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塔のこぼれ話  作者: 炯斗
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攻性術と癖の話

樹歴868年

「先生、手合わせお願いします!」

「手合わせ?」

突然の私の申し出に先生はちょっと面食らった様だった。でもすぐにバカにして鼻を鳴らした。

「このぼくに攻性術で挑もうと?ルエイエの弟子、調子に乗りすぎだ」

だって。クドルから話を聞いて以来、私も挑んでみたかったのだ。

期待の詰まった私の視線に、今の申し出を取り下げる気はない事を理解したらしい。

「なら来い。ルエイエと競る程度でぼくに挑んだ事、後悔させてやる」


結論から言うと、こてんぱんにやられた。ここまでとは思わなかった。実践経験の無さは先生だって似たようなものだろうと思っていたが、そうでもなかったのかも知れない。魔術の威力や技術は同等か少し負ける程度だと思うのに、戦闘技術が段違いだ。更に腕力や体力も加えたらお話にもならない。

「つよっ」

「あたりまえだ」

本当に当然という態度で、座り込んだ私に近付く。それから少し難しい表情をして私を見下した。

「おまえ、攻性術を誰に習った」

ギクッと肩が跳ねる。

あなたからです、とは言えない。言えないが、恐らくそうであることを感じ取られている。ああしまった。ルエイエ先生にも手合わせの時に疑念を抱かせたらしいし、また考えなしにやってしまった。先生というのは意外とよく見ている。

とは言え、教えた記憶もないのに自分から教わったとは考えられないもの。先生は頭が痛そうな様子で考え得る最も有力な説を構築した。

「クドルか?」

「あ!はい」

それだ!と食いつく。それは如何にも無理がない。

「…まぁいい」

納得はいかないが他に考えあたらない、そんな感じだ。

「とにかく、満足したか?」

「ありがとうございました!またお願いします!」



いやはやしかし、これは悔しい。クドルが悔しさを覚えたのも当然だ。

ルエイエ先生はバランス型だ。凡そ全ての魔術を平均以上に扱える。対してスナフ先生は特化型。専門分野である攻性術に突き抜けている。ルエイエと競る程度で、と言われたときは正直むっとしたが、そこはまあ当然で、仕方の無い事だった。だから悔しいのはそこじゃなくて。

決して先生を低く見てはいなかった。どころか優秀な攻性術士だと理解していた。それでも足りなかった。上をいかれた。しかも余裕気に。これが悔しい。

先生が私を褒める度に言っていた「ぼくには及ばないが!」が今になってジワジワ効いてきた。



「先生が凄く強かった」

「うん」

私の報告にクドルは力強く肯いた。それからふと気付いた様に

「手合わせして貰った?」

「うん」

「羨ましい」

今は「羨ましい」が言えるようになったことへ祝辞を贈る余裕もない。

「凄い悔しい」

「うん」

クドルは再び力強く頷いた。

「クドル、隊の人達と手合わせとかする?」

「望まれれば。3対1とか、集団相手が多いけど」

それは、手合わせとは少し違うのでは。

「最近はあんまり誘われなくなった」

多分、その条件でもクドルが勝つからだろう。そんなことをする術士では程度は知れている。とは言えやはりルルイエの魔女の弟子の中でもスナフ先生は特別優秀だったんじゃなかろうか。それでも連れていかなかったのだから、ルルイエの魔女は本当に我が子を優先したのだろう。

「よし、クドルちょっと手合わせしよう」

「いいけど。訓練場、借りられるかな」


割と良い勝負が出来たと思うけど、負けた。

そりゃもう就職もして本職にしているのだ、学業として学ぶ程度の私に負けてはいられまい。しかしそれはそれ。

「悔しい~~ッ!!」

「うちの隊の半分以上には勝てると思う」

「フィアちゃんは体術が弱いのよねぇ。魔術だけなら申し分ないのだけど」

「!!」

そりゃあ居る。此処は治安維持部隊のホームだ。その訓練場を借りたのだから、部隊長が現れる事に何の不思議もない。

「あの子と一緒ね。ふふ」

「く、訓練場をお借りしまして…ありがとうございました…」

「あら。ふふふ。いいのよ。態々敵地で手の内を見せてくれるんだもの。安いものよ」

敵地…。そんなつもりはないのだが、此処は敵地…なのだろうか。

「フィアは敵にはなり得ません。国から自由を約束された身の筈です」

「そうだったわね。フィアちゃん個人は、ね」

そう言えばそんなこと言われたな、とクドルのフォローを聞いて思ったが、魔女は不穏を漂わせたままだ。まあ、事が起きれば私は塔の──ルエイエ先生の味方をするし、敵になるだろうけど。けど、事ってなんだ。起こさないで欲しい。

