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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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着任準備の話

樹歴871年

「改めまして先生方。暫くは環境局と行き来しますが、まぁ…これから宜しくお願いします」

講師陣の連絡会に参加し挨拶を終えたケイナはひとつ礼をし壇を降りた。

「お帰り、ケイナくん」

「環境局はどうだったかしら?お話を聞かせてね!」

真っ先に挨拶に来てくれたファズ先生は記憶より少し老けただろうか?正直あまり変化は感じないが、その後ろ。小さかったオルクレア先生は、今や立派な『レディ』になっていた。

「先生、大きくなって…」

「えっ!別れた時から身長はそんなに変わってないわ??」

「大人になった、という意味合いだね」

ファズ先生のフォローに肯き、会場を見回す。

「先生たちはお変わりなさそうですね」

大体知った顔で、増減は感じない。ダリ先生がいなくなっているだけだった。


多くの先生たちと挨拶を終えて一息つく頃。

「おかえりなさい、ケイナ先生。待ち侘びましたよ」

「ぅげ は?」

その声にケイナは顔を歪ませて振り返り、目を見開いた。

「引き継ぎがありますのでお時間を見付けて私の元までご来訪をお願いしますよ。ええ。授業中以外は何時でも結構ですので」

真っ先に浮かんだ疑問も塗り潰される内容に、ケイナは再び顔を歪める。

「ダリ先生が居なくなった後、貴方が不在の間…、不肖、錬金術学も担当しておりましたのでね」

「オセワカケマシタ」

解ってはいたが、やはりそうなったか…と心の中で天を仰いだ。だがダリ先生が居なくなった際、そこで戻る選択は出来なかった以上この結末は受け入れるしかない。

苦い顔のケイナを、ガイ先生は愉しそうに見下ろしている。大きく息を吐いてから、ケイナは改めてガイ先生に向かい直した。

「正式に着任するまでまだ2年以上ありますから、引き継ぎにはまた時が近付いてから改めて伺います。今の処は生徒の時の対応で構いません。それで…今ひとつお訊ねしたいんですが」

なにかな、と首を傾ける仕種に苛っとしつつもそれは飲み込む。どうしても気になっていたのは…

「あの鬱陶しい長髪はどうしたんですか」

「ああこれか」

ガイ先生の髪型だ。サッパリ短髪になっている。似合わないにも程がある。

「似合わないかね?私もそう思う。…気になるかい?」

気になるが、本意ではないという事は今ので解った。細かく知りたいとは言わない。

「いえ。驚いただけで」

「ふふ」

そういう処が嫌いではない、と伝わってきて、ケイナはまた顔を顰めた。

「さて。今日で粗方の先生方とは挨拶出来ただろう。明日以降は嘗ての学友たちの様子も見ておいで。彼らは色々と変わっている」

「でしょうね」

一体何名が今も塔に居るだろう。それぞれが今何をしているのかも、それなりに気になりはする。年齢的に結婚している者も少なくない筈だ。色んな意味で、一番残っていそうな者と言えば…

「ソーマはまだ居ますか?」

「ああ、そうだね。まずは彼の元へ行ってみると良い」


生徒と講師の合間の微妙な期間。この稀有な瞬間を、ケイナはまったりと楽しんで過ごした。

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