塔へ呼ばれた話
拾遺集とこぼれ話、どちらに入れるか迷いましたが塔関連なのでこちらに。
「コクマから、カルキストに招待が届いてるぞ」
「は?」
のんびりとフルーツをつついていたKとaは、きょとんとした様子で声の主へ視線を向ける。シールは執務机に向かったまま、手にした数枚の書面を振って見せた。
「魔術師協会からと、宰相から。別々に来てるな」
「コクマから呼び出しってーと…、弓の話ですヨネ」
「だろうな」
他に心当たりがない。が、弓の件なら話はついている筈だ。今更呼び出された理由が全然わからない。
「どちらも非公式のようだから断れはするが、どうする」
どうする、と言われても。
Kとaは眉根を寄せて顔を見合わせる。
「行かないで良いなら行かない。と、言いたい処だけど」
「弓の話じゃそういうワケにもねぇ」
「まぁそうだな。同行しよう」
二人の返事に軽く頷いて、シールはその二つの手紙を畳んだ。
一瞬、空が翳った。
「あら―…」
老女は額に手を翳して、空を貫く塔の上層を見上げた。
灰がかった薄い青に、朱い影が伸びる。それはいつか見た景色。一つの時代が終わった記憶。
「縁起物ねぇ」
ふふ、と笑って、手に持つ如雨露を傾けた。
というわけで、コクマ国にお呼ばれした。
「やぁいらっしゃい」
通された部屋では、だらしなく着崩した男が机に肘をついたままの姿で出迎えてくれた。
「招待を受けたと思ったが」
「ようこそ、ケテルのアーズ。どうぞ座って?」
「………」
姿勢も正さず椅子を勧めるこの男は、通された部屋に間違いがなければ、もしくは招待状が騙りでなければ、コクマ国の宰相の筈だ。
他国の宰相を招いておいて余りにも礼を欠くその態度にKとaは驚きを隠せない。
そっとシールの顔を覗き込む。その顔に動揺は見られなかった。
「相変わらずだな、コクマのアーズ」
どかっと遠慮のない様子で腰を下ろしたシールに、Kとaも遠慮がちながら追随する。
「国の用事で呼んだんじゃないよ。今日はそちらに用が―いや用はないけど、会ってみたかったんだ」
「うぇ」
弛んだ態度とは裏腹な鋭い視線を受け、カルキスト達は視線を泳がせた。
「カルキストはアーズの配下だと聞いたからね」
「なるほど。ならもう用は済んだな」
腰を浮かせかけたシールだが、相手はそれを笑いながら引き留めた。
「性急だなぁ。もうちょっと見せてよ。ほら…カイクウ、だった?」
「!」
3人に僅かな驚きが走る。aは単純に「よく知ってるなぁ」といった顔だが、Kは明らかに警戒を強めていた。シールに至っては相手の目的を今ので大体察したようだ。
「よくご存じで」
当たり障りなくKが返す。
「もちろん。君たちの事はよく知ってる。ふふ、君たちの冒険譚のファンでね」
茶化して言うが、とても信用できない。これはコワイ人間だ。油断を見せてはならない。
「是非見せて欲しい。玄霊を玄獣化したという、それを」
「貝空は、コクマだと出て来たがらないから無理」
「そうなんだ?」
露骨に警戒するKとニヤニヤしているコクマ宰相の様子に、シールは小さく溜め息を一つ。
「ザイ、国の用ではないと言ったな」
「うん?うん。あくまで個人的なお願いだよ」
個人名で呼ばれたことに一瞬だけ目を大きく開いたが、すぐにまた無気力な様子に戻っていた。
「一戦設けたら満足出来るか?」
「相変わらず話が早くて助かるなぁ。まぁ、以後はワガママ言わないように言っておくよ」
「塔に結界が張ってあるとは思わなかった」
「セキュリティ対策が進歩している…」
城から塔への移動を転移で済ませようとしたK達だったが、塔内は妨害磁波のようなものが出ているらしく空間が開けなかった。
「こんなのカルキストの為だけの対策じゃない?」
「他国の強大な兵器に対して知り得る限りの対策くらいするだろ」
「兵器かー」
苦い顔をするKに軽い調子で頷いて、aはシールを見遣った。
「それはともかく、どういう話だったの?」
トントントンと進んだ話に置いてけぼりを喰らった二人は、シールに言われるがままに塔へと引き返しているのだった。
「当時の魔術師協会は、玄霊の討伐を目標にしていた」
「はぁ」
だから何、といった態のKに対して、aはなるほどと頷いた。
「敵を取られた、と」
「あぁそういう―えぇぇ?」
ケテルのカルキストは玄霊を倒した。
それは世界中で称賛され、多くの感謝を受け、英雄の扱いとなった。
『その功績は、本来自分たちのものだった』と?
「妬み?」
「え?そういうんじゃなくて、敵が盗られた。突然戦う相手が居なくなった。目標を失った」
「え、意味わかんないこの戦闘民族」
Kの不可解なものを見る視線に、これ以上説明の仕方が解らないと唸るa。
「俺としても妬みの方が理解し易いが、恐らくお前の言うような感情なんだろう」
面倒そうな顔でシールはaに同意を示した。
「だからスッキリしたいんだ。それは仕方ないね」
「全然解んないけど取り敢えずその玄霊倒そうとしてた人たちと戦えばいいの?」
「今後変に付き纏われるより1回優劣をハッキリさせといた方が楽だろ」
「………」
Kとaは再び顔を見合わせる。
「あいよ」
カルキストが勝つと信じて疑わない処は、どうやら変わっていないらしい。
朱い翼は、塔の最上へ降り立った。
そこには既に、先程挨拶を受けた少女が立っていた。
「あっれ学長さん。戻ってきたの解った?」
「ええ。朱翼が見えたのでね。どうしました?忘れ物?」
細身で小柄な10代の少女。それが今の魔術師協会の長だという。
そもそもこの塔も、ターミナル所在地にして魔術師協会の総本山、といった認識しかなかったが、魔術師養成施設…つまり学校なのだと今日知った。
「先程お断りした特別講義の件、少し違う形になるが引き受けたい」
「そうですか!それはありがたい」
実は3人は宰相に会いに行く前、先に塔へ寄っていた。弓の話だとばかり思っていたので、直接的に関わりがあった魔術師協会を優先させたのだ。
処が塔は体制が一新しており、当時の魔術師協会の上層部はこぞって宰相の下についたという。
そして新たな塔の主がカルキストを呼び出した理由は、『特別講義のお願い』だった。講義が苦手な二人は彼女の熱い説得にも応じず丁重に辞退させて頂いたのだが。
「まさか」
Kが小さく半笑いで漏らす。aは難しい顔で眉間を掻いた。
「準備はいりますか?」
「模擬戦が行えるだけの広い屋外空間と、丈夫な結界を」
不穏な条件に学長も少し考える仕種をした。
「何をなさるおつもりで?」
「実技の披露を。カルキストが宰相の精鋭と模擬戦を行います。魔術の事はそう知りませんが、見学だけでもきっと勉強になるでしょう」
呆気にとられた一瞬後、学長の大爆笑が空に響いた。
ひとしきり笑った後、なお苦しそうに、息も絶え絶えな様子で許可を下した。
「わかりました、なるほど。あちらともお会いになられたんですね。ええ、それはそれはいい勉強になるでしょう。塔で用意し得る最高の結界を用意しますよ。どうぞ心置きなく、力いっぱい戦って下さい。楽しみで仕方ない!」




