幻術の先生の話
そう言えば、先生が変わってから幻術の講義は受けていない。ふと思い立って幻術学の教室を覗いてみる事にした。
教室の入口からひょこりと頭を覗かせる。今は授業中ではないようだ。生徒たちは幾人か居るようだが、各々自習中らしい。
「あれ?君は──」
目映い金髪の青年に声を掛けられ、不審者のように身が跳ねる。いや、「ように」も何も、最初から凡そ不審者だったが。
「学長のお弟子さん。幻術に興味があるのかい?」
「ええと…はい」
私のメイン戦術だ。青年はふわりと柔らかな笑みを浮かべた。横に浮いているアヒルが気になる。
「嬉しいなぁ!芸術の分野は…学長も力を入れてくれているけど、やっぱりまだまだ人が少なくてね。見学も歓迎だ!」
「え、…と。ひょっとして、先生…ですか?」
おや、と目を開いた後、気恥ずかしそうに頭を掻いた。アヒルも少し高度を落とす。
「そうは見えないかぁ。実はそうなんだ。僕はアルバ。芸術科の総合講師を勤めているよ」
若い。そりゃあ学長もケミオ先生もなんならスナフ先生も若いけど、纏う空気が本当に若い。学生たちとワイワイしている姿は完全に学生さんだ。
「失礼しました…!」
「僕も入りたてだからね。貫禄が足りないんだろう」
それはそうかも知れない。学長たちは若くても魔術師として経験豊富だ。そこから溢れ出す貫禄なのだろう。
「さあじゃあそろそろ授業を始めよう。フィアくんもどうぞ」
アルバ先生の講義は楽しかった。座学と実技がいいバランスで飽きずに聞いていられるし、実技では何かと褒めてくれる。とにかく褒めてくれる。吃驚するくらい褒めてくれる。特別私を褒めてくれているわけではなくて、そういう方針らしい。須く褒めていた。
「フィアくんは応用の域に入っているね。それ以上学びたいなら研究室に招く事になるけど…」
そう言って貰えると、私は唸ってしまう。凄く興味はあるのだが、一応、私はルエイエ先生の研究を手伝っている。ルエイエ先生は私の学びたい気持ちを止めはしないだろうが、とはいえ片手間に幻術学研究室にお邪魔するのも失礼だろう。
「あっ、ごめんごめん。大それた事をしてしまった。君は学長のお弟子さんだもんね。研究も忙しいだろうし」
「すっっっごい興味はあるんですけど…!…そうですね…掛け持ち出来る程の能力がないので…お声掛けありがとうございます…わっ」
なんだか落ち込んでしまった私の目の前で先生がポポンと幾つもの花を咲かせた。アヒルもクルクル回っている。
「大丈夫!いつでも遊びにおいで。術を競い合う相手なら大歓迎だし、情報交換だってできるから」
講義という形じゃなくても共に学ぶ方法はあると笑顔をくれる。
「先生…!」
貫禄がないなんて思って申し訳ない。学生の「学びたい」を応援してくれる、とっても優しい先生だった。




