表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塔のこぼれ話  作者: 炯斗
20/92

購買員の話

天才奇才秀才の集う塔の中にも、更にズバ抜けた者は居る。卒業試験に受かり、貴人や国の専属魔術師になったり、大企業で研究職についたり。

はたまた、意外と身近で働いていたり。


「最近の子は凄いよねぇ」

そうぼやいていた彼に

「本当に凄いのはソーマくらいかなぁ。あとセンパイ」

なんて返していた自分を省みる。穴に埋まりたい。ケイナは今猛烈に自省していた。

平々凡々を絵にかいたような男。本人もそう自負しているようだったし、「ノロマなノールなんて呼ばれてた」と朗らかに昔話を聞かせてくれたこともある。術具作成を好み、憧れもあるようだったので、自分がエリスに師事していたことは伝えない方がいいな、なんて思っていた。とんでもない。

「ノルドさん、卒業生…だったんスか」

「え?言わなかったっけ?」

聞いていた。言葉通りに捉えていなかった。完全に、「過去在籍していた」「生徒だった事がある」と認識していた。

「 ゎっっっか!」

若い。若すぎる。ノルドが童顔だという話も奇しくもあの時同時にしていたが、真相を知ればもうとにかく若すぎるという驚きしか出てこない。

「きちんと授業に出て、きちんと授業を聞いてたからね」

ケイナには些か耳が痛い。とは言え、授業を真面目に聞いてるだけでは普通卒業試験は合格できない。

「でも、どうして急に?」

「ぁ~…いやぁ~…」


玄獣ドラゴンを飼ってる購買員がいる。

そんな雑談はなしを師に振った折り、弾みでノルドの名を出した。

「……ノルド?って、『ノロマのノール』?あの地味な?」

「あー、そう。本人そう言ってた」

「…何してんだアイツ」

心底呆れ果てたといった表情で師は天を仰いだ。

「目立つタイプじゃないけど、穏和で付き合いやすいイイヒトだよ」

「埋もれてんのか。まぁそうだよな、もう試験もねぇもんな」

悪目立ちするほど成績が悪かったのだろうか、と続きを聞くのを躊躇うと、師は呆れ顔のままヒラヒラと手を振った。

「逆だ逆。座学の成績は常にトップだったぜアイツ」

「は?」

「魔術の方はまぁ、それこそ平々凡々な才能だったみたいだが。単純な学力の高さでアイツ以上を見たことねぇ」

ところが本人は、恵まれなかった魔術の才にしか目を向けていない。本気で自分が平凡だと思い込んでいる。

意外と頑固で、自分の作りたいものしか作らない。更にはセンスが些か独特で大衆受けしないものばかり作り出す。その所為で術具作成学の修了ランクもA止まりだった。

「アイツの作品、よく見てみろ。何一つ奇抜な手段は用いてない。オリジナルと言い張れるような技術も使ってない。のに、緻密に計算され尽くした術の組み合わせ、掛け合わせで誰にも作り出せないものになってんだ」

そんなに大層な話じゃなくても、とケイナは黙した。

そんなに大層な話じゃなくても、言われてみれば。例えば、彼は計算がとても早い。学生たちが口々に注文を告げても正しく整然と対処する。会計に間違いがあったことは殆どない。設計中を覗いて見れば、多桁の計算を暗算でやってのける。

ひぇー、と小さく口から漏れた。

「なんで天文とかいかなかったんだろ」

「それはオレも言った」

そう師は笑った。答えは「興味があんまり…」だったそうだ。


「ぅーん、……おっさんに、ノルドさんのことを少し聞いて」

「あれ?共通の知り合いがいた?」

居た。ずっと隠していた。

「私の魔術の師……ぇーっと…この人、なんだけど」

丁度開かれていた頁に載っていた名を指す。今も技術の参考にしている、彼の憧れの発明家の名。

「え。 えっ!?」

ケイナの指先と顔を何往復も見比べて目を丸くする。それにぎこちなく肯きを返した。

「まぁ…おおっぴらにしたくないんで、あんま口外しないで欲しいんスけど」

「そうなんだ…驚いたなぁ」

一度驚きを飲み込んでから、

「って、え?先生が僕の事を?」

もう一度、さっきよりも強く驚いてみせた。

「話振ったのはこっちからだけど。ばっちり覚えてましたよ」

うわわ、と。ノルドは嬉しそうに頬を緩めた。

「そっか。嬉しいなぁ」

平々凡々、地味で目立たないノロマなノール。

ケイナは曖昧な愛想笑いで、身近な大天才を盗み見た。

「超、詐欺…」

そこに居るのはどう見ても、昔の先生に覚えてて貰えてちょっと喜ぶ、ただの購買員なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