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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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浮島 6

一日分の報告を纏め、本日も食後はミーティングとなった。

「どうやら風の精霊は扱い易いらしい、ということだが。命令無しでこちらに有利な動きを見せるとはね」

「不思議ですね~、と」

ルエイエに視線を向けられたネレーナは他人事とばかりにのんびり首を傾ける。ルカは言われてみればと頷いた。

「風はいうこと聞いてくれるのよね」

「あぁなるほど。確かに『精霊が少ない』というよりも『命令に従う精霊が少ない』って感じだね」

ルカの言い回しにアルバが納得すると、ファズが試すように問いかけた。

「であれば、それは何故なんだろうね」

すぐに答えたのはユークだ。

「滝」

「あぁ、ひとつはそうね」

よく出来ました、と手を打つユーリカだが、ソーマにはまだ解らない。

「滝が…どういうことですか?」

説明に応じたのはパーブルだ。

「あー。滝から風の精霊がバカスカ生まれてんだな」

「だから数が多いってこと?」

エトラにもイマイチ解っていないらしい。続きはルエイエが説明する事にした。

「仮定だが、この地の精霊は既に何かに従っているとする。だから新たに下されるこちらの命令に従い難い。ところが風の精霊は滝から新たに生まれ続けている。生まれたての精霊はまだ命令に縛られていないから、こちらの命令にも応じてくれるというわけだ。勿論生まれる量も多いから、島の命令に縛られる前にこちらに従わせられる量も増えることになる」

