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毒と浄は輝玉に宿る  作者: 狐池
夢をさます手
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095 船旅3

丁度6週目に並んでいたところだった。

ナナが駆け足で船倉に入ってきて駆け足で最後尾の俺のところに並んだ。

「やっと合流できたね」

合流しようとはしてなかったけど合流できたのは嬉しい。

「ほんとに久しぶり」

「久しぶりではないけどね」

「うん、あんまり考えずに言ってた」

「まあだとしたらそんなことも言っちゃいそうだけど」

そんなたわいもない事を話しながら運んで行く。今度は同じ道だ。

「あ、あの人」

ナナが向いている方には一人の男性が海を眺めている女性に歩み寄っていっている。

夕焼けを背景にしていたらすごくロマンチックな画になっていただろう。

いやそんなことはなかった。女性はよく見ると逃げ腰というか後ずさりしているというか。

「あの人がどうしたの?」

「さっき捕まってた」

「それは…比喩的な意味で、だよね?」

「もちろん!監禁されてたわけじゃないよ」

「だよね、よかったよかった」

「良くはないよ」

「なんで?」

「いろいろと話しかけられたんだよ」

「でもそれを言ったら俺も最初は色々話しかけたんじゃない?」

「そういえばそうだね、なんでだろう」

ナナはしばらく黙って

「あ、そうだ、手を見せてとか言われたんだ」

「それがそんなに嫌だったの?」

「そうだよ、だってまだ他の誰にも…まあ家族は知ってるけど、みんな私みたいな感じだし」

「ああ、あの前言ってたナナが同族居ないってのが手に出てるって事?」

「…そう」

「でもそういえば家族もいるって言ってたのに何で同族がいないの?」

マリアナさんのように一族殺されたりしたのかな、だとしたら訊かなかった方がよかったかもしれない。

「詳しくは言えないけど、家族みんな私とは違うから」

「じゃあ家族が殺された訳じゃないんだ、良かった」

ナナは一瞬驚いたような顔をして

「分からないけど多分大丈夫、皆きっと生きてる」

分からないっていうのは不安だけどでもナナの声は明るかった、だから俺も心配することはしなかった。

「ところでナナ、つまりナナは人に手を見せないって事?」

「手だけじゃなくて顔から下の素肌は全部だよ」

「そんなこと聞いてない」

「念のためだから念のため」

「人の事なんだと思ってるんだ」

「そんなことないよ」

シュン

空気を切る音がする。冗談交じりで話していたらあっちの人のナンパにも進展があった様だ。いや進展というよりは決着か?

遠くから頬をかすめるように矢が飛んで行ったのだ。男性の方は顔が引きつっている。矢が飛んできた方を振り返ってみると笑顔のもう一人の男性がいた。その男性は弓を持っていて長い耳が髪から突き出ている美青年だ。あー笑顔が非常に怖い。自分に向けられていないのに背筋が寒い。

「よし、去ろう」

「うん、ここに居たらよくない」

二人そろってそそくさと逃げだす。背後から差す光が前に影を作る。

恐る恐る後ろを振り返るとさっきの女性が体の半分を光に変えてその四肢の末端を木の根の様に広げ自然を操って攻撃している所だった。

言葉にするとなおさら意味が分からない。

「我は精霊、与えられし五源は暗黒。いましばらくは罪を償え」

その言葉と同時に深海の黒色が宙へと飛び出してきた。それはしばらく滞空してから矢のようにあの男の人に降り注ぐ、一方矢を打っていた美青年は降り注ぐ暗黒の雨を見もせずに女性に駆け寄り抱きしめ、頭をなでていた。精霊って言ってたな、それにあの耳って確かエルフって呼ばれる種族の、じゃあ契約してるって事か?…考えたら負けか。

気にせずに作業に戻ろう。

「ナナ、行こう」

「あ、うん」

まあ死んではないだろ、多分。


作業をしていると時間は思いのほか早く過ぎ去り、夜は手伝いに感謝するとかで空いた船倉でパーティの様な物が開かれた。パーティには興味があったので寄ってみようと思ってナナにも訊いてみたが、ナナも来るらしい。ナナが行かないのなら俺も行くのをやめようかと思っていたので、それにナナが付いてきてくれることも含めて、嬉しい。

結局は隅っこの方で大人しく食事をするだけになってしまったけど、まあ何事も経験だよね。

昼間の二人組は精霊が空を浮きながらダンスしていた。もしかして相手が近くにいると本気を出せるみたいな?


