ウィザー・リント ①
私がセットアップを完了すると共に、炎のエフェクトは四方八方へと散り、消えていく。臨戦態勢に入ったということだ。
ここでの戦い方、そしてこのフォースウェアの使い方は、ヒナタから一通り聞いている。あとは私がその力を引き出せるかどうか。
「私はFOVを知り尽くしている……そして、通常入手不可な最高クラスのフォースウェア。フルパワーのゼロならともかく、初心者のあなた如きが勝てるとでも?」
私を嘲るその目は光を失っていた。
彼女が喋っているのは確かなのに、彼女じゃない人がそうしているような、拭いきれない違和感がそこにはあった。
もしかしたら、プレイヤーの人格まで変えてしまうフォースウェアなのかも。
だとしたら尚更だ。絶対に止めなきゃいけない。
「一瞬で終わらせてあげる……はあっ!」
彼女は右手に握った長剣を振るい、私へと遠距離から斬撃を放つ。
剣の軌道に沿った衝撃波が凄まじいスピードで向かってくる。
攻撃に当たるとダメージを受ける。そうならないためには防御する、または回避する。
どのゲームだって、基本はそうだ。
モンバト程じゃないけど、格闘ゲームやアクションゲームだって遊んだことはある。その感覚を思い出して、私は然るべき行動へと臨む。
「守りの魔法、『スターク・ウォール!』」
魔法を唱え、左手を前に出すと、大きな魔法陣が現れる。衝撃波がヒットすると、それらは互いに打ち消し合った。
すごい……本当に防げた。
流石はヒナタの作ったフォースウェア。私でも、リラさんと同等に戦える。
私は少しばかり感動を覚えた。しかし、相手の攻撃は止まらない。
同様の動きで、何度も衝撃波を放ってくる。それに応じて私も都度同じ魔法を唱える。
だけど、こうして攻撃を防いでいるだけじゃ勝てない。どこかで……攻撃の機会を作らないと。
五回ほど攻撃を受け切ったところで、私はタイミングを見計らって右方向へと飛ぶ。
直進する衝撃波を回避し、攻撃用の魔法を撃とうと構える。
「危ないっ!」
「!」
ヒナタが声を上げ、ゼロを抱えたかと思うと、そのまま倒れこんだ。
鈍い音がした。
いけない……そうだった。私の後方にはヒナタたちがいる。私が避けた攻撃が、二人の方へと向かっていたんだ。
「う……」
「ヒナタ……!」
「大丈夫。ちょっと痛いけど」
「えっ……?」
信じられない光景が私の目に映った。
衝撃波がかすめたのか、衣服の肩の部分が切り裂かれ、血が滲んでいる。
「うそ、どうして……FOVでは攻撃を体に受けても怪我しないんじゃないの⁉」
私の怒気を含んだ声に、リラさんは答える。
「それはあくまで通常のフィールドでの話……私の創り出したこのフィールドでは、悪人を制裁し再起不能にするために、予め不適用にさせてもらったわ。そのような場で戦闘用のフォースウェアがなければ……分かるでしょう?」
「そんな……」
ヒナタたちに攻撃が当たらないようにしながら戦わなきゃいけないなんて。
「ほら、頑張って防がないとお友達が大変なことになるわよ?」
「!」
いつの間にか距離を詰められていた。今度はゼロ距離で斬撃を放たれる。
「うわあっっ!」
「リンちゃん!」
防ぐ間もなく、体を地面へ打ち付けられる。怪我まではせずとも、やはり幾らかの痛みは感じた。
「だったら……!」
さらに追い打ちをかけようと振り下ろされた剣を、杖で何とか弾き返し、一度剣の届かない範囲へと距離をとる。
すかさず杖を強く掴んで別の魔法を詠唱した。
「炎の魔法、『ウィルド・フレイム』!」
魔法陣から激しく燃える炎の弾丸がいくつも放たれる。
しかし、それらは相手に当たることなくそのまま上空へ昇る。
「どこを狙っているの?」
リラさんは手を一瞬止めた。
これでいい。失敗したわけじゃない。
私は杖の持ち方を変える。相手から見ればその見た目は箒へと変わっているだろう。
炎が私の元へ戻ってくる、そのタイミングを狙って……
今だ!
「風の魔法、『シュタルク・ウィンド』!」
私の声に反応して、箒の穂先が風を纏った。
「はああっ‼」
勢いよく箒を振り切ると、強い風が起こる。
生み出されたその突風は降りかかった炎の弾丸たちと一体化し、炎の渦となった。
「――っ」
炎の渦は相手の方にだけ広がっていき、彼女を強く弾き飛ばす。
そこには確かな手応えがあった。
ウィザー・リントの専用武装、リント・ブルームは箒と杖が融合したもの。
箒の方では風属性の魔法、杖の方では炎属性の魔法と、持ち方によって使い分けることができるようになっている。……ってヒナタが言ってた。
「すごいよリンちゃん! 初めてなのにウィザー・リントの魔法を使いこなしてる!」
「えへへ、呪文を頑張って覚えた甲斐があった……かな」
「なるほど、Code:01の作成者によるフォースウェア……少しはやるようね」
リラさんは重そうな鎧をものともせず立ち上がる。
その言葉はあくまで私への評価ではなかったけど、ヒナタが褒められたみたいで少し嬉しかった。
「けれど、そう簡単にはいかないわ」
彼女は左手に漆黒の炎を浮かべる。
「⁉」
次の瞬間、私の体を同じ色のオーラが包んだ。
「何……これ……」
意識が朦朧とする。
「リンちゃんっ!」
体中の力が急激に抜けていく。
リント・ブルームが私の手を離れ、地に落ちる。
何とかしなきゃ……そう分かっているのに何も考えられない。
やがて立っていることも苦しくなり、その場へ倒れこんでしまった。
「あれってもしかして、ゼロがかけられた魔法と同じ……?」
「ええ、若しくはそれ以上の――」
「てことは……」
「少なくとも、身体の自由は一切封じられている状態よ」
「そんな……そんなの、勝ち目ないよ……!」
「勝負ありね」




