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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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初対面の時の話

春先のソーマは常に機嫌が少し悪い。花粉症…ではない。ワーナーの4月はまだまだ寒い。そもそも花粉症はこの自然豊かな世界にはまだ少ない。塔においてこの時期増えるものと言えば、新入生である。

「………」

自分の生活空間に知らない顔が増えるのは些か緊張感がある。嫌なわけではない。自分だってそうして入ってきたのだ。学友が増える事も悪くない。頭では解っている。ただ、ストレスになる。

深く息を吐いてソーマは自習室の戸を開けた。珍しい。今日は誰も居ないらしい。小さな幸運に少し機嫌を持ち直し、適当な席に腰掛ける。広い机にノートや資料をここぞと広げ、悠々と自習を開始した。



最初に出逢ったのは確かハトだった。寮の部屋が同じだったから、入学前に出来た知り合いだ。あの適度な距離感が僕にはとても助かった。

ケイナとは手続きの為に事務課へ行った時に知り会った。ケイナは事務の人と親しげに話していて、僕が新入生だと知るとハトについて聞いてきた。同室だと答えた記憶がある。それから顔を見るたびにちょくちょく話し掛けてくれるようになった。塔について詳しいなぁとは思ったけど、まさかそんなに先輩だとは思ってなかった。

ユークとは防衛術の授業で一緒になった。少しだけハトに似ていて、放っとけなさはハト以上。つい目が追ってしまって、いつの間にかよく一緒に居るようになった。

エトラは図書館でよく見掛ける『知った顔』ではあったけど、話すようになったのはユークと一緒に行動することが増えてからだった気がする。ユークに振り回される苦労人と呼ばれ、同情されたのが初会話だったと思う。

それからケイナ経由で知り合ったユグシルさんには親しみを感じてすぐに打ち解けられた。彼の落ち着いた優しい雰囲気には憧れすらある。

芸術科のふたりとは…確か、ユグシルさん経由で知り合った。僕は芸術は取っていないけど、操音が得意なユグシルさんが音学の体験授業に行くのにピノと一緒に付き合った。

ピノはケイナが「面白いの見付けた」と連れて来て…しょっちゅうケイナが連れ回していたから、いつの間にか僕とも話すようになっていた。

それで、ピノの友達だというリーヴィーとは戦術の授業で一緒になって…


「……ん…」

「お。お目覚めか?」

「そりゃこんだけ騒げば起きるでしょ」

聞き覚えのある声にソーマが頭を起こすと、少しぼやけた視界にケイナが映った。

どうやら眠ってしまっていたらしいと目を擦る。数度の瞬きの後、改めて周囲を見回した。

「…あれ、どうしたの皆して」

「おはようソーマ。自室以外で寝落ちとは珍しいな」

「うん…」

少し離れた場所で自習しているエトラ。正面から他人の寝顔を眺めていたらしきケイナ。その隣で歪なもにょらを製造中のハト。エトラから離れた場所にはピノとニーニャにユグシルが基礎科目を教えている。部屋中に花が舞っていると思えば、出入口付近では芸術科の4人が幻術の練習をしていた。目の前が見えない程の幻術の集中砲火を受けながら全く意に介さず瞑想を続けているユークの姿も確認できた。

「いつの間に、こんなに」

「よく寝てたな。エトラなんてそろそろ耐えきれずに帰ろうと思ってる頃だぞ」

「寝てるソーマだけだと思ったら、続々と来るんだもの。やっぱり図書館の方がいいわね」

「あ!ソーマ起きたの?ちょっと錬成して欲しい鉱物があるんだけど!」

「ピノ、ここで燃やしちゃダメだからね?」

「えっ!そのヒト鉱物錬成出来るんですか?」

「ちょ、ちょっとだけ、ね…」

賑やかだ。でも、慣れた(・・・)騒がしさ。

『ソーマくんは真面目すぎて…』『ひとりが良いんでしょ。私たち見下されてるみたい』『皆と遊んでいらっしゃい』『友だちを作りましょう』

キライだった言葉たちが一瞬脳裏を駆け抜けた。ひとりは落ち着いて居られるけど、別に独りが好きなわけじゃない。騒がしい場所や人とのコミュニケーションはストレスにはなるけれど、別に嫌いなわけじゃない。

環境が変わればこんなにも変わる。

知らない顔も、新たな学友だ。学友が増える事も悪くない。再度改めてその言葉を実感する。ストレスに変わりはないけれども、今年からは例年よりも、少しは受け入れられそうな気がしてきた。


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