部屋に戻ってきたのは意外とすぐだ。ナナは人と関わってないからか意外にも大丈夫そうだったが、俺が眠気に耐えられなかったのだ。

そしてそのまま、ナナに部屋の真ん中を譲ることもできずに眠りに落ちてしまった。




赤子が持ち上げられている。

目の前には小さな水を張った桶。これから行われる沐浴は禊であり、証明であり、処刑である。穢れは判別しなければならない。異常は分別しなければならない。何より、我々は我々を生かすこの地に、神に幻滅されるわけにはいかない。

よって、これは正当な儀式である。そうやって何代も受け継いできた。そしてこれからも続いていく。

赤子が水の中に入れられる。途端、水中からは泡が立ち上り、赤子の皮膚は大火傷のように爛れ、その喉からは音にならない泣き声をあげる。

そのたびに口から体内に侵入した水が体内に甚大な被害をもたらし、やがてその桶は静かになった。それを確認すると周囲の大人は慎重にその容器を運び、やがて石で出来た枠組みにつるされた縄にその容器をくくりつける。それは釣瓶だった。二度と上げられることのない、そこまでの片道切符。その釣瓶は落とされ、毛様はないとばかりにその井戸の蓋は閉じられた。まるで棺桶のように。


物心ついてからずっと何も見えなかった。ずっと真っ暗闇だったから、

物心ついてからずっと不快な音が聞こえていた。今になって思えばそれは腐った肉の崩れる音、ウジ虫が蠢く音。

物心ついたてからずっと鼻に死の匂いがこびりついていた。きっともう鼻は壊れていた。

最初に思ったことは喉が渇いたという事。幸い空中から水が現れたので助かった。次に思ったのはお腹が空いたという事。幸い食事は出てきたのでそれを食べた。けれどとても気持ち悪くて食べる気にはならなかった。

ずっとそんな風に過ごしていた。そこはとても窮屈で、暗くてじめじめしていて、終始気持ち悪くて嫌だった。どれくらいの時間が経っただろうか?昼も朝もなく、晴れも雨もなく、ただが息が体を侵食するような吐き気だけで構成されたその空間は地獄だった。



ある日、少しだけ明るくなった。不思議だった。何が起きたのか分からなかった。その後に来たのはゆっくりと持ち上がる感覚だった。

ああ、空が近づいてくる。空気は少しずつ澄んできて、でもそれがすごく不安で息苦しくなった。音は少しずつ激しくなってきた、聞いたこともない音が空では絶えず鳴り響いているのだと知った。見知らぬにおいが鼻を刺激した、いい匂いで憧れと興味が胸の中に沸き上がった。光が眩しかった、目が開けられなかった。その瞬間すべては絶望と恐怖に塗り替わった。やめて、欲しい。やめて欲しい。やめてやめてやめてやめて!


あなたは絶望を連れてやってきた。私が知らない全てはあなたと一緒にやってきた。私はその瞬間すべてが嫌いになった。




でも、あなたは私の希望になった。




「陸地が見えて来たよ」

ナナのその声で俺の目は覚めた。二泊三日の船旅もこれにて終了というところだろうか。急ぎ甲板に出て甲板から陸地を見つめた。

なんだかんだ言って色々あった船旅だけど、終わりはあっさりだった。

陸地が迫り、港に止まり、そして陸地に降りた。

「おお毒助」

「どうしたんです?」

「あー、ここが何処かを教えておこうと思ってな」

「どこなんです?」

「中央大陸最南西の小国だ。ここで物資の補給とか人員の補充とかを行ってまた出発する」

「船倉整理の目的がそれですね?」

「ああ、そうだ。それと、今日いっぱいはこの港に船は止まってる。観光でもしてきたらどうだ?」

「はい!そうします」

ナナの方へ向き直る

「行こう!」

「うん」

全く知らない国を観光しに行く、一日の旅の始まりだ。


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