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毒と浄は輝玉に宿る  作者: 狐池
夢をさます手
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094 船旅2

景色が一向に変わらない。その景色を背景に、その声と会話が進む。

相変わらず会話の内容は聞き取れないが、ぼんやりと声が聞こえる。

もう長い事そのままでいたような気がする。そんな長い時間の後に急にあたりが明るくなる。その光は俺が今見ている視点を中心としている様だ。

そしてまたしばらくするとかつんかつんと甲高い音を立てて視点が前へと進みだした。


あちこちを歩き回った気がする。

色々な物を見た気がする。途中青空も夜空も見えた気がする。

時間の感覚はめちゃくちゃになっていると分かるけど、それでもきっとすごく長い旅だった気がする。

そして最後にはもう一度洞窟の中に戻った。

そこからはまた真っ暗な空間を光が照らしているような景色が続いた。

だんだんと意識は鮮明になっていき、言葉もはっきり聞こえるようになってきた。それでもまだ聞き分けることは出来なかった。


「ああ、もうお別れの様だ」

その理由はすぐに分かった。足音が近づいてくる。

「でも君にはいいかもしれないね」

別れがつらい事は会っても嬉しい事はないだろう。だから「何故?」と聞き返した気がする。

「不本意な形かもしれないけど君はきっと限りなく人間に近づく。誰も君の体に違和感は感じないだろう」

そこで自分の望みが人間の体を手に入れることだと気づいた。

「大丈夫、やっぱり僕に会いたいと思ったのなら戻って来ればいいさ」

なんて返したんだろう?知らないし、分からない。

「分かってるよ、もしくはこっちの体が恋しくなったら、だ」

足跡が近づいてきて、地面に影が出来る。

人間だ。そしてその手に持った何かが振られ…

「じゃあね、また縁があればまたいつかここで、我が所有者(マイマスター)

それが彼からの最後の声だった。

視界は一瞬まばゆい光に包まれて真っ白になり、やがて暗転した。

その暗い世界の中で

「最後に一つ伝えておくよ」

その言葉は、夢の誰かではなく、俺に向けられていた気がする。今夢を見ている俺に。

「結合はどんどん弱くなっていくだろう。だからもしこの体が恋しくなったなら急ぐといい。時間はそこまでないから」



夢を見ていた。それは覚えてる。だけど、その内容まではほとんど覚えてない。でも、誰かに最後すごく大切なアドバイスをもらった気がする。

「どうしたの、難しい顔して」

「夢が思い出せない」

「夢は思い出せるほうが珍しいんじゃない?」

「まあそうか」

「そうだよ、だからそのことはもう考えずに」

「そうだね」

甲板に出る。今朝はなんか船全体が慌ただしい。

丁度そこにいた…いた…そういえば名前聴いてない。

「あの…」

「ん?どうした?」

良かったちゃんと伝わった。

「何が行われてるんですか?」

「もうすぐ次の港に着くからそれまでに船倉の中身を整理してるんだとさ」

「もうすぐってどれくらいですか?」

「俺も詳しく聞いた訳じゃないんだがな、どうやら明日のようだぞ」

「明日の」

「いつかは分からねえ、ちゃんと聞いた訳じゃないって言っただろ」

「そっか…」

「そうだ、手伝いに行けばどうだ?なんかいいもん貰えるかもしれねえぞ」

「だって」

「私に言わないで」

「じゃあ行ってみようか」

「ありがとうございます」

「行ってきなー」

「ナナ凄い影薄くしてたね」

「基本喋らないって言ったでしょ」

「一応人見知りなんだっけ?」

「一応とは何だ一応とは」

「だって話そうと思えば話せるじゃん」

「軽度だとしても一応人見知りだよ」

「一応?」

「…人見知りだよ」

カン、カン、カン

遠くから甲高い音が聞こえてくる。この聞き覚えのある音はきっとあの人だ。

「どうしたの?」

「昨日の石くれた人がこっちに来てる」

「なんで分かるの?」

「足音」

「ほんとだ、する」

次の瞬間、あの時の男性が顔をのぞかせた。

「おお、昨日の方ではないですか」

「昨日は良いものをいただきました。ありがとうございます」

まあ食べれはしなかったけど。

「またいい宝石が手に入ってそれが余った時はぜひ私にお譲りいただきたい」

「こちらこそ、その時はまた何かの宝石をください!」

次こそは食べて見せる。

「もちろんですとも」

その後挨拶をして別れた。やっぱりいい人だ。

「そんなに宝石が好きなの?」

「どうやらそうみたいだよね、なんでかは分からないけど」

「そっちじゃなくてフェリックスのことを言ってるんだよ?」

「あ、そうなの?でも俺はそういうわけじゃないよ」

「でもさっき宝石を欲しがってたじゃん」

「それは、多分違うと思う」

「何が?」

「分からないけど」

「まあいっか」

「それより船倉も近づいてきたよ」

「だね」

船員の数が増えてきた。それはすれ違う人も同じだ。

船倉に着いた。

結構な人の出入りがあったけど、それでもまだ船倉には結構な荷物が残っている。よく見るとそれらは大きく二つの山に分けられていて、片方からは樽やら袋やら木箱やらが運び出されているけれど、もう片方はそこに持ち込まれることはあってもそこから持ち出されることはない。どうやら後者の方の積載物の山は取っておくものらしい。

