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FORCE OF VERTEX ―喪失の剣と創造の筆―  作者: ぶれいず。
Stage 03 Passionate Game
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落とし物

 上見さんを保健室に残し、自宅へと戻った私は部屋で一人、カーペットの上に座り込んでいた。


 傷つけてしまっただろうか。


 きっと彼女に悪気はなく、ただ純粋に私を過大評価し称賛していた。だが、私にとってはそれがかえって気に障るように感じられたのだ。


「他人にどう思われても構わないだなんて……これではまるで矛盾しているじゃない」

 自分をひどく戒めたいという感情が込み上げてくる。


「とりあえず上見さんには明日、一言謝罪しておいた方が良いわね」

 半ば無理やりに思案を止め、今日は先に着替えてからFOVの準備を始めた。


「おねーちゃーん」

 例の如く妹が部屋にやってきた。


「きょうも『えふおーぶい』やるの?」

 いつの間にか私がプレイするゲームの略称を憶えている。どこでそんな機会があったのだろうか。


「ええ、そうよ。昨日と同じ、遊ぶのはその後ね」

「わかったー」

 彼女は文句を言うことなく、すぐに自分の部屋へと帰っていった。今日は随分と聞き分けが良い。


 インストールとプレイは完全無料であるFOVだが、その代わりに一つ、購入しなければならないものがある。

 私は本棚の上に飾ってある、ヘッドホンのような形をした機器を手に取った。これこそが「ヴェルテクス・ギア」だ。

 FOVにおいて、自分のデータを作るために必ず必要なもの。これを装着してログインすることで、自分がアバターとしてプレイが出来る。

 FOVの世界に入った途端に体から消え、こちらの世界に戻った際に再度現れる。その仕組みは全くもって明かされていない。

 持っていなくてもプレイ自体はできるが、ログインする度にゲストプレイヤーとして、つまり初回プレイ時と同じところから始めることとなってしまうのである。

 言うなれば、身に着けるセーブデータ。


 そして、もう一つ……


「あら?」


 学生鞄を開けた際に違和感があった。本来あるはずのものがなかったのである。

 ヴェルテクス・ギアはそれ単体では役割を成さず、もう一つ、FOVには初回プレイ時に手に入る免許証のようなものがある。

 それが「FOVライセンス」であり、自分の情報を書き込んだ後、現実世界に持って帰れば使えるようになる。そしてライセンスを差し込むことで初めてヴェルテクス・ギアはデータを読み込み、本来の動作をする。

 自宅でプレイする人は、差したままにしておく場合が多いようだが、私は手帳に入れて肌身離さず持ち歩いている。自分で持っておく方が、安心感があるのだ。

 しかしそれが裏目に出るとは不注意が過ぎた。前ポケットの中も見たが、ライセンスの入れられた手帳は見当たらない。


「どこかで落としたかしら……」

 自分でもみっともないとは思う。FOVで高みを目指す者が、それにおける必需品を失くしてしまうとは。

 しかし、起こってしまったことは仕方ない。私は自身の今日の行動を思い返すこととした。


 ……今日は、少しだけいつもと違う日だった。

 一人の同級生と少し話した。それだけのことなのに、私にとって少なからず意味を持っている、何故かそんな気がした。そんな中で、思い当たる部分が一点だけあった。保健室だ。

 私は上見さんを保健室へ連れて行った後、彼女が目覚めるまで椅子に座り、図書館で借りた本を読んでいた。きっとその本を取り出す際に落としてしまい、そのまま気づかなかったのだろう。

 彼女に呼ばれた場所へ行くまでは鞄の中にあったのを覚えている。保健室を出て以降、ここに来るまで鞄を開けてはいないことも確かだ。

 だが、今から学校へ戻っている時間はない。明日の朝、保健室へ行き、見つからなければ学校中の落とし物入れを、それでも駄目なら……


「再発行しかないわね」

 ライセンスを紛失した際は、本人であることを証明できるものがあれば、再発行してもらえる。私はライセンス裏に記載されてあったシリアルコードをメモしたものを持っているため、それで十分だろう。

 しかしながら、再発行には少なくとも三日はかかる。データが失われないだけ有難いことだが、私にとって三日という時間は惜しいのだ。

 三日もあれば、どれだけトレーニングができるだろう。どれだけ自分の目的に近づけるだろう。

 更に言えば、残りの今日でさえも惜しいくらいだというのに。


「……丁度良い戒めになるかしら」

 焦っている自分にそう思い込ませることとした。


 私はヴェルテクス・ギアを元あった場所に置き、妹の部屋へと向かう。


「リョウカ、予定が変わったの。今から遊んであげる」

「ほんと⁉」

 私の言葉を聞いた途端、リョウカは目の色を変える。既にトランプを床に広げて準備も万端であった。


「りょうかね、おねーちゃんがかえってくるまえからずーっとれんしゅうしてたんだ。だから、きょうはおねーちゃんにまけない!」

「そう……努力家なのね」

「うん! りょうか、どりょくかなのー」

 私にもこんな無邪気な頃があっただろうか。

 懐かしもうとする自分を制して、私は妹の向かいに座って彼女の遊びに付き合うのだった。

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