甘い話
「甘味をたくさん貰っちゃったんだけど、食べない?」
突き付けられた箱を覗いて、マキは少し顔を顰めた。
「ひとつでいい」
「同じく」
後から覗いたジユウも同じ反応を示した。
「困る!甘いの好きだろ!?」
「限度がある」
大量に貰ってしまったこの菓子は、ただひたすらに甘い事で有名な店のものだ。好きな人は好きなのだろうが、生憎私の周りにこの甘さに耐えられる者はいなかった。幸いそれなりに日持ちするものではあるが、この量は厳しい。地道に配り歩いているが私の知り合いはそう多くはない。ケミオ先生にはそっと断られたしスナフ先生には元々甘いもの自体好きじゃないと怒られた。プリンとか好きそうな顔してるくせに。
「そもそもなんでそんなにたくさんあるの」
「ノイチェさんが置いていったのを先生たちに押し付けられた…」
「あーあ」
ノイチェさんは本当にこれが好きらしく、あくまで好意でたくさんくれたらしい。苦手だったとなんとか伝えないと2度目があっては堪らない。
一応ファズ先生はルガッガの伴にと1個は持っていってくれた。優しさだったと思う。
「先輩は食べないし…あとはクドル?」
「あぁ、良いんじゃないの。部隊に差し入れしたら?あの人たち味覚壊れてるでしょ」
コクマ軍の携行食は味が最低だと評判だ。あれが食べられるなら何でも食べられるだろう。
「貰ってくれるかな」
「あらやだフィアちゃん、とんでもないものをありがとう」
「ひぇ…すいません良かったら…皆さんに」
部隊長は愉しそうに嗤った。
「こんな拷問食平然と平らげるのはディマスくんぐらいよ」
オブシディマス先生と甘味の組み合わせが想像できなすぎて脳がエラーを吐く。今度、自分用に取った一個を差し入れてみよう。
「糖分は魔術師には必須だけど、流石にこれはねぇ…あ」
一瞬、魔女から表情が消えた。
「どうしました?」
「いえね、居たわ。これを好んで食べる子が」
信じられないが、店が経営を続けているのだからある程度この甘さを好む人間は居るのだ。現にノイチェさんは常連らしい。
「因みに、どなたです?」
「宰相サマよ」
「おや珍しい。師は甘味が苦手じゃなかったっけ」
「好きな方よ、常識的な甘味はね」
この甘さがないと甘味と呼べないのなら話は別だが。
「フィアちゃんから差し入れよ。あの子からで私を通しているんだもの、食べられるでしょう?」
「…構わないけどね。へぇ、なかなか趣味が良いじゃないか」
その趣味はちょっと理解できない。気に入って貰えたようなので処理はお任せしよう。
「はけた!!」
スッキリした笑顔で腕を伸ばす私に、マキは淡々と拍手を贈った。
「ノイチェさんもまさか自分が贈った菓子が宰相の口に入ってるとは思うまいよ」
まず私がルルイエさんと親しくしていることすら予想外だろう。
「なんとか穏便に不評でしたと伝えたい…お土産は結構です、だとただの遠慮に聞こえるよな」
「そこは自分でがんばれ」
お勉強では頼りになるマキも、コミュニケーションの面では似たり寄ったりだ。
「いいもん先輩に相談するから」




