特別課題のその後の話
樹歴865年
「聞いたよガイくん、この時期は下着を贈るのが最近の若い子のトレンドなんだって?」
錬金術学の老講師から振られた話題に、呪術学講師は思わず噎せ返りそうになった。
「……誰からそんな話を」
「医学の若い子。去年君がたくさん貰ってたって言ってたよ」
決して表には出さず、あのヤロウ…とガイは口の中で悪態を吐いた。
未だ精力旺盛なこの老師と医術学講師は趣味が合うらしく仲が良い。度々酒を共にしているようだが、悪い影響も受け合っている。
「去年の特別課題の件はともかく、流行っている…という訳ではないようですよ」
性質の悪い老人だが一応恩師である。某か恥をかかないように情報を改めてやる。
「なぁんだそうなの。サイズとかあるし難しそうだなぁと思ったのよ」
「……」
昨年贈られた下着たちはサイズもピッタリだった事を思い出しながら、ガイは口を噤んだ。
「今年はやんねーの?」
「思った以上に大変だったので」
やってくるなりスルッと会話に入り込んできた元凶に溜め息混じりに応えると、パーブルは「ふーん」と気の無い返事をしてダリの肩へ腕を回した。
「それよりダリちゃん、『エディブルフラワー』予約とれた。しかもアリーちゃん居るって。これからだけどどう?」
「そりゃ君、行くに決まってるでしょ。凄いじゃない」
「だろだろ?あ、ガイちゃんも行く?」
「遠慮しておきます」
いつまでも若くて結構なことだ。
静かになった席でひとり、ガイはグラスを傾けた。
「もう此方を向いてもいいと思うが」
「……」
此処は塔の飲食街にあるバーだ。カウンターの向こうで存在を殺し頑なに此方に顔を向けないバーテンに声を掛ける。
「では君に注文をしよう。なにか、今流行りのものをひとつ」
バーテンは諦めたように振り返る。接客業にあるまじき全力の「嫌な表情」を浮かべていた。
「承りマシタ」
手慣れた様子で計量と撹拌を行っていく。錬金術学のホープは、実に手際よく完成させた一杯をしかし乱暴に差し出した。
「オマタセシマシタ」
「ほう?」
白濁した青緑の液体に、削られたチョコとミントの葉が散らされている。こっそり楽しみにもしていたが、下手な悪戯はされていないようだ。口をつければ、香り通りの甘くて爽やかな味がした。
「この時期贈り物に人気なのは、チョコっすよ。……あー、まぁ、言われるまでもないでしょうけど」
フフと笑ってもう一口。
チョコは未だ高価ではあるものの、少しずつ値は下がってはきている。なにせ塔では需要が多い。こうして酒にまでなっているのは感慨深い。
「処で君、このミントの真意は?」
「お似合いかなと」
含みのある表情だとは気付いても、流石にそれ以上は解らない。
「…ふむ、まあ悪くないね」
「アリガトウゴザイマス」
まだゆっくりしていく気だと察して、偶々この日この時間に手伝いを頼まれたタイミングの悪さを呪ったケイナだった。




