玄獣学講師の話
「今此処に来てただろう!!守護獣レベルの大玄獣が!」
バンッ!!とノックもなしに扉が開かれ、部屋の主はその大きな体を竦ませた。
「…どなたです?ぁあいや、確か──」
「質問に答えて欲しいなぁ!?」
「ええはい、来てましたよクーシェ先生」
飛び込んできたのは玄獣学講師のクーシェ・ロアーだった。
「やっぱり!もう居ない…飛行系かっ?」
忙しなく首を巡らせ室内を見回すが、ふたりは去った後だ。心の中で「瞬間移動系ですよ」と返しつつ、フェディットはこっそりと息を吐いた。
「くぅ、会いたかった…っ」
全身から悔しさが滲み出ている。
「ん?君は…なんてことだ。神秘のピの字も無い面白味の無い男だと思っていたけど、大玄獣に伝手があるとは」
方言的な言い回しに、彼が北部の出身ではないと知る。
「今来てた玄獣の事、是非教えて欲しいなぁ」
興奮が覚めたのか、勢いが削がれその口調は随分と柔らかいものに変わっていた。口許にシワを刻んで穏和な笑みを向けられても、重ねられた無礼は見逃せない。
「ええまた機会があれば。お引き取り頂けますか。もう夜も遅いので」
クーシェを部屋から摘まみ出して、今度こそ鍵をかける。掛けておいたと思ったが、忘れていたのだろう。しかしだからと言って無許可で入ってきて欲しくはないものだ。
クーシェ・ロアーは玄獣学講師である。が、その詳細は誰も知らない。出身不詳、年齢不詳。講師歴は長いようだが、親しい講師も直弟子もいない。普段は穏和でゆったりとした口調だが、玄獣が関わると少し荒れる。そんな人間だ。
「クーシェちゃんなぁ。ずーっと居るらしいぜ」
医務室で雑談がてら前の話をすると、パーブルはそう言った。
「ずっと?」
「そ。噂話だけどな。ダリちゃんが生徒の時から、ずーっとあの顔だってよ」
本当なら、人間ではない。
「玄獣が玄獣について調べてるのかな?」
「さーね。若返りの魔術だとか、不老の秘薬だとか、色んな噂があるらしーぜ」
フェディットはハッとした。以前なら先ずはそっちで考えた筈だ。当てられている。そう自覚し、苦い顔をした。
「かなり研究熱心だからなぁ。多分相当付きまとわれるぜ、覚悟しときな」
冗談めかして笑われた直後、ノックとともに医務室の扉が開かれた。
「あぁ居た居た。フェディットくん!玄獣の話を聞かせてくれる?」
「ほらな」
「………」
付きまとわれるよりは、早く終わらそう。
そう思って話をしたのは、完全に誤りだった。
後々、フェディットは強くそう理解した。




