浮島 8
「皆お疲れさま」
調査を終えて戻ってきた面々をルエイエが労う。
「中々有益な調査結果が集まってる。情報をまとめたいので各自ゆっくりしていてくれ」
学長の意向により、夕飯前に各自暫しの休憩を取る事になったのだった。
「君は意外とこういう環境に強いな」
「はい?なんです?突然…」
オブシディマスに声を掛けられ、ケイナは訝しんだ。
「いや、よく応用が効いていると褒めているんだ。柔軟な対応力がある」
「…ありがとうございます?」
さっぱり意図が解らない。手元の瓶に目を落とす。ああコレの事だろうかとアタリを付けた。
「まぁ無いものねだりは無駄ですし…魔術が使えないなら物理で。あるものでなんとか回さないと」
元々魔術が特別得意な訳じゃない。ケイナはしがない錬金術師だ。出来ない事は出来る事で代用してきた。皆ほど不便は感じていないかも知れない。
「実践向きの望ましい姿勢だ。錬金術師とは惜しいことだな」
「はっは!」
ケイナは棒読みで笑った。
「錬金術師なめたもんじゃないですよ?」
褒めに来たのか貶しに来たのか判ったもんじゃない。
上を見て立ち尽くす小さな影が、まるでユークみたいだなとネレーナは思った。
「オルクレア先生?空、どうかしました?と」
オルクレアは空を見上げたままだ。
「んー。ずっと静天なの」
「そう言われると、そうですね…と」
あまり気にしていなかったが、それは確かにとてもおかしい。オルクレアに倣い頭上を仰ぎ見る。
「ていうか、煌月がないんじゃないかしら」
ネレーナはふと疑問に思った。
「そういえば煌月って、えーと、いつからあるんですか?」
「うーん、正確には判ってないみたいだけど、創国の時代よりも前からあるって言われてるわ」
記録にも残っていない程の大昔だ。ネレーナはぼんやりと想いを馳せる。
「煌月の…なかった時代…」
パーブルは廃屋の壁に凭れ掛かった。
「は~ゆっくり休みてぇ」
本当にそろそろふかふかベッドで眠りたい。
「なんだかんだ結構働きますね、パーブル先生」
「おっ、見直した?」
声を掛けてきたアルバに調子の良い笑みを返す。
「まぁ、非常時だしなぁ。正直早く帰りてぇし」
帰る為には働かなくてはならない。
「ところでコレって無断欠勤にゃならねぇよな?学長一緒だし」
「そりゃそうでしょう。でも突然の休講で生徒たちには迷惑かけちゃいますね」
塔の様子を想像して、ふたりは軽く息を吐いた。
「こんだけ人が居なくなれば塔でも騒ぎになってんだろうなぁ。エミリちゃん心配してくれてるかしら」
小悪魔な同僚に想いを馳せる。
「あはは、怒られはしそうですよね」
医務室を任せきりにしたとなればニッコリと怒りを滲ませる姿が容易に想像出来てしまう。
「は…早く戻りたい…!」
ルカは唐突に目を開いた。
「わかった…!」
「あらどうしたの?」
ユーリカが目をぱちくりさせている。
「解りました!この感覚。旧い玄獣の気配なんです」
握り拳で立ち上がったルカを見上げ、ユーリカは頷いた。
「玄獣…あぁ、そうだったのね」
ルカは目を伏せて脳裏の想い出を振り返る。
「あの子と居た時とよく似てる…。道理で懐かしい筈よね」
「ふふ、そんな優しい顔をするのね、あなた」
「えぇ!?どういうイミです??」
ルカは少し照れ臭そうに口を尖らせた。
「ソーマくん?何書いてるの?」
ソーマはノルドを確認し手元を見せた。
「あっ。えっと、日記です。思考の整理に良いって、リーザさんの真似で…」
「あー。確かにリーザちゃんよく書いてるね」
(呪詛かと思ってた)
凄い剣幕で書き込んでいる事が多いので勘違いしても仕方がない。ソーマはノルドの心の声には気付かぬまま視線を落とした。
「皆それぞれ何らかの成果を上げてるのに…って落ち込んでしまいそうで」
ノルドはソーマと視線を合わせた。
「ソーマくんは他の誰もしない事をしてくれてるじゃない。ハトちゃんに釘をさしたりとか、廃墟の掃除をしてくれてたりとか」
「………」
不服そうな様子に眉を下げる。
「ま、そういうのじゃないって気持ちもよく解るけどね」
とても知っている感情だ。自己評価は時間を掛けて形成するものだ。ここでノルドが説いても、すぐには効かない。大切なのは成功体験の積み重ねだ。ノルドはポンポンとソーマの肩を叩くに留まった。
「皆の調査の結果、大体の予想は立った。幸運にも恵まれた。想定通り明日には帰れるだろう」
学長の言葉に学生たちは色めき立った。
「ハト君とネレーナ君は打ち合わせがある。他の皆はゆっくり休んで出来るだけ魔力を蓄えておいてくれ。それなりに頂く事になると思うので、覚悟してほしい」
ハトは面倒臭そうに、ネレーナは素直に「はーい」と従う。休息命令に従い、皆は真っ直ぐに寝る準備を始めた。
「では、おやすみ」
明日には帰れる。その言葉を信じて。




