浮島 2
「川だ」
ソーマ、ハト、ケイナの3人は島の中央を流れる川に来ていた。水面を覗き込んだケイナは眉を顰める。
「キレイすぎるな、この水」
「飲めはする」
驚いてハトに目をやるが、試飲していたのは使い魔だった。ふたりはほっと息を吐く。
改めて辺りを見回し、川の上流下流を確認する。
「あっちに見える山頂から湧いてるように見えるけど」
「何処へ流れていくか辿ってみる?」
ソーマの提案に乗り、3人は下流へ向かった。
「ほら、浮いてた」
川が流れ着く先は海ではない。その先にはただ空が広がっていた。
「わー滝が途中で消滅するやつー。はじめてみたー」
ケイナは棒読みで感嘆した。
「いやいやないよ、だって浮いてる島なんて、どんな文献でも見た事ないし…!」
あまりの景色にソーマはパニックを起こしているようだ。ケイナは一頻り観察して改めてあり得なさを実感した後、溜め息混じりに吐き出した。
「またハトかユニ先生なんかしたんじゃないの」
ケイナの経験によると大抵の事件は眠鬼が黒幕だ。
「ぬれぎぬ」
ハトは一言そう溢し目を細めた。
「見て見て!変な石柱がたくさん!攻性術式の練習台に良さそうじゃない!?」
ルカとエトラは拠点とは反対側の森で、謎の石柱群を見つけた。
「何かの遺跡じゃないのコレ。なんか妙な感じもするし、壊すのは止めた方が良いと思うけど?」
走り出したルカを追ってきたエトラは、これ以上面倒を起こされては堪らないと後輩を諌める。
「そうかな?皆が言うその『変な感じ』、私全然解んないなぁ」
「巧く説明できないものだし、そんなに気にするほどでもないとは思うけど」
何がどうというわけでもない。ただなんとも言語化出来ない妙な感覚がある。違和感を感じないのはルカとケイナだけのようだ。
「あ、見て見て!なんか跳ねた!生物がいるみたい。見に行ってみない?」
ルカに手を引かれ、エトラも石柱群を後にした。
ユークは草原の中、呆っと立ち尽くし考え事に集中していた。
「精霊が少ない…ピュアも出て来たがらない……結界と…触媒…浮いてる島…うーん…」
ネレーナはユークの思考を邪魔することなく、気儘に楽器を手にしている。
「そんなに魔術障害あります?でも空気は澄んでて、音は伝わり易いですよ、と」
ネレーナの演奏にユークも暫し耳を傾ける。
「………きれい」
「うん、音もキレイです」
散らばった学生たちを掻き集め、ぐったりとした事務員と購買員が拠点に戻ったのは夕も近い頃だった。学長と講師陣の話し合いも終わっていた。
「皆すまない。解決に暫く時間がかかりそうだ。取り敢えずこの建物で夜は凌げそうだが、水や食料が問題だな」
皆を集めてそう言った学長に、エトラは思わず声を荒げた。
「泊まるんですか!?」
「帰る手段がない以上そうなる。巻き込んでしまってすまないが、合宿か何かだと思ってくれ」
ファズが宥めると、エトラも気まずそうに険を潜めた。ユーリカはそれを優しく見守り、他の面子に声を掛ける。
「他の場所はどんな感じだったかしら。飲めそうな水や食べられそうなもの、あった?」
授業の時のようにハイと手を挙げてソーマが答える。
「川がありました。水は飲んでも大丈夫そうだと、…その、ハトの使い魔が」
ハトは水の精霊の扱いに秀でている。問題児ではあるが、ここは信用してもいいだろう。オルクレアは他の学生に顔を向けた。
「食べ物は?」
「森にシカやらリスやらが居たわ。お肉は手に入りそう」
「え、誰か捌ける?」
食料になりそうなものを訊かれ先ず肉が出てくるとは思わなかった。ルカの発言に驚いてパーブルはメンバーを確認する。呆れたようにガイが答えた。
「貴方できるんじゃないですか?ディマス先生も」
元軍人に現役軍人。現場での食料確保も実習済みだろう。ノルドが軽く手を上げる。
「ボクも一応」
購買員は素材集めの延長で解体に詳しい。なんなら一番手慣れているかも知れない。
「草原にもイチゴとかなってましたよ~、と」
ネレーナの報告にほっとする者も少なくなかった。自分たちで捌くにはやはり抵抗もある。
「最低限なんとかはなりそうですね」
そう言うアルバもそのひとりだった。
結局、夕飯の準備はノルドが主導する事になった。オブシディマスが仕留めてきた獲物を前にルンルンと袖を捲る。
「さて捌きますかぁ」
「まぁ!解体からなんて初めてだわ」
「大きいものは初めて」
興味深く獲物を覗き込むユーリカとユーク。ノルドはエプロンからナイフを取り出した。
「じゃあ見ててくださいね。こうやって―…」
「革と角と…骨もココとか良い素材になりそうだなぁ」
「なるほど」
可食部を取り除いた後の骸をノルドとユークは熱心に観察している。
「あらあら夢中ね。お肉は私が調理しちゃうわね」
エトラが採ってきた野草を調味料に、なんとか食べられる料理に仕上げたユーリカはやはり年の功だった。




