地竜の孫娘と夢の王の話
樹歴861年
ドゴォン…と低い地響きの後は、こどもの泣き声が響き渡る。
「またか」
ここ数ヶ月で最早珍しくもなくなったその騒動に慌てる者は居ない。
冷静に保護者が呼びつけられ、居合わせたものは溜め息を吐きながら瓦礫を修繕する。
呼びつけられた保護者──学長から監督役を仰せつかった鉱石学講師は、偶々居合わせたその人物に泣く子の世話を任せ一帯の修繕に向かった。
「……」
ぐずり泣くこどもを見下ろすこと数秒。泣き声に消されずに声を伝えるため、しゃがみこんで頭を近付けた。
「泣く必要は、ないと思うわ」
「だって だって」
「力の制御を学びに来ているのでしょう」
だからこそ、うまくいかずに泣いているのだ。そう目にいっぱいに浮かんだ涙が訴える。
「地の竜はうまくやった。だから、あなたは泣かなくてもいい」
「?? ?」
「私にも櫻色の爪を持つ知り合いがいました。あの子も制御が効かなくて、よく困っていたわ」
櫻色の爪は地竜の血をひく証だ。記憶の中の彼女はそれをとても誇っていた。
「あなたたちの祖は、ただあなたたちの生を、存在することを喜んだ。力を遺してしまった事をとても悔やんでいたけれど。櫻色の爪を喜んでくれる娘たちを愛していた」
自分の血がなるべく薄くなるように、彼は同種での婚姻を禁じた。竜の力を求めた他の竜種は全て滅びた。地竜の血脈のみが今も残る。
少し難しかっただろうか。いいや、彼女は力強く鼻を啜って涙を止めるべく目に力を込めている。
「私の知り合いも、大切な人を守る為に力を制御してみせた。あなたもすぐにものにできるわ。だから」
始祖の話を何処かで聞いたことがあっただろうか。この子が生まれた頃にはもう彼はこの世にはなかった筈だ。それでも意志は語り継がれていただろうか。
「あなたが生きていることに、胸を張りなさい。泣く必要は、ないわ」
彼女は涙を拭うと力強く一度頷いた。
「おじいさまのお話は、昔聞いたことがあるわ。少し記憶と違ったけれど、不思議ね。あなたのお話が本当な気がするわ!」
微笑みを返して立ち上がらせる。丁度戻ってきた鉱石学講師に気付き、彼女はパッと駆け出した。
「先生、ごめんなさい!わたし、壊しちゃっても直せるように頑張るわ!」
「それはいいね。その内に壊さなくても済むようになればもっといい」
そ、そうね!と慌てる彼女は恐らく今のが最善の案だと確信していたのだろう。
もう用は済んだろうと立ち去りかけたが、裾を掴まれ振り返った。
「ケミオ先生…よね??あのっ、またお話を聞きたいわ!」
「………」
遠慮がちな様で図々しくて、ダイナミックな様で繊細な。地竜の血脈は皆こうなのかしらと考えながら
「ええ。次はあなたの話を聞かせて下さいね、オルクレア先生」
頭を下げた鉱石学講師に会釈を返して、今度こそその場を後にした。