「フィアちゃん、私とも手合わせ如何かしら?」

「お受けしたいのは山々なのですが、体力が……」

一戦終えた後だ。連戦で魔女の相手はキツい。

「あら、足りないのは体力でしょう?完全な魔術戦にしましょう。お互い場所を動かない。先に大きく場所を動いた方が負け、というのはどうかしら?」

「ええと…じゃあ30分休憩を下さい」


「あんまり手の内を見せるなと警告を受けたのに、なんで応じちゃうの」

「うっ…だって、興味あるし…」

先の襲撃の折、私は手合わせ処か魔女の戦いぶりすら見ていない。魔術界最高の魔術師の腕前を見てみたいと思うのは仕方ないだろう。

「ほら、こっちはもう見られちゃったから、今度は見せて貰う番ってことで」


魔女の戦い方はルエイエ先生にそっくりだった。なるほど。実際そういうのって意外と解るんだと感動する。さっきのクドルの戦い方は、スナフ先生の教えと魔女の教えをどちらも取り入れたものだったと今なら解る。

「貴方攻性術に関しては完全にスナフくんの弟子ねぇ」

「長い間お世話になりましたので!」

「ふふ」

魔女は嬉しそうだ。何故かは解らない。

「スナフくんが知ったら吃驚するわね」

「実はうっかり吃驚させてしまいました」

「あらまあ。ああ、だからクドルくんと手合わせしに来たのね」

流石魔女。理解が早い。

何かの折りに裏を取られてもいいように、クドルとは偶に手合わせをする、少なくとも一度はしたことがある、という事実を作りに来たのだ。

それはともかく、スナフ先生やクドルの時より対応出来ている。と思う。魔女の術構成がルエイエ先生と似ている分、馴染みがあってやり易い。ただルエイエ先生よりも遥かにいやらしくはあるけれど。

「スナフくんもあの子も、技術はあるけどなんというか『素直』なのよね。フィアちゃん、私の戦い方を覚えて帰りなさいな。少しは歯が立つようになるかも知れないわよ?」

それは…魅力的なような、とんでもない罠のような。

「例えば…スナフくんやクドルくんとやるなら、こんな感じね」

リズムが変わる。相手の術式を利用して防御と同時に攻撃へ転じさせる絡めとるような一手。相手の術の威力に依存するので、格上との対戦に有効だ。

「石を使ったリフレクトは確かファズくんが得意だったわね。あれ本当戦い難くて嫌だわぁ」

なるほど。今度封術も履修しておこう。

貴方もやってごらんなさいとばかりに魔女が『素直な』魔術を放つ。先程見せられた通りにやって返すと

「うわぁ!?」

何か凄く持っていかれた。

弾みで、大きく動いてしまった。私の負けだ。

「…ぇー…」

「ふふ、楽しかったわね?」

「──…はい」

渋々肯く。最後の騙し討ちは納得いかないが、楽しかったし参考になった。

「今のは」

「ドレイン。隊長の隠し技。触れた術式を展開中の術士…魔力持ちから魔力を奪う」

決着を確認したクドルが寄ってきて説明をくれる。つまり、私かクドルかルエイエ先生くらいにしか使えない技だ。

「見せるとは思わなかった」

「サービスよ。フィアちゃんにはこのくらい捌けるようになって欲しいもの」

「…ありがとうございました」

手合わせの礼をする。魔女はにっこりと応じた。

「この訓練場は頻繁には使わせてあげられないけれど、私たちの攻性術が習いたければディマスくんに教えを乞うといいわ。塔に出向している部隊員よ」

聞いたことがある。堅くて固いと噂の、基礎攻性術の先生だ。

「考えてみます」

「攻性術は色々な先生から教わった方が有用よ。それこそ、攻性術以外でも。貴方の幻術を交えた戦い方、悪くないもの」

「ありがとうございます」

魔女に褒められた。これは素直に嬉しかった。



「隊長」

物言いたげなクドルに、フィアを見送ったルルイエはにっこりと微笑んだ。

「あの子、きっととてもイヤなカオをしてくれるわ」

「師は本当に人が悪いね」

「あら見てたの」

現れたザイにクドルはサッと礼を取る。ルルイエはいつも通りだ。

「可愛い弟子の戦い方に知らない間に貴方の陰がちらつくようになっていたらそりゃ面白くないでしょう」

「でも、弟子の成長は嬉しいのよ。複雑でしょうね」

本当に愉しそうに笑う。

知らず溜め息を吐きながら、クドルは友人の行く末に思いを馳せた。

そういえば、塔で先生たちと戦うゲームがあるんですよ。inTの方ですが。

⇒ https://moso-moth-man.booth.pm/items/2929451


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