緑化計画立ち上げ時の環境局での話
樹歴868年
環境局でその報を一番に受け取ったのはケイナだった。
「………」
塔からの手紙を難しい表情で眺めていると、背後から師と助手が覗き込んできた。
「なんのお知らせ?」
「呼び戻しですか?」
「いや…」
チラリと師に視線をやり、一瞬迷うが、直ぐに口を開いた。
「マスカルウィンの緑化始まるらしいです。事前調査への同行依頼が来ました」
「へえ!漸く!」
ただでさえいつも驚いたように開いた眼を更に大きく開いて、目がこぼれ落ちないか心配になる。
「中々始まらないから、気を揉んでいました。良かったです」
「………」
師の発言に、再びケイナは顔を顰める。
「どうしました?」
「トビオカ先生ずっと準備してきたんだから、嬉しいニュースじゃん」
「それだよ」
ケイナはピノに指を突き付けた。
「ずっと準備してきたトビオカ先生じゃなくて、私に第一報が入るってどういうことだ。失礼じゃないか?」
「それは──」
ピノも押し黙る。
「私に報せればトビオカ先生にも伝わるだろうが」
「ならいいじゃないですか」
「よくないでしょう!」
トビオカは玄霊が討たれ塔の体制が変わった頃からこの時を見据え、研究を重ね準備し、宰相や魔女に呼び掛けてきた。そんな人に第一報を寄越さなくてどうする。怒れるケイナにトビオカはまあまあと手を翳した。
「それはですね、トビオカくんはまだ来るな、ということです」
ピノがキョトンとトビオカを見る。
「トビオカくんは間違いなくこの緑化計画の先導研究員になります。一番準備してきたのを、皆知ってくれていますからね。今回は正式な計画発足の前の事前調査。トビオカくんの出番はまだちょっと先、ということです」
教え子ふたりは未だ納得いかずという表情で、トビオカは笑って付け加えた。
「おふたりはマスカルウィンについて詳しくないかな?安全の確認が出来ない内は主要研究者は送れないってことです」
立ち入るだけで発狂する、玄霊直下の危地。玄霊が居なくなった後も影響は色濃く、未だ立ち入れないと噂されている。そこへ赴くのだ。いきなり主要戦力を投入して万が一になってはならない。
「うーわ…」
ケイナは寧ろ今までで一番イヤな表情をして開いたままの書面を見下ろした。
特に興味もない、縁も所縁もない土地の命懸けの緑化計画。自由時間が限られているケイナには更々面倒でしかない。
「いやぁ羨ましいなぁ。トビオカくんも早く参加したいです。まさか蹴りませんよね?」
「………」
師からの圧が凄い。
ケイナは視線を彷徨させつつ、なんとか逃れる術を探した。
「……代打、ピノ行ってきて。精神異常耐性高いだろ」
「そうなると思った」
ピノは眺めていた書簡から目を離した。
そもそもこの差出人からして、ケイナは受けないだろうと思っていたのだ。
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