「じゃああっちに行けばいいのかな?」

「確かにほとんどの人があっち行ってるね」

「さあ行こう」

列に並び、前に出るのを待つ。

「でも何を整理してるんだろう」

「船の荷物でしょ?」

「それはそうなんだけど」

「腐った食べ物とかかな?」

確かにそれはありそうだ。

というかこんなにたくさん何が入ってるんだ。ナナとあれこれ予想しながら進む。

「武器じゃない?」

「道具かもよ、双眼鏡とかの」

「それなら船の補修材料とかも入ってそうじゃない?」

「後は普通に食べ物の備蓄かな?」

「お酒とかも入ってるって事なのか?」

「もしかしたらそうかもしれない」

ひとしきり話し終わり、俺たちの発想から出てくるものはもうで切ったあたりで、俺達の番が来た。

俺には袋、ナナには小さな木箱が渡された。

「何だろうね、これ」

「こっちも何だろう」

「でも開けるのはやめておこうか」

「そうだね」

「ところでこれどこに運べばいいの?」

「分かんない」

「こっちだ」

顔にいくつもの切り傷を付けた男性に声をかけられた。あの顔は船乗りは船乗りでもまるで海賊のようだ。でもきっとそんな危険な人ではないと思う。だからついていってみよう。案内されたのは木と金属で組まれた装置がガタンゴトンと音を立てて動く部屋だった。

これもしかしてエンジンルームみたいなもの?

この世界だし多分動力源は魔力なんだろうけど

「この箱の中だ」

「入れればいいんですか?」

「ああ」

どうやら入れるだけでいいようなので入り口が小さくとも仲がすごい広い箱の中に運んでいた荷物を放り投げた。

「あの中で魔力に変えるんだ、樽以外はこの中だ。樽は甲板に持ってけば分かる」

それだけ言うとその人は去っていった。顔は怖いけど親切だしやっぱりいい人だ。にしても物体を魔力に変えることもできるのか。という事は逆もできるのか?想像したものを自在な物質に変化させるとか。

でも実際魔術で岩を生み出したりできるんだしそれと同じような物だろうか?そのあたりも違いがありそうだが俺には分からない。今度会ったときにローシェさんに聞いてみるか、覚えてたら。

「2週目行こう」

ナナの声で我に返る。

「うん、行こう」

2週目には木箱と樽を渡された。つまり別々のルートをたどったという事だ。その後はしばらく合流できなかった。



「そこにいるお嬢さん」

「誰ですか?」

「名乗るほどの者ではありません」

じゃあ話しかけないでください、という言葉を飲み込む

「何かの用ですか?」

「いえいえ、ただあなたの後ろ姿がきれいだったので」

じゃあ話しかけないでください、という言葉を飲み込む。

「そしてやはりあなたの目もきれいだ」

「それだけですか?」

「はい、ですが」

じゃあ話しかけ|(以下略)

「少しお話がしたいのですよ」

「でも今船の倉庫から荷物を運んでいる所なんです」

「あなたの姿はきれいですね、良ければあなたの手も見せて頂けませんか?」

「…ゃだ」

「よく聞こえなかったのですが、もう一度おっしゃっていただけませんか」

本音を抑える。

「きっと見たらもう二度と綺麗とは言えないと思いますけどね」

「いえ、そんなことありませんよ、私はそんなこと言いませんから」

「あなたに嫌われることは気にしないので見せても良いですけどまだ他の誰にも見せてないので嫌です」

「それはどういう意味かな?」

「他意はありません」

「そういう意味じゃないんだよ」

「どうした?確か毒助の隣にいた奴」

毒助という言葉が少ししてフェリックスに結び付いた。

「なんですか?」

「今の間は何だ今の間は!」

「すいません直ぐに毒助とフェリックスが結び付きませんでした」

「それなら仕方ないか…ところでそっちのは知り合いか?」

「いえ、違います」

「何の話してたんだ?」

「手を見せてって言われました」

「は?」

どうやら困惑している。でもそれ以外に伝えようがない。

「まあそれは良いとして、毒助とはぐれたのか?」

「はい、そうなんです」

「毒助ならさっきエンジンの方に運んで行ってたから…今から船倉向かえばちょうど会えるんじゃねえか?」

「なら急がなくちゃ、ありがとうございます」

「おー」

適当な返事を背に急ぎ足で歩く。

「で、肝心の変なのどこ行った?」

一人残った通称噛ませ犬のリーダーがいつの間にか消えた男を探していた。



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