聞き終えたケイナはそれならばと投げかける。

「んじゃさっきみたいな嵐の時なら外から新たな精霊がやってくるから魔術も使い易くなる…?」

「お祭り騒ぎの精霊たちをしっかり制御できるならな。通常嵐の時は術式が乱れ易いと何かの授業で習わなかったかね」

呆れ顔で説くガイにケイナは舌打ちしたい気分をそのまま顔面で表した。

「まだまだ判らない事が多いな。明日も調査を頼むよ」

今日のミーティングは此処までだ。皆が寝るまでの時間を好きに過ごすべく部屋を出て行く中、学長は生徒の一人を呼び止めた。

「ネレーナくんはこの後少し付き合って貰っていいかな?」



「おや、ハト君。どうかしたかい、きょろきょろして」

島の端ギリギリまで寄って上下左右を確認しているハトを見付け、ファズは注意がてら声を掛けた。傍から見ていて落ちそうで怖い。

「何も居ないな、と。…不思議な処ね」

「そうだね」

『何も居ない』。今ハトは空――、島外の空間を確認してそう言った。

「確認だが、君たちの領域とも別のものかい?」

「さぁ。ダァトの何処かなのかも知れないわ。私たちの知る場所とは違うけど」

ファズが出て来た事で講師陣のミーティングが終了したと覚ったハトは、一度廃屋へと引き返す事にした。


「そういやネレーナはフツーに魔術使えるみたいだったけど、アルバちゃんはどうなの?」

芸術科の総合講師は少し考えて答えた。

「使い辛いのは他の皆と変わらないと思いますよ。ネレーナは楽器を介す分、特別なのかも知れませんね」

「あー、そうなんだァ」

パーブルは納得する。芸術系の魔術なら使い易いのかもと思ったが、そういう訳ではないらしい。

「じゃ、やっぱ風か」


「浮いてるな~…。いや、下の方よく見えないし、軸があるのかも知れない」

「なるほど?」

ケイナが盛大な独り言を言いながら闇夜を覗き込んでいると、後ろから声を掛けられた。ガイだ。

「ところでそこに丈夫そうな蔦が生えているな」

「見て来ませんよ!?」

ガイはいつものように小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

「落ちられても寝覚めが悪い。冗談だよ」

「くっ…」

背を向けたガイにこれでもかという程歯を剥いて見送った。


ファズが会議室に戻ると、中にはオブシディマスがひとり立っていた。ファズを待っていたようにも見える。

「ディマス先生?何か?」

「講師ファズ。学長はターミナルストーンの研究を?」

その一言でファズは表情を引き締めた。

「…えぇ。ですが公表前の研究内容は秘匿するもの。何を訊かれてもお答えできませんよ」

「巻き込まれた私たちには聞く権利がありそうだが?」

「さて。では学長に直接伺って下さい。主導研究者は学長ですので」

一切語る気がないと言い切るファズにオブシディマスも小さく息を吐いた。

「何を考えている。ワーナーは、塔を危険視し始めている」

「それは――『宰相は』、でしょう」

「同じ事だ。あまり勝手な事はしない方がいい」

『同じ事』と来たか、とファズは内心嗤った。

「ご忠告どうも。学長は鼻で嗤うでしょうが、一応伝えておきましょう」


「………」

窓際の柱の陰で、アルバはダクダクと冷や汗をかく。

(見ちゃった…聞いちゃった…)

気付かなかったのか、お目溢しを貰ったのか。とにかく二人はアルバに構わず部屋を出て行った。遠退いたのを確認し、深く深くそぉっと息を吐き出した。盗み聞きをする気は更々なかった。勘弁して欲しい。

「…ディマス先生、ちゃんと仕事してるだけだよ」

「んん!?うん、そうだね。働き者で参るよホントに!」

いつからそこに居たのか、その言い振りだと始めからだろう、アルバの傍にはユークが座り込んでいた。手持無沙汰に足元の草を千切っている。

「ところで先生、コクマの国家守護獣ってなんだっけ」

「唐突な話題変換!助かるけど!」

国家守護獣なんて単語、塔じゃ中々出て来ない。アルバが他国域出身な事もあり、何だったか思い出すのに少し掛った。

「えーと、確か竜じゃなかったっけ?」

「じゃあ、それかな」

ユークは納得して立ち去った。

「???」

アルバにはさっぱり意味が解らなかった。


「な~んかガツッとした炭酸飲みたい気分~」

若い学生たちは適応力も高い。既に現状に馴染み娯楽を求めるようになった学友に、ケイナは自作のガラス瓶を掲げて見せた。

「作れるよ」

「ホント!?」

キラキラと目を輝かせるルカに空の瓶を渡す。水を汲んでくるように指示をした。

「甘くは出来ないけど」

「甘いのがいいな~」

そう言うだろう事はお見通しだ。甘くする為の手順を教えてやった。


「ねぇハト。ダメだよ」

ハトは無言でソーマの脇を抜けようとする。が、ソーマは立ち塞がる。

「先生は多分沐浴に行ったけど、裸になってはいないと思うよ」

「ワンチャン…」

「ダメだよ!今一着しかないんだし、バレるバレない以前に問題だよ!」

力強く説得するソーマを無言のままじっと眺め、根負けしたハトはひとつ頷いた。

「今は止めておく」

「解ってくれたんだね…!良かった!!」

ハトが理解したのは、ソーマが起きてる内は無理そうだという事だった。


ルカは目的の人物を見つけ大きく手を振った。

「あ、居た居たガイ先生~。これ甘くして下さい!」

「…甘く?」

ルカが差し出したのは水の入ったガラス瓶だ。気泡から炭酸水だろうと推測できた。

「ケイナに貰ったの!先生に頼めば甘くして貰えるって聞いて!」

なるほど、とガイは心中納得した。瓶作りのご褒美だ。その悪戯に乗ってやろう。

「…よかろう。では舌を出したまえ」

「?」

ルカは言われた通りに舌を差し出す。杖が振られ、

「!!?ピリッと来た!?」

舌に静電気が落ちたような感覚が走った。

「飲んでみるといい」

ルカはまたしても素直に瓶に口を付けた。

「あっ。甘ーい!美味し……先生!」

気付いたルカは楽しそうな顔を一転険しくしてガイを睨んだ。

「唾液もずっと甘くてキモチワルイです!」

「まあそうなるな」

呪術学講師ガイに頼んだ以上、甘くする方法は呪術である。炭酸水に実際に甘味を付けるわけではなく、味覚の錯覚を引き起こす。

「も、戻してー!!」

単なるカワイイ悪戯だ。5分も経たず、ルカの味覚は正常に戻った。

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