転生斡旋所#9
「私、事故死ですか?」
今回は女子学生。現状は理解している様子。落ち着き過ぎていて、逆に困惑してしまう。
「ご理解頂けているようで、何よりです」
「じゃあ、ここでなろう系お約束のチート転生が出来るんですよね。私、ゲーム・漫画・小説・アニメが好きで、なろう系の有名どころはそれなりに理解しているつもりです」
テンションが上がったようで、早口で喋り出す。
「申し訳ありません。ここではチートは扱っておりません」
その返事を聞いた瞬間、テンションが下がったのか、下を向き小声で「そっか、チートは無いのか」と何度も繰り返し呟き出す。
なんだか悪い事をしてしまったようで、担当も居心地が悪くなる。だが、説明をやめるわけにもいかず、続きを説明する。
「転生は出来ますし、元の世界、ゲーム、SF、サイバーパンク等、選択肢は多い方だと思います。詳細はこちらの冊子を読んでいただき、ご希望をお聞かせ下さい」
「あ、転生先は固定ではなく、選べるんですね。それは嬉しいです。時間をかけても良いですか?」
少しテンションが戻って来たようで、早速冊子に目を通しながら確認してくる。
「はい。満足いくまで選んでいただいて大丈夫です。決まりましたら、こちらのボタンを押して下さい」
そう返答し、担当者は部屋から出ていき、次の転生者用の準備に取りかかるのであった。
数名の転生者を送り出し、彼女の事を忘れそうになった頃、ボタンが押された。
急いで部屋へ向かう。
「お待たせしました」
「いえ、私の方こそ、時間がかかりごめんなさい。こちらが要望をまとめたものです」
要望書には、細かい字でびっしりと記載されており、担当者は若干引いてしまった。
「せっかく転生に要望をつけれるので、思い付く限り書いて見ました。可否を確認してもらえますか?」
「はい。それが私の仕事ですので。ただ、私の記憶だけでは判断できないものがありそうですので、別室で調べながら確認させていただきます。それまで、こちらでお待ちいただけますか?」
要望の多さに、残業を覚悟しながら時間がかかる旨を伝える。
それに対し少女は遠慮がちに答える。
「はい。待つのは良いのですが、何か時間潰しになりそうなものを貸してもらえますか?出来れば本とか」
「生前に自身が所持していたものであれば、想像する事で出すことが可能なように設定しておきます」
「本当ですか!有り難うございます。買って読めていなかった本が沢山あるので。いっそのこと転生せずここにいるのもありかな」
「勘弁してください。では、確認が終了するまでお待ち下さい」
「さて、確認していきますか」
〈世界〉
・魔法が存在し、生活に使用されるぐらい一般家庭にまで普及している
・料理が元の世界より美味しい
・剣と魔法で冒険者が活躍
・魔王は居ないが、魔族やモンスターは存在する
・ファンタジーによく居る種族が存在(エルフ、ドワーフ、ハーフリング、妖精、竜等)
・多神教
「世界観はは何とかなりそうですね」
〈容姿〉
・金髪碧眼でヘテロクロミア
・美少女で、美女になる
・身長や体型は転生先の世界で標準的
・魔眼(石化、魅了、脆いところが見える、等)
・魔法の才能あり
「魔眼はチートになるので許可できませんが、以外は可能と。魔法の才能も、その世界で一般的なレベルであれば可能」
〈生家、環境〉
・中流の貴族、または豪商等の裕福な家庭
・魔法を子供のうちから習得出来る環境
・子供の頃から今の記憶を持つ
・転生先の文字や言葉は最初からわかる
・兄二人、妹一人
・幼なじみの兄妹が居る
「文字や言葉は自分で学んでいただく必要がありますが、以外は許可出来そうですね」
まだ10分の1程度しか進んでおらずうんざりしながらも、真面目に業務を進めて行くのであった。
ドアをノックし、少女から返答があったので、部屋に入る。
「お待たせしました。許可出来るものと出来ないものをまとめて来ましたので、ご確認下さい」
「有難うございます」
少女は読んでいた本を置き、不許可となった項目を中心に目を通していく。
「通ればラッキー、と思って書いたチート能力は全滅か。流石にそこまで上手くいかないか。しょうがないよね。確認有難うございました。この内容でお願いします」
「ご了承いただけ、何よりです。では、転生作業を開始させていただきます」
担当者が作業を開始しようとすると、少女から声がかかる。
