お月見の話
樹歴864年
「って事で、ユークも行くだろ?」
今晩皆で遊びに行こう、という話になり、その場に居たユークにも声を掛けた。
「今日はお月見」
その返答に一瞬面食らったものの、ケイナは直ぐに「あぁそうか」と何処か上の方へ視線をやった。
「つきみ?」
ルカが興味深そうに首を傾げる。ユークは肯くに留まり、ケイナが説明する羽目になった。
「月見。ユークはホドの出だからな」
月といえば一般的には煌月を思い浮かべるものだが、ホドの出だと付け加えられればルカにも推測はつく。
「老月を観察しに行くって事?」
「まぁそうなんだが、観測というよりは…眺めるんだよ。眺めながら酒飲んだりすんの」
「月餅を食べる」
「秋の祭事のひとつだな」
秋頃の夜に静天のタイミングで老月を眺める。皆で美味しいものを食べながら天を仰ぐ。家族単位で行われる祭事だが、コクマで言う収穫祭に近い雰囲気はあるかも知れない。
「えーじゃあ皆でやろうよ。今日の静天何時だっけ?」
「そりゃいいな。ユーク、どうだ?」
「……いいけど」
場所は、持ち物は、と話は進んで行く。ユークはぼんやりとそれを眺めた。
故郷を遠く離れ、異国の学び舎に独りでやってきた。やりたいことだらけで毎日は充実しているし、元々群れに安心を求めるタイプでもない。郷愁、寂しさを感じることはあまりないが――毎年この日は、月を眺めている間は、少しだけ故郷の事を思い出す。今年の冬休みは帰ろうかと毎回思うのだが、やりたいことに追われて気付けば冬期休みが終わっている。
今年は騒がしそうだから、郷愁に駆られる暇もなさそうだ。
そう感じながらユークは騒ぐ学友たちに月餅を買う店の指定だけを明確に伝えた。




