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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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浮島 3

夕飯後、再び学長は皆に対し状況の確認を行った。

「さて現状だが。まず、此処が何処だか判らない。この浮島の下も全く視えない」

「雲ばっかだし」

不貞腐れたように言うエトラを一瞥して、ハトも頷く。

「もにょらに見に行かせても戻ってくるの」

「せめて下が見えれば場所のヒントになるのに」

ソーマも項垂れている。

「結界のようなモノ…だと思う。魔術に依らないもののようだが。使い魔は島を中心に10mほどで戻ってくる。物理的な手段で地に降りるのは難しそうだ。となると魔術的手段だが――」

ユーリカは頬に手を当てて首を傾け、学長の言を引き継いだ。

「ここでは魔術は使い辛いわね。大規模なものは難しいわ」

「帰れないって事ですか?」

リーザの瞳孔が開く。とても恐いのでケイナはそっと目を逸らした。

「いや、準備を整える必要があるってことさ。すまないが何日かかかってしまうかも知れない」

「具体的には?」

リーザの開いた瞳やオブシディマスの無表情を向けられても、学長は気にした様子もない。

「魔術が正常に使えるようになれば、飛び降りるなり塔に救援信号を送るなりいくらでも脱出方法はあるからね。まずは魔力の増幅器を作る。なに、ちょっと時間はかかるが必ず帰れるとも」

ネレーナは素直にその言葉を受け入れた。

「よかった~。学長さんに手があるのならのんびり待ちますよ~、と」

「では我々は何をすれば?」

皆を代表したファズの質問に、学長は一人一人に目を向け答えた。

「皆にはこの島の調査・探索をお願いする。併せて食糧調達もね」

「島の状態を確認して、魔術が使い辛い原因も解ればってことですね」

「場所のヒントもあるかも?だね!」

アルバとオルクレアが纏め、其々が頷いた処で食後のミーティングはお開きとなった。



「まったく大変な事になったわね」

肺中の空気を絞り出すような溜め息を吐くリーザに対し、ノルドはのほほんと廃屋の外壁に凭れ掛かっている。

「貴重な体験出来ちゃったね」

「呑気なんだから…」

ノルドも呑気な自覚はあるが、苛々しても仕方がないと思う。

「お茶とお菓子があったらもうちょっと皆もリラックスできると思うんだけどな」

非常時こそ心に余裕を作らねばならない。怒りや焦りで取り逃すものは多い。

「はぁ…。煎じて飲めるような葉なら生えてるわよ」

事務員とはいえ、元々リーザはホド域の呪術師だ。薬学知識もそれなりに身に付いている。

示された草に目をやり、ノルドは苦笑いした。

「ちょっとリラックスできるようなものじゃないね」


柵も硝子も嵌まっていない廃屋の窓から身を乗り出し、オルクレアは夜空に向けて両手を広げた。

「わー。此処も星がきれいだわ!塔もきれいだけれど」

ユーリカも枠に肘をついて空を眺める。

「そうね。天文が得意だったら場所のヒントになったでしょうけど」

残念ながら、幾ら眺めてもピンとこない。

「でも不思議ね。月が見えないわ」

「星の並びも全然違うわね」

戻れる戻れないは最重要であれど、『何処に飛ばされたのか』も知りたいと思う。

「それに一日中静天だったわ。そんなことってあるかしら」

ユーリカは思考に沈みそうになるのを堪え、幼い講師の肩に手を掛けた。

「………さ、しっかり調査するのは明日からにしましょう」

ぷぅと頬を脹らますオルクレアを窓から引き剥がし、寝場所へと移動させた。


「あれ?オルクレア先生、まだ起きてるんですか?」

「んん…だって、皆会議したりして…ふあぁ…わたしも…」

「あらあら。だめですよ、無理しちゃ」

ユーリカからオルクレアを引き渡されたノルドはオルクレアの帽子を脱がせ、部屋の角に置いた。

「本当はハーブティーでも淹れてあげたいところですが…残念」

廃屋回りには苦い草しか生えてなかったのは確認済みだ。

オルクレアは限界のようで、足も目蓋もフラフラしている。

「せいとより さきには  ねない も ん …」

「はいはい、大丈夫ですよ。みーんな寝ました。先生も寝ましょうね。ほら、こっちですよ~」

オルクレアの襟巻きを外して枕を作る。コートも脱がせて布団のように被せてやった。秒で意識を手放したその頭を二度程撫でて、部屋を見回す。戻っていない人物を確認した後、自分も寝る準備を始める事にした。


「おやディマス先生。お休みになられては?」

「この異常の中、そう休んではいられないだろう」

ガイはフンと鼻を鳴らした。

「だからこそでしょうに。いざという時動けるように備えておくべきでは?」

「これが私の備え方だ」

「でしたら結構。頼りにしていますよ」

異常事態の中で初めて過ごす夜だ。警戒に越した事はない。その役目を買うつもりではあったが。夜警に慣れた者がいるのであれば喜んで譲ろう。万全を期す為にガイは眠る事にした。

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