「すみません。後一点だけ確認しても良いですか?」
担当者はここまで来ると、少々質問が増えようと大差無いと判断した。
「はい。どうぞ」
「転生後、また何らかの理由で死亡した場合ですが、ここに来ることはありますか?」
「場合によりますが、ございます」
「その時、同じ世界に転生し、言語や読み書き、魔法の知識等を持ったまま赤ちゃんからやり直すのはチートに当たりますか?」
そこまでしてチートに拘るのか、とある意味尊敬してしまう。
「流石にその場合チートには当たりません。ですが、その様な先の事を考えるより、先ずは次の生を大事にし、満足出来る人生を送って頂くのが、私共の望みです」
少女は自分が失礼な事を言った事に気づいた。仕事とは言え、ここまで親身になって転生の手助けをしてくれている人に「また死んだらよろしく」と言ったのだ。
「ごめんなさい。次は生きることを楽しみ、満足した上で老衰出来るように気をつけます。本当に有り難うございました。転生作業をお願いします」
「はい。そうして頂けると大変嬉しいです。では、楽しい人生をお祈りしておきます」
担当者は作業を再会し、少女は旅立っていった。
後日、少女の転生後の人生を確認する事にした。
・宮廷魔術師の家庭に生まれる
・幼少の頃から本を読むことが好きで、新しい言葉を憶えるのが早かった
・魔法の習得も早く、利用方法の改善等にも取り組む
「転生前に小説や漫画を好んで読んでいた、と言うのが功を奏して、言語習得の早さに繋がったのでしょうか。魔法の使い方についても、同様でしょう。これくらいならまだチートとは言えないものの、神童と呼ばれるレベルですね」
・魔法だけでは限界がある事に気づき、体力作り、体術の訓練を始める
※武器を使うのに慣れておらず、手加減も難しい
※血を見る、返り血を浴びるのもまだ慣れていない為、回避、捕縛力の向上を優先する
※裕福な家庭は他者に逆恨みされる事も多く、護身の為に魔法と武術の双方を習得する事が推奨されている
・兄妹仲も良く、相互に得意分野の技術交換を行う光景を家族や使用人に目撃される
・冒険譚や歴史の本を好み、転生後の世界を把握すると共に、読書の趣味を満足させる
・兄妹や幼なじみを巻き込み、冒険者を始める
・自分達の実力を把握し、無理はしないように努める
※それでも、世界で有数の冒険者と認められ、十分な成果を残す
・趣味として、冒険譚等の執筆を行う
※前世で読んだ作品を参考にした作品も多数あり
・晩年は両親の後を継ぎ、宮廷魔術師として魔法技術の発展に貢献する
「最後に宣言してくれた通り、死に急ぐ事はせず、有能な人材として世界に貢献してくれましたか。興味のある事には努力を惜しまない性格。転生前の世界でも事故に遭わなければ、転生せずとも十分な成果を残せたのかもしれませんね。これだけの結果を残していれば、再度ここに来ることは無いでしょうね」
確認を終了し、いつもの業務に取りかかろうとした所で、扉を何度も叩く音が聞こえる。
「今日の方はせっかちですね。はいはい、少々お待ち下さい」
返事をしながら扉に近づくと、何故か聞いた事のある声が聞こえる。
嫌な予感がするが、一応お客様?である為、放置は出来ない。
心を落ち着けた後扉を開くと、楽しげな表情の彼女が居た。
「久しぶりです。あ、久しぶりなのは私だけか」
「お久しぶりです。あれだけの結果を残して、まだ転生する必要がありましたか。再度同じ世界でチートの真似事をする、と言うのを実現する為に戻って来たのですか?」
少し目眩を感じながら、何とか対応しようとすると、彼女が答えた。
「それも魅力的ですね。でも残念ながら違います。もう転生する必要はなく、次の段階に進めるとも言われたのですが、転生斡旋のお手伝いをする事にしてもらいました。変人扱いされましたよ。失礼ですよね」
早口でそう言いながら、部屋の中に入ってくる。
「いや、変人以外の何者でも無いよ。で、今日は何しにここに?」
お客様ではなく同僚と認識を変えて、疑問を口にする。
「あ、普段はそんな感じの喋り方なんですね。同僚としての挨拶に、と言いたい所なんですが、経験が無いのでこちらで業務研修を受ける事になりました。宜しくお願いしますね。先輩」
その言葉を聞き終わるのとほぼ同時に、研修生を送ったとの業務連絡が入る。
「連絡が来るの遅すぎ」
溜め息をつきながら扉を閉じ、何から教えれば良いか検討を始めるのであった。