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泣けない話
ふと真剣な様子でスナフ先生は私を覗き込んだ。
「おまえ、大丈夫か?」
「何がですか?」
いや…と少し言い辛そうに視線を彷徨させてから、
「泣いてないだろう」
「...」
塔が崩れてから、私には泣く隙がなかった。とにかくパニックだったし、皆の死を理解する前に私は皆が生きている世界へ『逃げた』。今の私はもう皆には会えなくなったけれど、私の中では皆は死んでいない。会えなくなっただけだ。皆が元気に生きている世界を知っている。
心配してもらえた事をうしろめたく感じてしまう。思わず謝りそうになって、ー度口を噤んだ。
「ありがとうございます。…大丈夫です」
苦い顔の私を難しい顔でじっと見てから、
「余計なお世話だったな」
と頭に手を乗せられた。本当に申し訳なくなって、深く深く頭を下げた。
先生は泣いたんだろうか。多分、そうなんだろう。魔女も大泣きしていた。ノイチェさんも、環境局の人たちも。死を、その事実を受け入れられた証だ。…あそこで逃げていなくても、ひょっとしたら、私は今も泣けないでいたかも知れない。




