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FORCE OF VERTEX ―喪失の剣と創造の筆―  作者: ぶれいず。
Stage 10 Thoughtful Game
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ダウナーなプレイヤー

「今日はここまでです。今週の補習はこれで終わりですが、重要な単元なので自分でもしっかりと復習しておいてくださいね」

 教壇に立った先生が号令を終えると、生徒たちは教室の外へ散らばっていく。


「ふぅ……やっと終わった」

 待ちに待った夏休みへ突入したのだが、今日は全生徒対象の補習日となっており、午前中は授業を受けなければならない。数日休んだ後の授業だからか、通常よりも長く感じてしまう。


 FOVやゼロについての授業なら、いくらでも受けられるのにな……


 身支度をしながらそんなことを考えていた時であった。


「ヒナタ、大変っ! 大変だよ‼」


「リンちゃん……どうしたの?」

 彼女は飛び掛かるように私の机へとやってきた。


「見てよこれ!」

 リンちゃんの右手の中にはスマートフォン。の中にはFOVの公式ランキングの画面。

私にとっては見慣れたものであるが、十時に決まって更新されるため、今日の分はまだ目にしていない。かといって順位の変動が日常的に起こるのは十位より下で、私はゼロ以外そこまで細かくチェックしていないのだけど。


 私はいつもそうしているように、真っ先に上部からゼロの名前を探す。

 先日その順位を一気に上昇させた彼女。その二文字は三位の枠に収まっているはずだ。


「なっ……‼」


 しかし、その名前が記されていたのは別の場所だった。リンちゃんがあんなにも慌てて私の元へ来た理由が一瞬にして分かった。



「ぜ、ゼロが……」



「ゼロが……四位になってるーー⁉」



────────────────



「い、いいいいったっいいったいいいなにっなにがががっががががが」


「お、落ち着きなよ……ヒナタの反応が期待以上すぎて相対的に私が落ち着いちゃったよ」

 リンちゃんに背中をさすってもらい、震えは治まる。が、それでも私の心理状態は赤信号。


「さ、三位には今誰が?」


「それがさ……」


 再び目に映るランキング画面。三位の欄には覚えのある三文字が表示されていた。


「ミルナ……って」

 察しのついた私にリンちゃんは頷く。

「嘘……ミルナちゃんってつい最近FOVに参入したばっかりでしょ⁉ こんな短期間で三位まで上がってきたっていうの⁉」


「信じられないけど……そうみたい」

 リンちゃんはスマホ画面を別のウィンドウへ移す。


「この前さ、FOVのアップデートがあったじゃん?」


「うん」


 彼女の言葉を受け、FOVの大型アップデートが行われた日を思い出す。

 キャッシュクリアがいつでも可能になってログインがより円滑になったことに加え、FOVへ数々の新要素が加わった。


 自分より一つ上の順位にいる相手を指定でき、勝利できればすぐに順位アップできるランクアップマッチ。

 バトル中にフィールドのどこかに現れ、攻撃を当てると様々な効果が発動するサポートボックス。

 新規戦闘BGMの追加やポイントで購入可能なフォースウェアの更なる増加、日記帳の感覚で自分の好きに記して保存することができるデイリーノートなど、目白押しだったのを覚えている。


 そして何といっても、事前段階で盛大に告知されていたライブステージ。



「このミュージックビデオが公開されて、ミルナちゃんの存在が知れ渡っていったのと同時に、FOVの認知度も爆発的に広まっていって……これまでFOVをやってなかった人たちがあの子目当てで始めるってケースも珍しくないみたいなんだ。これっていわゆる、大バズってやつ……?」


 メンテナンスが終わると同時に公開されたミルナちゃんのデビュー曲のMVは、あの予告を見た私たちの想像を遥かに超える完成度であった。更に動画サイトのFOV公式チャンネルにも投稿され、日付が変わる前に100万再生を突破するほどの注目度だったのが記憶に新しい。

 それに伴い、満を持して解禁されたライブステージは大盛況。彼女のパフォーマンスは圧巻だった。

 この成果は間違いなく彼女のカリスマ性によるもので、ヴェルテクスアイドルという新要素はこれ以上ないスタートダッシュを切ったと言って良いだろう。

 そして、FOVのプレイ人口が増えるのも結果としては有難い。


 でも、それでゼロがこれまで積み重ねてきた努力を飛び越えてしまうなんて。


「なんか……すごいモヤモヤする」

 気持ちと表情を沈ませていく私に、リンちゃんは手を引きながら明るく言う。


「とりあえずさ、ゼロ本人にも話してみよ?」



────────────────



「ええ、私も把握しているわ。凄いわね、彼女」

 レイは一切危機感のない台詞と共に携帯の画面を凝視する。


「流石……レイはこんな時もクールだね」

 

