ペンは剣を愛し
家に帰着した私はいつもと同じくしてFOVへとログインした。
明日、他人とプレイを共にするのだ。彼女の事だから、私の闘うところを是非見たいと言うだろう。恥ずかしい姿は見せられない。
今日も可能な限り精度を上げ、昨日の段階より少しでもCode:00を使いこなすことに努めた。ビルドアップルームで体を鍛え、プラクティスルームで実践。いつもやっていることだが、今日は一層熱意をもって臨むことを心掛けた。自分の動き、相手の動き、セットアップのタイミング、攻撃のリーチ、多くのことに注意を払った。
そのおかげか、いつもより少しだけ手応えを感じた。それだけ体の訴える疲労感も相当のものであったが。
張り切り過ぎた、とでも言えば良いのだろうか。流石に明日、現実世界で筋肉痛、なんてことにはならないと思うけれど。
それでも今日の成果に満足したわけではない。もっと上手く立ち回れると感じた場面も多々あった。
まだ改善の余地は大いにある。自分に足りない部分は自分で埋めるしかないと、改めて実感した。
「零……ちょっと休んだ方が良いんじゃない? おやつ作ったけど、食べる?」
一時的に部屋へ戻った私に母がドアの外から告げる。
「いらないわ。放っておいて……どうせ、FOVのことも碌に知らないのでしょう?」
「……ごめん」
小雨のような言葉を落として、彼女は階段を下りて行った。
「……」
疲れてはいたものの、母の厚意へ安易に甘えることはしたくなかった。
何を成すにも自分一人で。
今までも、これからも、私にはその道しか残されていないのだから。
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「ああ、オッケーもらっちゃったよぉ……」
その夜、私は明日の放課後へのうずうずした気持ちを抑えきれないでいた。
「ゼロさん……しかもゼロさんにフォースメイトはいないから……私がゼロさんを独占できちゃうかも……なんて。えへへ、Code:00使ってくれちゃったりするのかな~~」
校門で彼女にエンカウントしてからこれまでの出来事を、嚙みしめるように一つ一つ思い出していく。
「ゼロサン! スキ!」
「うん好き~~大好き」
「うるさい。そしてキモイ」
「ひどい!」
風呂上がりの母に半ば強制的にリビングを追い出された私は、仕方なく自室へ。
しばらく明日提出する課題へ取り組んでいたのだけど、全然手につかなくて、気づけば彼女のことで頭がいっぱい。
「やめやめっ! 明日の朝リンちゃんに教えてもらおっと」
開放的な気持ちでベッドに飛び込む。
目を閉じれば、彼女の姿、声、しぐさが細かに浮かんでくる。
目を開ければ、棚に飾られた、公式から出る前に自分で作ってしまったゼロのグッズ達。
注意してても自然とにやけてしまって。彼女のことを考えていたら、我慢できなくなってしまった。
ちょっとだけ……FOVやっちゃおうかな。
あまり音を立てないようにして私はFOVへログインした。
今は夜間で、公式戦が行われる時間帯ではない。そのため、また新しいフォースウェア制作を進めることにしようとパソコンを立ち上げると、私の目に予想外のものが飛び込んできた。
一つの通知だ。このパソコンにくるメールっていったら……私はゆっくりとカーソルを動かし、メールボックスを開いた。
「えっ嘘‼ もう⁉」
画面が示した内容は、昨日申請に出したあのフォースウェアの審査が既に終わったということ。
そして、
「……やった……」
審査が通ったということ。つまり、私のこのフォースウェアが実際にゲーム内で使えるようになったということだ。
「んー頑張った甲斐があったなー」
椅子が壊れそうなくらいのけぞって背伸びをした。どんな形であっても、自分の作ったものが評価される、というのは素直に嬉しい。今日は嬉しいことづくしの日だ。
「あ……そうだ……!」
ある考えが私の中に浮かんできた。それは私にとって、千載一遇のチャンスだった。偶然に偶然が重なって生まれた、たった一度の機会。
彼女は断るかもしれない。けど、やってみる価値はある。
このフォースウェアを、ゼロさんに……!




