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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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浮島 4

「おはよう諸君。取り敢えず異変もなく全員朝を迎えられたようで結構だ。では予定通り探索に出掛けてくれ。ただし一人での行動は控えるように」


其々に出掛けていく中、ソーマはリーザが廃屋に残っている事に気が付いた。

「………」

そっと覗き込む。どうやらノートに何かを書き込んでいる。

「リーザさん、何してるんですか?」

「日誌よ。異常事態過ぎて苛々するから、日誌をつけて心を落ち着かせているの」

リーザは話す間も書く手を止めない。

「な、なるほど…!」

「大丈夫。落ち着いたらちゃんと協力する。するわ」


その割を喰ったのはケイナである。リーザと行動を共にしようとしていたケイナは宛が外れ、あろうことか呪術学講師に捕まってしまった。

「………」

「そう露骨に嫌な顔をするものじゃないぞ、ケイナくん。さぁ調査を始めようか」

連れてこられたのは川縁だ。場所としては得意な範囲だが、同行者がキライ過ぎる。

「いやだなぁ先生。助手なんて要らないんじゃないですか?」

暗にひとりでどうぞと言ってみるが、相変わらずのニヤニヤ顔で躱されてしまう。

「なに、何物も使いようだよ」

「そっすか…」

ケイナは諦めと共にしゃがみこんだ。


暫く川縁の土壌を見ていたケイナはふぅと顔を上げた。

「先生。この辺の砂、ガラス作れそうです」

「なるほど。ではいくつかサンプル瓶を作ろう。君、魔術は使えそうかね」

「厳しいですけど、これでも錬金術専攻なんで。ケイ酸塩の抽出加工くらいはやってみせますよ」

詰まらなそうな顔のまま淡々と答えるケイナに、ガイはひとつ鼻を鳴らした。

「…なんスか」

「いいや。少し見直したよ」

その返答に、ケイナはこれ以上不可能な程顔面を歪ませた。


その下流。ユークはただ無言で滝を見つめていた。ついて来ていたルカはブーブーと文句を言っているが、ユークには届いていないようだ。

「ユーク~~、いつまで滝見てんのよぅ~」

「………」

「つまんな~い、つまんな死しちゃう~~~!」

「………」

ルカが耐え兼ね力尽くで別所に連行するまでユークは無言で滝を見続けていた。


一方、草原ではネレーナがご機嫌に演奏中だ。

「お。それ知ってる。先生その曲好きよ」

「そうなんですか?と」

曲を聞き付けてやってきたパーブルにネレーナは演奏しながら応じた。

「ネレーナの楽術はフツーに使えてるみたいだな」

「寧ろ調子はいいですね~。空気がキレイだからかな、と~」

「ほーん。確かにまぁ、風はいくらか使い易い気がすんな」


ネレーナの演奏を聴きながら、アルバは胸一杯に草原の空気を取り入れた。

「う~ん、ホント空気綺麗ですね」

「そうねぇ。水もそうだけど、ちょっと綺麗過ぎね」

ユーリカは自らの頭上を仰ぎ見る。そこには何もない。見知った月は輝いていない。

「これで魔術が使えたらなぁ。きっと相当精度の良い幻術がお見せできるのに!」

キラキラと想像を膨らませる若者にユーリカは思考を途切れさせた。

「ふふふ、確かにそうそうない、良い舞台ね」

しかしアルバはふと神妙な顔をした。

「でもなんていうか。既にこの景色が出来の良い幻術っていうか、そんなような不思議な感覚ありますね」

「…あら先生、勘は大切にするものよ」

皆が抱き続けている妙な感覚のひとつを、初めて言語化出来た気がした。


ノルドはハトを追って石柱群のある場所までやってきた。単独行動は控えるようにとの御達しだ。ひとりでふらっと出て行くハトを放ってはおけなかった。

「うーん、調査って言っても何をしたらいいか…」

目立つのはこの石柱群だが、地方文化に詳しいわけでもない。

「この石柱、見たことある…?」

「え?初めて見るけど…」

ハトの呟きにノルドはまじまじと石柱のひとつを観察する。経年劣化か所々に欠けが目立つ。

「玄獣の丘に似たようなのがあった」

気になる傷を見付けたが、ノルドは『玄獣の丘』の脳内検索を優先させた。ヒットは一件。

「あぁ、ケテルの遺跡だったっけ?そうなんだ?」

確かケテルの国家守護獣が眠っていたとされている、折れた石柱の立ち並ぶ平原だったと記憶している。場所はティアラの辺りだったか…流石に詳しくは覚えていない。

「ハトちゃん出身ティアラだっけ。行ったことあるの?」

「実際に行ったことはないけれど。夢で」

「夢かぁ!便利だねぇ」


ファズとオルクレアもまた石柱群を見に来ていた。

「さてと。オルクレア先生が一緒なら、調べる対象は決まってきますね」

「その石柱?…この石柱、なんだか変。ふわっとする」

オルクレアの感想は感覚的過ぎて報告に難がある。

「成分を詳しく調べるには機材が足りませんね。ざっとになりますが――」

石柱に手を添え、解析術式を走らせようとした処、

「…!」

弾かれた。魔術が使い辛い所為で失敗したのとは感覚が違う。今のは『拒絶』だ。

暫し呆然とするファズと石柱を何度か見比べ、

「ちょっと持って帰っちゃう?えい」

「あっ…」

オルクレアは石柱を欠いた。破片を誇らしげにファズに突き出す。

「………」

やってしまったものは仕方がない。持って帰って、学長に見て貰う事にしよう。


「ふむ、食糧調達か」

オブシディマスとエトラは森へとやって来た。任されたのは調査ばかりではない。昼も夜も、何か採らなければ食べるものはない。脳の働きを鈍らせれば、魔術師は役立たずと化す。

エトラは昨日の夕食とその前に森で見た動物を思い出す。

「鹿みたいなのと…リス…ですかね。捕るって、罠を仕掛けるんですか?」

「こんな状況下でなければこれも立派な訓練になるんだが。…鹿が仕留めやすそうだ。重力をかけて脚を折る」

丁度遠目に見えた鹿が逃げ出す前に、オブシディマスは杖剣を振るった。甲高く鹿の悲鳴が上がり、近場の動物たちは我先にと逃げだした。

「うっ」

昨晩は精肉から免れたが、役割は持ち回りだ。必要性も仕方なさも理解はするが、血の気が引くのは抑えられない。

「折角だから皮も剥ごう。講師オルクレア作の椅子は座り心地に難がありそうだった」

オルクレアが廃屋内に用意した椅子は岩を隆起させて作ったゴツゴツした堅い椅子だ。毛皮でも敷いた方がいいだろうと考えたのはオブシディマスにとっては破格の思い遣りだった。ただ淡々と作業を熟すオブシディマスは、連れて来た生徒が反応しない事に気付き視線を向けた。

「…どうした。手伝え」

「………ぃ、」

顔面蒼白の生徒への気遣いは思い付かなかったようである。

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