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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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浮島 5

夕刻前。それは幸いにも皆が廃墟に居るタイミングだった。

「わー!せんせー!」

「ケイナくん?どうした?」

駆け込んできたケイナに注目が集まる。ケイナは息を整える時間も惜しんで入口から叫んだ。

「すぐ廃屋に結界張って!ヤバイの来る!」

「簡潔に説明したまえ。なんだって?」

呪術学講師相手に斜に構える余裕もないらしく、素直に報告を上げる。

「雲!雲の中入ります。積乱雲!」

「!」

各々目を見開いた。

「なるほど。ここは空だったな」

オブシディマスの呟きにルカは首を傾げた。

「そんなの塔でもよくあることじゃない?」

ユーリカは困ったように眉を下げる。

「塔はしっかりと対策がされているのよ。今から間に合うかしら」

「間に合わせなきゃ命の危機っしょ。ガイちゃん頼む!」

パーブルに振られたガイは肩を竦めて見せた。

「結界の方はもう起動させました」

「一応、既に下準備だけはしてあったからね」

「今、ずっと張りっ放しはできないからね~」

ファズとオルクレアも含めた3人による結界だ。

ルエイエは満足そうに笑みを浮かべた。

「流石頼れる先生たちだ。助かるよ」

「良かった~」

ケイナは漸く脱力し、その場にへたり込み暫し呼吸を整えた。ソーマはケイナの傍で心底の感嘆を洩らす。

「…流石先生たちは凄いなぁ…」

「しかし即席、しかも魔術が使い辛い状況でとなると凌ぎ切れるかは不安が残るな」

水を差したのはオブシディマスだ。アルバは慌てて人差し指を立てて見せた。

「しー!なんで口に出しちゃうんですかっ。不安にさせちゃうでしょ!」

「状況は正確に共有し対策を練るべきだと思うが」

ケイナが思うに、オブシディマスは講師としての意識が低いワケではない。良く言えば、個々を尊重するタイプなのだ。

室内は急激に暗くなり、ガコンと大きな音を立てた。ハトが呟く。

「入った」

「おぉ…」

途端、大嵐に見舞われた。ユークは興味深くこの状況を観察している。

「………」

(確かに、万全の対策をしている塔でも偶に外壁剥がれるのよね…)

先程のオブシディマスの言葉に不安を覚えた者は確かに居た。リーザと、エトラだ。

「だいじょうぶだと思うわ。だって、この廃屋残ってるじゃない」

気遣って…というよりは単に事実を述べたオルクレアの肩にファズが手を置く。フォローとしては上出来だ。少し言葉を足してやる。

「ええ。積乱雲に入るのは初めてではない筈。この建物自体は耐え得るという証明になりますね」

それでも不安が晴れる訳ではない。

「えーと。えーと」

ネレーナはオロオロと皆の表情を見渡す。空気の悪さに耐え兼ね、楽器に手を伸ばした。

「!」

「あ。すごい」

演奏が始まると、結界を維持している3人は顕著に反応を示した。

「ネレーナくん、どのくらい演奏を続けられる?」

「え?えーと…1~2時間くらいなら…?」

ファズの問い掛けに首を傾げながら答えると、ガイはニヤリと笑んだ。

「充分だ」

「???じゃあこのまま続けますね~、と」

バイオリンの音が響く中、面々は嵐が過ぎ去るのをただ待った。



「ふ~一難去った~!良かった~。嵐に怯えつつ夕飯の支度とかしなくちゃいけないかと思った~」

額の汗を拭う仕草を交えつつケイナがガラス瓶を移動させる。調理場に設定した場所でひとりで黙々とガラス瓶を作っていた最中、流れ来る雲に気付いたのだった。

「そうね。かなりスリリングだったわ」

エトラはうんざりと自ら苦労して捕ってきた獲物を準備する。

「塔の防御システムってかなり優秀なんだね…。改めて実感したよ…」

雷も雹も、塔内でそれによる命の危機を感じた事はまず無い。

ソーマとエトラの様子を見て、ルカはそわそわと同志を求めるようにケイナを見た。

「でもちょっと面白かったわよね!」

「二度とゴメンだよ…!」

ケイナが首を振る間でもなくソーマが一蹴した。「え~」と不満そうなルカには適役を与える事にする。

「ルカちゃーん、肉捌いて~。私ら調理するから」

「よし!任せて!」

腕まくりしたルカは活き活きしていた。


嵐の影響の確認を兼ねて、アルバとネレーナ、オブシディマスは廃墟周辺を見回りしていた。

「ネレーナくん、休んでなくて大丈夫かい?」

「大丈夫ですよ~、と。本当に短時間でしたし~」

数十分の演奏で疲れてしまう程軟ではない。寧ろ今回巻き込まれた学生の内で、1位2位を争う体力の持ち主である。講師を含めても5位以内だろう。

「結界を維持していた講師陣はぐったりしていたが君は平気なのか」

「そりゃあ、術行使してた先生たちと楽器弾いてただけの私じゃ…」

楽器を演奏していただけで何故こうも心配されるのかが解らない。そう答えるとオブシディマスは目を細めた。ネレーナは物怖じしない方ではあるが、流石に少し怖いと思ってしまった。

「謙遜か?立派な魔力拡張術式だったが」

「いや…場を和ませようと思って弾いただけなんですけど…」

「え?そうなの?」

魔術を使ったつもりは微塵もない。術式を乗せてしまう癖はあるかも知れないが、深い意味は持たせてはいない。精々『音の通りが良くなるように』といった程度だ。

「興味深いな。戻ったら報告しておこう」

オブシディマスもネレーナの言葉を疑うつもりはないようだ。

「あんだけブーストの効果があれば対策も変わってくるかも知れませんしね」

そう言えば、学長がそういう効果が必要だと言っていた気がする。

「…ぁー、ぇーとぉ…」

身に覚えのない事過ぎて、ネレーナは困ってしまった。

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