤って後に続けた。
「ただ幸運にも、専門家が居てくれたのでね」
視線はハトに向いている。憮然と「くるっぽー」と洩らすハトに、ソーマは感極まった。
「ハトの特殊能力が皆の為になる時が来るなんて…!」
「意外とシレっと失礼な事言うのな」
パーブルの思わずの突っ込みもソーマの耳には届かなかった。
「…期待しないで。実体を運ぶなんて、初めてだもの。でも…」
一度区切って、ハトは皆から目を逸らした。
「ユニ先生に応援要請を出したから、きっと大丈夫」
「ハト――!!すき!!」
ケイナがハトに抱き付こうとして盛大に空振ったところで、ルエイエは声を張り上げた。
「では術式を展開する!全員の魔力をありったけ使わせて貰うぞ!全力で回してくれ!」
ネレーナが演奏を始め、ハトはルエイエと手を繋ぐ。ファズの手元のターミナルストーンが青く輝き出す。徐々に強くなる青い光に視界が奪われていく。急速な魔力消費に浮遊感、遠心力を感じ意識も飛びそうになる。
やがて──
「此処は…休憩室。全員揃っているな。暦は?」
ルエイエが確認する。
「…とんだ日当日」
「時間は、おおよそ3時間半後」
答えたのはファズとリーザ。そして。
「おかえりなさい。無茶をしたわね」
「ユニ先生。助かりましたよ」
笑みを交わし合うユニとガイに目もくれず、現実を確認したケイナは今度こそハトを抱き締めた。
「ハト――!!すき!!」
「ケイナだけ置いてくればよかった」
逃れ損なったハトは死んだ顔でなすがままにされていた。あり得ない筈だが、置いてきたとしても自力で戻ってきそうな予感もした。
「ターミナルストーン…」
オブシディマスの呟きを拾い、ファズは手の中の石を見た。
「ああ、砕けてしまいましたね」
青かった筈の石は色を失い、割れてしまっていた。
「負荷が大きすぎたな。仕方ない、命あってのなんとやらだ」
ルエイエは肩を竦めた。
「皆、迷惑をかけた。お詫びは後日改めて。今日は解散だ。明日辺りまで魔力が使えないと思うから、しっかり養生してくれ」
改めて皆の顔を見渡す。やたらと元気なのはケイナのみで、他の面々は疲れきった顔をしていた。
「本当に、お疲れ様。ありがとう」
おしまい