「誰かさんのように一々取り乱していても良いことはないもの」


「いっ……あはは……そりゃバレてますよね~」

 リンちゃんから私への目配せに思わず打ち震えてしまう。


「とはいえこのまま彼女に先を越されたままという訳にはいかないわ。今すぐには無理だけど、何か策を講じてはみるつもりよ」


「うん。私たちにも手伝えることがあったら言ってね」


「ありがとう」



「うー……このままじゃレイが……ゼロが……」

 レイの今の心情を聞いた上で、私の心の在り様はますます曇っていく一方だ。


「ヒナタ……本人より深刻な状況として捉えちゃってる……まあ通常運転っちゃ通常運転?」


「私のために悲観してくれるのは有難いけど、こればかりはすぐにどうこうできるものではないわ。ポイント差だってかなり開いていたのをあなたも見たでしょう?」


「……うん……」


 レイの言葉が身体に染みていく。彼女の言うことはもっともで、今私がどれだけ悩んだって変わるものじゃない。

 でも、そんなレイのことを想っているからこそ、気持ちだけでもじっとしてられないんだ。



 ミルナちゃんはアイドル。ゼロがどうにかして太刀打ちするには……


「!」


 一筋の希望のようなアイディアが降ってきた。



 ゼロも、アイドルになれば――?



────────────────



 無数の観客たちに囲まれた円形の舞台。


 そこへ立つことができるのは、ただ一人。


 照明がステージ上の一点を強く照らし出したとき、観客はその姿を目に入れることを許される。


 星屑のような紙吹雪がはらはらと舞い落ちる中、凛としてステージに立つ女性。


 余計な装飾を取り去ったステージに映える、艶麗に伸びる白銀の髪。


 元来の清楚なイメージを崩さず、それでいて華やかな、全く新しいフォースウェア。


 アイドルと言うには大人すぎる背格好なのが衣装の上からでも分かってしまうが、それも彼女に備わった魅力の一つ。


 眠ったように目を閉じたままの彼女。来るべき覚醒の刻を待つように、ホールは静けさに満ちている。


 やがてその目がゆっくりと開かれ、走り出すような楽曲のイントロと共に、無数の歓声が飛び交い始める。


 透明感を極めた歌声、キレがあるなどというレベルではない身のこなし。


 完璧な計算の上、常にベストを叩き出し限界を超え続ける。そのパフォーマンスは、留まるところを知らない。



「……そこのあなた」


「!」


「もっと本気でサイリウムを振りなさい。あなたの応援からは覇気が感じられないわ」


 彼女にはすべて分かっている。一見だろうと古参だろうと、彼女には関係ない。


「私はこの一瞬一瞬、本気で歌い、踊っているの。それに応えられないなら帰ってもらえるかしら」


「……は、はい……」


 その目に捉えられ、彼女の命令を受ければ最後、絶対に逆らえない。



「ゼロ様~! こっち向いて!」


「ウィンク頂戴~!」


「……欲しがりね」


 望み通り……いや、望み以上に、彼女は色気に溢れたウィンクを飛ばす。


「うっ……素敵っ……!」


「眩しすぎる……‼」


 命知らずなファンは、自分からファンサービスを求めてはそのあまりの美しさに次々と倒れていってしまう。



 笑顔を見せない、アイドルらしからぬアイドル。そんな彼女が目指しているのはFOVの最高点。


 そのためなら一切の妥協を許さない姿に、一人、また一人と虜になっていく。



 彼女の名は、頂点の歌姫(ヴェルテクスアイドル)・ゼロ――



────────────────



「う……ふふ……ふふふ……それもアリですなぁ……」


「何かは分からないけどよからぬことを考えているのは確かね」


「……うん」



 ちょっと想定外の出来事はあったけど、この時間はいつもと一緒。そしてこの道は「レイの帰り道」から「私たちの帰り道」へと変わりつつある。


「レイは寄り道とかしたりするの?」


「いいえ、一度もしたことがないわ」


「えー勿体ない! 高校生の放課後は寄り道してナンボっしょ」


「……そうかしら。そもそも歩いて帰宅途中に寄れるような場所なら、一度帰ってからでも問題ないでしょう?」


「分かってないな~~帰り道に制服のまま行くのが良いんじゃん」


「そうなの……?」

 レイは若干の疑いを含んだ表情のまま。


「じゃあ今日はレイも一緒に、このままランチ行っちゃう?」


「気持ちは嬉しいけど、この時間だと母が既に昼食を用意しているだろうし、リョウカも待っていると思うから」


「そっか、それじゃしょうがないね」


「後で、FOVで合流して――」

 レイが言いかけた時だった。


「!」


 交差点に差し掛かっていた私たちの前を、一人の女の子がものすごい速さで駆けていったリードで繋がれた大きな柴犬を連れていたのが辛うじて目に入った。


「び、びっくりした……」


 ぶつからずに済み安堵すると同時に、コトッという音が耳に入ってくる。彼女の持っていた袋から、何かが地面へ落ちたのだ。


「ね、ねえ、何か落としたよー!」

 既に遠くへ駆けていった彼女には聞こえていないようだ。


「どうしよう……追いかけた方が良いかな」


「でも、あの子……犬と一緒なのにめっちゃ速くない? 追いつけなさそう」


「……」

 レイがしゃがみ込んであの子が落としたものを拾い上げると、それが何なのかが分かった。



「これは、墨汁……?」

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